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ロア・オブ・ライフ  作者: 爺々屋
南部国・ドバレア編
25/82

『竜王申し』

「……ッ、はぁ……!はぁ……!……はぁー、ふぅ、はぁー……」


「燐光」を発動した反動で息を粗くしながら、俺の下で横たわる飛竜を見やる。

 足裏で呼吸や心拍を確かめてみるが、飛竜は既に物言わない死体となっていた。

 額の汗を拭いながら、疲労の色を多分に含んだ息を吐き出す。


「はあー……勝ったー……てか、勝てたー……」


 バルガと共闘して、辛勝した。

 とっても疲れた。疲れました。

 終わってみれば、よく倒せたという気持ちよりも、よく二度も立ち向かうことが出来たなという疑問の方が強い。

 自分の向こう見ずさというか、無鉄砲さには呆れるばかりだ。


 息を整えながら町の中央の方の空に目を向ける。

 黒い煙がもうもうと上がってはいるが、空に飛竜の影はない。


 ポル、もしくはフェインさんが全て片付けてしまったのか?

 そうだったらいいんだけど、と独りごちながら飛竜から降り、パルガと一緒に取り敢えず教会の方へ戻ろうとした時。

 ふと、少し離れた屋根の上、空中に複数の気配を感じ取る。

 

「……はぁ~……まだ、居るのかぁ……」


 聴覚に、神経を集中させる。


『ギャオオオオォォォオ……!』


 少なくとも三匹以上分の飛竜の鳴き声が折り重なって聞こえた。

 もしかして、俺とパルガが今やった奴の増援に来た?

 おいおい……


「勘弁してくれ……もう、疲れたんだけど……」


 これ以上は無傷、というよりも無事にいられる自信がない。

 このままだと見つかり次第やられてしまうだろう。

 諦めかける自分を叱責して、声が聞こえた方の空を油断なく見て、集中する。


 たたたたたっ、と人が走る音。歩数が多く、速く走っているのがわかる。


「……(ふう)跳躍(ループ)


 小さな声と共に、屋根からフード付きのマントを纏ったポルが飛び、向こうの家の屋根に着地していた。


「ポルッ!」


 ポルは俺の声に気付きこちらを向いたが、脚を止めることなく屋根の上を走り続け、ハッキリとした声で俺に告げた。


「危険。逃亡……ん。(おん)(シード)捕縛キャプチャー


 えっ、と上を振り返る。

 俺の頭上を一体だけでも圧倒的な存在感のある飛竜が五匹、ポルを追い掛けるように今まさに飛んでいった。

 五匹の飛竜が生む風に目を細めながらも、進行先を見つめる。

 ポルは魔法を使って飛び、黒い弾のような攻撃の魔法を当てているようだが、飛竜が怯む様子はない。


 悪いことは、重なる。

 飛竜に追いたてられているポルが逃げた先には、多くの人が避難している教会がある……!


「ああ、くそ、これで仕事は終わりかと思ったのに……めんどくせー!」


 ポルを助けるため、人々を助けるため、飛竜を倒すため。

 様々な理由を胸に抱きながら教会への道を走り、頭の上を飛ぶ飛竜とポルを追い掛けていく。


「おらぁああ!俺がここに居るぞぉぉ!このロリコンどもぉぉ!」


 大声を出して飛竜の気を引こうとしてみるが、十八歳を越えた男の俺には興味が無いらしく、飛竜達は一心不乱にポルのことを追い続ける。


「ちくしょう!なんで、一匹も、釣れないんだよ……!おぉい!こっちを向けー!」


 俺も道々の木箱や瓦礫を乗り越えながら、空を行くポルと飛竜たちをとにかく追い掛ける。

 横腹どころか、空気の入れ替えが激し過ぎて肺が痛い。


 やがて俺とパルガが戦っていた場所からそう遠くない場所にあった教会にたどり着いた。

 空には三匹の飛竜。残りの二匹は家の屋根の上にいる。

 ポルはかなり高さのある教会の屋根に立っていた。

 十字架に丸が加えられたような教会のシンボルと思われる物体に手を掛け、いつもの無表情で周りの飛竜達を眺めていた。


「ポルッ!」


 名前を呼ぶと、ポルは手で小さく「あっちにいけ」と示す。

 あんなにも飛竜に囲まれて、無事でいられるのか?

 しかし、パルガならまだしも、今の俺では何も出来ない。

 指を咥えてるしかない。


 しかし飛竜たちはポルを囲うものの、未だ攻撃を仕掛けてはいない。様子を見ているのか。


「……(おん)(シード)……発動(インボーク)


 ポルが口を動かすと、変化が起こる。

 飛竜の身体からゴボゴボと黒い触手のようなものが生まれ、腕、翼、口などを拘束し始めた。

 空に浮かんでいた三体は抵抗する間もなく地に落ち、飛竜のどれもが身動きが取れなくなっていた。


 これは……ポルが俺を逆さ吊りにした魔法と同じだ。

 だが捕らえただけのようで、触手の下で飛竜たちはいまにも千切りそうな暴れようだ。


「……(すい)


 ポルの方を見る。魔法を使おうとしているらしく、両手を天に向かって上げている。

 魔法を使う時は手をかざすか、構えさえしない、あのポルが。

 それが、これからどんな魔法を使うのかを想像させた。


弾丸(バレット)……集束(ゲザー)


 ポルの両手の上に水のような塊がコポコポと湧き出るように生まれ、浮かぶ。


集束(ゲザー)


 その水の塊が、


集束(ゲザー)


 不自然なくらい、


集束(ゲザー)


 膨らんでいく。


 水の塊は、教会を簡単に覆いつくせる程に巨大になっていた。


 水を通過した日光がゆらゆらと揺れる。それ所為で、まるで自分が魚にでもなったような気分だった。

 協会を潰せる質量を持つだろう水の塊に、美しさを感じた。


目標(エイム)……固定(セット)


 だが、下を見ると、飛竜たちを縛っていた触手が切れ始め、少しずつ飛竜が動きだしていた。


連続(ストレイト)螺旋(スパイラル)貫通(ピアース)


 触手が千切れ、自由になった飛竜が一匹、また一匹と増えていく。


付加(エンチャント)(らい)


 遂には五匹全てが解放され、拘束していたポルを睨みつけている。

 当のポルは頭上の水の塊を見つめたままだ。


「くっ!……ポルッ!」


 ポルが魔法を使おうとしているのは理解しているが、我慢出来ずに叫んでしまう。

 そして、様子見を済ました飛竜が唸り声をあげ、上方、下方、横からと逃げ場を無くすようにポルへと襲いかかる。


『ギャオォォオオォオオ!!』


 ポルは指を揃え、広げたまま、掲げていた両手を振り下ろす。


執行(エクスキュート)……」


 そして腕を、交差させる。


「……『竜王申し』」


 すると。


 巨大な水球から太い槍のような水柱が、轟々と、うねりながら、何本も吐き出された。


 勢いのついた飛竜はもはや逃れれらず、水柱に身体を貫かれる。


 飛竜の黒い身体に白い電気が奔り、紅い血は水で薄まって散っていく。


 やがて飛竜は全身を痙攣させて、抵抗も出来ずに次々と地に落ちていった。


 滝が落ちるような豪快な音の奔流の中で、さっきまで脅威の象徴だったはずの飛竜が声も出せずに絶命する。


 それもまた、一匹、また一匹と。


 五匹全ての飛竜が死ぬまで時間はそう長く掛からなかった。


「…………おお」


 気の聞いた感想が出てこない。


 飛竜を蹂躙した魔法と、陽光に反射する水飛沫を見て、感嘆の声を洩らすことしか出来ない。


 教会の周りの土は水や飛竜の血でぬかるみ、近くで見ていた俺も随分と濡れてしまった。

 飛竜の死体の脇を通って教会の上に居るポルに声を掛けようとしたら、ポルはふらりと力なく倒れ、頭から落ちてきた。


「………なっ!?ポルッ!」


 走り、ポルに飛びつく。先回りしてくれていたパルガが俺の身体ごと受け止めてくれる。ナイス。


「ポル!」


 腕の中のポルをばっと見ると、安らかに、スヤスヤと、寝息を立てて眠っていた。

 良かった、無事だった。

 俺が居なくともパルガが助けていたとは思うが、心臓に悪いにも程がある。


 ぎぃ、と教会の扉が開く音が聞こえた。

 中から顔を覗かせたのは、俺が教会へ案内した人の中の夫婦だった。


「黒づくめの方……静かになりましたが、飛竜は……?」


 夫の方が教会の外を見渡すと、間もなく飛竜の死体を見つけてギョッとする。


「こ、これは……!貴方がやったのですか!?黒翼竜(ブラックワイバーン)を、五匹!?」


 死体を見て安心したのか、外に出てきた。

 そして唾を飛ばしかねない興奮した口調で「あなた」「倒す」などの単語が聞こえたので、苦笑して首を横に振る。


「これ、女の子、倒す」


 腕の中のポルを見せるようにすると、夫は飛竜の死体を見た時よりもギョッとして、動かない。どうした?


「あ、貴方……外の飛竜たちはどうなったんです?」


 夫の後ろから、不安そうな顔の妻の方が尋ねている。


「あ、ああ、その……倒されたようだよ……その、彼女に」


 夫はポルを指差すと、妻は驚いたような顔をしてポルを見つめる。


 なんとなくだが、彼らの言いたいことが伝わってきた。というか、感じた。

 同時に前から薄々感じていたものを確信に変えた。


 ここ数日、このドバレアの町で過ごして、俺とポルは両方とも奇異の視線を浴びた。

 だがそれの大半が俺ではなくてどちらかというとポルに向けられていたことを感じていた。


 ドバレアの町にいる連中はどれも肌が白く、金や赤などと言った髪の色である。


 ……多分、差別があるんだ。


 俺は元の世界、地球での人種差別について特別な感情を抱くほど、外に対して意識を向けている訳ではなかった。

 だがこうして目の前で知り合いが、明らかに避けられているのをみると、もやもやする。

 だがここでポルが飛竜を倒したから感謝しろ、なんて言ってもそれは押し付けがましいだろう。黙るのが得策だろう。


 ……何処にでもあるんだな、こういうことは。


 少し、異世界にがっかりした。


「黒づくめの方」


 教会の中から美青年が夫婦を押し退けるように出てきた。俺の顔を見てから、じっとポルのことを見つめ言う。


「……お疲れ様でした。積もる話もありますが、勇者であるその少女は大変疲労しているでしょう。魔物も一緒で構いません。さぁ、中へ」


「……ああ、わカった」


 ポルを抱えたまま、教会の中へ入ろうとした。

 すると妻の方の婦人が、顔を青くして唇を噛みながらも近づいてきた。


「あの、黒づくめの方……この子が……飛竜を、倒してくれたんですよね?」


 黙って頷く。

 すると婦人は眠るポルの手を恐る恐るとだが、しっかり握りしめ、ぎゅっと目を閉じる。


「私たちを、救ってくれてありがとう、ございます」


 ……結局どこの世界だって、強いのは女の方なのかな。

 夫の方は後から億劫そうに近づいてきて、顔色を悪くしながら傍に立っているだけだった。


 気付くと、教会の入り口付近に避難していた人たちが距離を置いて集まり、ヒソヒソと話していた。


「……ボルボ族がオレらを助けてくれたってのか?……」

「……あの人、なんか猿の手を握ってるし……」

「……女の子だな。本当にアレが飛竜をやったのか?……」

「……やだ、茶色い肌。汚い……」


 微かに聞こえた話の内容が断片的に耳に入る。


 婦人のお陰で心が軽くなっていたというのに、また気分が悪くなってきた。

 自分が助けられたという自覚も無しに、遠巻きにポルを見ている奴らにイライラする。


 待っていても止まないヒソヒソ話に堪忍袋の緒が切れそうになったとき、一人の子どもが群衆から離れてこちらに歩いてきた。

 俺が教会に連れてきた人の中の一人の、膝を怪我していた男の子だった。

 後方には母親らしき人が心配そうに立っている。良かった、会えたんだな。


「えっと、黒い髪のお兄ちゃん。助けてくれて、ありがとう」


「……あー。俺、助けル、違イ。女の子、教会、みんな、助けル」


「え?うーんと……うん!ボルボの人も、ありがとう」


 俺の言ったことが理解出来たかは知らないが、キョトンとした後に、眠るポルにも笑顔で感謝していた。


 子供は、純粋だから良いな。

 なんだかそんなことだけで、気持ちは楽になって、嬉しくなった。




 ▽▽▼




 教会内に入り、ポルをパルガの上で横たわらせた後にも、遠巻きに見ていた者達が少しずつだが集まってきていた。


「その……ありがとう。ボルボ族に救われるとは思わなかったよ」


「こげな小さな女の子に、黒翼竜任せたことが恥ずかしだな……ありがどぉ」


 皆、少しずつだが、感謝の意を述べていく。その中には俺が道中に助けた人達もいた。


 しかし中心のポルは我関せずと眠ったまま。

 起きていた時の反応が見たいな……まぁ、どうせ無表情か。


「……黒づくめの方」


 木製の長椅子に全身を預けてだらけていると、声を掛けられる。

 純白の男だ。もうなんと呼べば良いのかわからない。


「ああ……何用?」


「用件を尋ねる時は「なんですか」「どうしました」と答えればいいのですよ……そう、その子、とても優秀な魔法使いであるボルボ族の少女を私に預けてくれませんか?」


 早口で聞き取りづらい。何を言っているのかわからずに首を傾げる。

 美青年は穏やかな語調であるのに、やけに焦っているように感じる。


「魔法使いの魔力欠乏には特別な処置が要るのです。さぁ、その子を私に」


 ポルを見ながら両腕を広げ、催促するように見つめてくる。

 ポルを渡せ、ということか?

 見た目とかは気に食わない奴だが、悪い奴とも思えないというのが本音だ。

 飛竜が現れた時に魔法を放っていたりしたしな。


 いや、しかしだ。


 俺の偏見ではあるのだけど、宗教家というのはどうも胡散臭い。真に自らの宗派に奉じている者が幾人いるだろうか。

 あと、こういうイケメンに限って特殊な性癖を持ち合わせているというのが俺の持論だ。


 うん、ノーだな。個人的に。


「うん……断わル」


「……貴方は理解力が乏しいようですね。一から説明しましょうか?魔法使いの、まして幼少期の魔力欠乏という状態は、今後能力の幅に大きく作用してしまうのです。それはその少女にとっても不幸でしょう。ですが私ならそれを回復させることが出来ます。さぁ、だから、お渡し下さ……」


「アルヴィンさんよぉ。その必要は無いぜぇ」


 長々と講釈垂れていた美青年の声は遮られる。

 フェインさんが鈍く光る分厚い剣を肩に乗せ、扉を押し開けて入り口に立っていた。

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