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人体模型と鬼ごっこ

【警告】

ホラーなのに怖くないです

この学校の理科準備室の人体模型は動くらしい

そんな噂を聞いたのは夏休みを目前に控えたある日の事だった

古今東西、どこでも聞くようなバカな噂だ

人体模型は人間になりたくて、鬼ごっこをするらしい




ジジジジジジジジジジジジジ……

蝉時雨が唸りをあげ、開いた教室の窓からはいって来る

うるさい……

現在、俺は教室の中央の机にて俯き、睡眠をとろうとしている

空調が存在しないこの高校の教室は灼熱の煉獄だ

こんな時は寝るのが一番——

「中田、今は授業中だぞ」

パシンッ

……くっ!

安眠妨害だ

俺はしぶしぶ体を起こして立ち去る教師の後ろ姿を見る

数学教師、坂本

俺、中田なかたりょうの嫌いな教師ランキング堂々の一位を独走しているクソ教師だ

理不尽で、頭も固い

決まった固定観念、規則を守るところまでは許す。いや、それ自体はむしろ、無法者を嫌う俺にとっては尊敬することなのだが、その規則を守る意義をすり替えている

この教師の理不尽は、自分の固定観念を外れた逸脱者に対して、無関係な罰を与えることだ

だから、俺はこの人が大嫌いだ

まったく……こんな授業をちゃんと受けてるやつの顔が見てみたいね

俺はクラスを見渡す

……。

俺以外にも寝てるやついるじゃんかよ……やっぱ平等じゃないんだよな

思いつつ、見えたさきには、見知った顔がある

俺の右隣の席、東野ひがしのあい

相変わらず真面目だな

大人しい風貌に相応しく、シャーペンをノートに走らせて真面目に勉強している

コイツは寝ないんだよな……

と、愛の後ろに目がいった

「……くかぁ」

寝ていやがる

コイツ……授業中だぞ

北條ほうじょうつばさ

サッカーをやっていて運動神経はバツグン

だが、アホだ。授業中に寝るなどマトモな思考の持ち主はしない

「起きててもちゃんと勉強してないと意味ないと思うんだけど?」

「悪いが俺はこの授業をマトモに受けても意味を見いだせない」

俺は後ろから声をかけられ、適当に答えた

声をかけてきたコイツは、西尾にしお美紗みさ

クール気取ってああだこうだ言って来るクラス委員

頼りにはなるが、口うるさいんだよな

西尾は俺の言葉を聞いて呆れ顔を浮かべ、されどそれ以上は何も言って来なかった

問題児を注意していようと、授業中に会話をしていれば理不尽な坂本はキレる

ここは黙って授業を受けておこうと思ったのだろう

まあ、休み時間にぐちぐち言われるんだろうけどな

さて……

もう一眠りしとくか





起床

俺の体内時計が授業終了20秒前を知らせる

静かに体を起こし、固まっていた筋肉をほぐす

左手首の腕時計で時刻を確認

残り10秒で終了。よし

机の上に無造作に放られていた消しゴムとシャーペンを筆箱にしまって、ノートを閉じる

キンコーンカーン……

チャイムが鳴り、授業は終了する

坂本はチャイムが鳴ると同時に「続きは次の時間……」と言って去って行く

俺も立ち上がり、教室を後にする

昼休みだ。昼飯を食べる前に手を洗って来る必要がある



手を洗ってから教室に戻り、自分の席につく

鞄から取り出した弁当を机の上において、食らう

「こら中田!あんたさっきの授業で二度寝してたわね!?」

後ろからうるさい声がしてきた

俺は振り向き様にその罵声を浴びせる口の中にプチトマトを放り込む

「――!?」

食べ物を食べた状態で喋るのはマナー的にいけないと考えている様で黙って高速で咀嚼して、嚥下させた

「あんたねぇ—―!」

「ほいよっ。まあ食えよ」

今度は箸で卵焼きをつまんで放り入れてやった

やはり咀嚼して黙り込む

「くうっ……!」

「落ち着いたか?」

「もう良いわよ……あんたは何を言っても聞かないんでしょう?」

「まだ何も言われてないけどな。概ね正しいぞ」

西尾は黙り込み、自分の席に座った。諦めてくれた様で嬉しいね

俺はまた静かに昼食をとる

「よう中田!少しええか?」

……。

「……なんだ?」

「おお!なんやそんなえらいおっかない顔して」

「静かに弁当を食いたかったんだ。まあいい。用件を聞こう」

二回目に俺の静粛を妨害してきたのは、関西弁の女

南沢みなみさわ優子ゆうこ

やけにハイテンションで、俺に絡んで来る奴だ

幼い頃は神戸に住んでいたが、いつだかに引っ越してきたらしい

どこからともなく話題を運んでくる愉快なやつだ

「中田は、この学校に伝わる怪奇の話を知っとるか?」

南沢は急に声のトーンを下げて喋り出す

怪談話か……興味ないが喋らせておこう

「この学校の理科準備室に人体模型あるやろ。その話なんや」

うん……この卵焼き美味しいな。西尾にあげなきゃよかった

「なんと!あの人体模型、夜中になると動きまわるんやて!」

今日のふりかけはノリタマか。これ好きなんだよな……

「実はこの学校の人体模型ってのは、一人の人間が呪われて人体模型模型にされたのが始まりらしいねん」

唐揚げとブロッコリー、どちらを先に食べようか……。好きなものはとっておくタイプだから、ブロッコリーから食べるか

「その人間は、呪いを解こうとした。そして解き方を見つけたんや」

塩ゆでブロッコリーとは言え、そのままでは微妙だな。マヨネーズでも欲しかった

「その方法は、他の人間に触れることや。他の人間に触れれば、自分の体はもとに戻る」

ううっ。やっぱり冷えた弁当は体を冷やすな……上着でももってこればよかったか

「だけど、これで終わりじゃないんや。触られた人間は、代わりに人体模型になるんや。そいつが戻るのにも、他のひとに触れなきゃならない!」

唐揚げうまいな

「そうやって何年も何年も代わる代わる人体模型は代わってきて、今の人体模型も夜中になると、代わりの人間を探して夜の校舎を歩き回るみたいなんや!」

ごちそうさまでした……と。

「今度、探さへんか!?」

「断る!」

「噓やん!?」

正直、マトモに話を聞いてなかったが、コイツの言う事は聞かない方がいいだろう

空の弁当箱を包みながら隣に視線を向ける

「愛はどう思う?」

「え、わ、わたし?」

食事中だった愛は何故かあたふたする

「わたしは……そう言うの、興味あるかもなあ……」

「なに?マジか」

意外だ

あまりうわさ話に興味を持たない愛が食いつくとはな……

「この間、わたしも同じ噂を聞いたんだあ。だから、気になってたのっ」

俺は知らなかったが、有名な噂らしい

ふむ……

「おもしろそうじゃん!行こうぜ、遼!」

「お前もか翼……」

翼と愛と俺は幼馴染みだからわかるのだが、俺たちは昔、夜の校舎に忍び込んだことがある

小学生の頃だったか、同じような噂を聞いて、忍び込んで

結局、怖くなってすぐに帰ったんだ

怖がったのは愛

俺と翼が怖がる愛を置いていって、見に行こうとしたら愛が泣き出して、帰ることになってしまった

今なら泣くこともないだろうから行ってもいいのだが、俺たちはそう言う幽霊だかお化けだかなんだかがいないことを知っている

行っても、意味がない

「南沢。お前、まだお化けいると思ってるのか?」

「そんなわけないやろ」

「そんじゃ、行く意味がない。俺の睡眠時間を削って行く必要なんか無い」

深夜に学校に忍び込むなんて正常の頭の持ち主ならやらない

「西尾。お前もそう思うよな――」

後ろを向きつつ声をかける

「ゴフッ」

口のなかに何かが飛び込んできた

塩ゆでブロッコリー(ゆでただけ)が口のなかに飛び込んできたらしい

咀嚼して飲み込む

「素材の味しかしないんだが」

「さっきのお返しよ」

「俺が振り替えるタイミングを見計ったという事は、話は聞いていたな?」

嫌でも目の前の席のやつの会話は聞こえるものだろうし

こいつも、こう言うことに興味がないわけではないだろう

「ま、まあ聞いたわよ。聞くつもりは無かったのよ!?」

「ま、まあ……聞いてたわよ。聞くつもりはなかったのよ!」

聞くことに罪悪感でも持つのか

面倒だな

「んで、深夜の校舎に忍び込んで人体模型と鬼ごっこしてくるの。どうだ?」

俺が聞くと、西尾はペットボトルのお茶を飲んで口を開く

「校則違反じゃないわね。それでもって、楽しそう」

ん?もしかして計算を間違えたか

こいつは何がなんでも止めてくると思ったのだが……

「ほら!みんな乗り気やないか!中田、行くで!」

行くつもりは無かったんだけどなぁ……

仕方無いか

どうせ夜の校舎に忍び込むだけだし、妥協だな

「わかったよ……。そんで、いつ行く?」

4対1じゃ止めれない。決まったな決まったで話を聞く

だが、これに対する南沢の反応は俺の予想を遥かに越えたもので――

「今夜や!」

……。

…………。

味のないブロッコリーがあったらその口のなかに放り込んでやりたかった



一日の授業が終わった

日が傾き、赤く染まる校舎を見つつ俺たちは分かれた

夕飯を食べて、夜中の0時に今いる、校門前に集合だ

懐かしい

昔、俺と翼と愛で忍び込もうとした時はもっと早い時間だった

9時とかそこら。幼い俺たちが出掛けれる時間はそこまでだった

今回は正真正銘の深夜だ

補導されても文句も言えないような時間に友人たちと集まり、夜の校舎に忍び込む

楽しそうだな

ま、実際はなにも起きずに普通に帰ってくるんだろうけどな




夕飯を食べ、シャワーを浴びて、普段着を着て、家を出た

間もなく日付がかわる時間だ

夜風は気持ちいい。昼の灼熱の熱風とは大違いだ

星もきれいだし、夜はセミは鳴かないし

「あー。ずっとこうしていたいなー」

わざわざ学校に忍び込んだりしなくてもそうして一人で空を見ながら歩いている方がよほど有意義な気がしてきた

だが、校門が見えてきたので諦める

「遅いでー!中田ー!」

跳んで跳ねて両手を振って大声だしてるのは間違いなく南沢だろう

「おい!あんまし大声だすと補導されるぞ!」

それに大声で突っ込みいれてるのは翼か。こっちが突っ込みたいわ

「遼、来たんだ」

「中田。遅いわよ」

声を潜めている愛と西尾もいて、全員集合だ

「そんじゃ、忍び込みますか!」

南沢が声を上げて、俺たちは頷く




校舎に近づくと、いつもと違う空気を感じた

喧噪も無い。明るくもない校舎はひどく不気味に立っている

「この学校は警備会社の警備は入れてない。どこからでも入れるし、どこでも移動できる。この時間は誰も見回りはしてないハズだ」

昇降口に近づき、確認する

「ホントだな……。何の警備装置も無いぞ」

「遼、なんで知ってたの……?」

「警報を外す装置が見つからなかったからな」

警報を外す装置も無いのに、警報機があるとは思えない

ド田舎とは言え無用心だ

「さすが中田、無駄知識に長けてるな!」

「静かにしろ。南沢」

こいつに危機感は無いのか

「少し待て」

ポケットの中から針金を取り出す

少し曲げて昇降口の扉の鍵穴に差し込み、回す

カチャッ

「遼、ピッキングできるの?」

「少しな」

愛の質問は正直痛い

俺はここで鍵が開かないことをアピールして帰ろうと思ったのに

すんなり開いてしまったから困る

無用心だ

「ほな、侵入やな」

南沢が真っ先に入っていき、俺らも続く



中は真っ暗だ

非常ボタンの赤いランプの光だけが廊下を照らしていて、それ以外はうっすらと輪郭しか見えない

じめじめしていて、昼間とは違って気温は下がっているのに、暑いのか寒いのかわからない

不気味な空気だ

「中田。進みなさいよ」

「暗くてよく見えないんだから急かすなよ」

西尾が後ろから声をかけてきた

静かだから会話がほしかったのか?

怖がりか……?

「理科準備室……ここだ」

暗がりのなか、わずかに見える教室のプレートを見て確認する

位置的にも、俺らが昼間に使う理科室の隣

「そんじゃ」

ドアに手をかける

ガラッ

「あ、開いた……」

嘘だろ。ピッキング無しで開きやがった……

誰だよ開けっ放しにしたの……

ドアの向こう側は暗闇だ

真っ暗でなにも見えない

「電気つけるわよ」

西尾が中に入って電気のスイッチを押す

カチッ

「ん?」

カチッ。カチッ。

「つかないわね」

なんでつかないんだよ……

停電?

学校内の電気系統が壊れた……?

「おっ、懐中電灯あったで!」

南沢がいいものを見つけたようだ

「ついた」

懐中電灯はちゃんと使えるようだ

薬品棚、本棚が壁を隠すように置いてある

部屋の真ん中には実験デスクが置かれていて、その上には先生の私物のコーヒーメーカー

「確か、一番奥だよな?」

翼が声を出す

歩きながら懐中電灯を部屋の奥へと向けて……

「……!?待って!」

東野が制止をかけて全員の動きが止まる

どうしたのだろう

「……いつもならそこにあるはずじゃない?」

「え?」

指のさされる方向は正面

懐中電灯で照らされているところだ

だが、そこには骨格標本しか無い

ん?

「普通は骨格標本と人体模型は並べておいておく……?」

俺がその言葉を呟やく

タンッ

かすかに、隣の部屋から物音が聞こえた

いや……まさか……

そんな訳が無い

俺の脳髄は体を止めようとするが、体は言う事をきかない

理科準備室と理科室を繋ぐドアに手を当てて——

ガチャ

俺は、その扉を開いてしまった



「……」

理科室に並ぶ実験台の上にはアルコールランプが火をつけて並べられている

そして、そんな異常な部屋の中央に、さらに異常な存在がある

白衣を着ている影だ

こちらは見ておらず、手元に集中しているようだ

マッチを擦り、またアルコールランプに火をつける

そして、顔を上げた―—

「……!?」

「あ……」

「これは……!?」

「まさか……!」

東野たちが後ろで驚愕するのがわかる

その顔は蝋人形のような不気味な肌質……それが半分

残りの半分は、青と赤で書かれた謎の管、赤の筋肉で覆われた皮膚が無い顔面

そう、人体模型だ

かつっ、かつっ

そのプラスチックの足でリノリウムの床と音をたてながらこちらに歩んできた

ゆっくりだ

無言だ

無機質だ

それでも、わかる

これは、俺たちに向かってきている

「逃げるぞ!」

俺が叫ぶと同時、全員が逃げる

必然、人体模型も加速

だが、俺がドアを閉めて鍵もかけてから逃げる事で時間稼ぎが出来た

今はとにかく……逃げる!






「はあっ……はあっ……」

壁に手を当てて立ち止まる

暗くてどのくらい走ったかがわからない

案の定、南沢たちともはぐれてしまった

一度落ち着くべきか……

「地図はあっても現在地がわからなければ、意味が無い……」

船出で言われる言葉を呟き、自分がどこにいるのかを確認する

暗闇の中で僅かに見える部屋のプレート

理科室からあまり遠く無い

一階の一部だ

「何が危機の前兆か」

思考の途中に起きてはならない事

さっきの足音だ

あの独特な足音が聞こえたら、すぐに逃げる事

「よし……落ち着いて思考せよ……」

床に這って考える

……死んだフリじゃない

床の音を聞きやすくする為だ

あと、遠くからは見えにくくする

まあ、逃げる動作も若干遅れるが、総合するとメリットは大きい

「さて……考えろ……」

さっきいたのは、紛れも無く人体模型

誰かが操っているようには見えなかった

かといって、人体模型が単体で動くなど現実的ではない……

これは一体どう言う事なのか

やはり……噂は本当だったと言うのか

夜中になると動く人体模型

代わりの人体模型になる人間を捜して校舎で人間を追いかける……とな

先ほど俺たちを追いかけてきた模型は、俺たちを人体模型に代えるつもりだったのか

だったら、ここにいるべきでは無いじゃんか!

今すぐ逃げるべきだ

さっさととんずら……

考えても、体は微動だにしない

俺の脳裏に別の事が思い浮かんでいるからだ

今ここで逃げて、全てが丸く解決されるか

先代人体模型に代役にされた現役人体模型には申し訳ないが、そこまでは解決できない

それを抜きにして、俺たち全員が無事に帰れるか

今だって離ればなれになっている

「置いて行く訳にはいかないよな……」

南沢、西尾、愛、翼

あいつらを見つけて全員の無事を確認して逃げる必要がある

……

ここで二つの方法が思いつく

大声出して速やかに全員探して逃げる。

もしくは、先に人体模型を動けない状態にして仲間を捜して逃げる

「どっちもな……」

どちらも、自分から人体模型とコンタクトをとろうとする危険な手だ

自分の安全を守るなら静かに全員捜すのがいいんだろうが、あいつらの安全を考えるなら早急に見つけれる策を行なった方がいい

「派手にやって得する事はほとんどないか……?やはり、静かに一人ずつ捜そう」

俺が見つかって代役にされても仕方ない。見つからずに行く

「頼むから……全員無事でいてくれよな?」





まず最初に向かったのは理科室

ドアが閉まったままなら人体模型は理科室のなか。落ち着いて南沢たちを探すことができる

「そう、うまくも行かないか……」

理科室と準備室の間にあるドアが外れていた

外れたドアの残骸は破砕されている

「……なかた…………」

「南沢……?」

声が聞こえた

南沢の声だろう

「なかた……。なかた……。」

カツッ、カツッ

廊下の先から足音が近づいてくる

そして――

「中田……助けて……!!」

非常ボタンの上、赤いランプの光に照らされるのは、筋肉がむき出しの模型

「南沢……!?」

それは紛れもなく、人体模型だ

女子の制服を着ていて、俺の感覚が理解する

こいつは、南沢

そして、人体模型

「やめろ……!近づくな!」

なんだよこれ

なんなんだよ、これ!

「……!」

くそっ……!

逃げろ!

あんなの南沢じゃない……

あんなのは南沢じゃない!!

頭のなかの警笛が鳴り響き、俺の頭はいっぱいになる





「……なんだ!?」

「いったたた……」

俺が必至になって逃げてると、誰かとぶつかった

「遼……?よかった、無事で!」

「愛か!お前は無事だったか!」

俺は言って、しかしながら言葉が続かない

愛が無事であることはすでにわかっていたから

「愛……」

俺はさっき人体模型に変えられた南沢を見た

他の犠牲者が居るわけはない

「どうしたの遼……?急いで他の人も探さないと――」

「南沢がやられたんだ。愛」

「え……?」

俺が告げると、愛の表情が変わっていく

焦りから、絶望へ

「愛、俺たちだけでも逃げよう。全員で無事に逃げるなんてできるわけがなかったんだ。南沢のことは忘れて、逃げるぞ!」

俺は愛の手を引き、彼方を見る

ピシャッ

愛は無言で手を払った

「なんでそんなこと言うの!?遼、わかってるの!?優子ちゃんを置いていくんだよ!?そうすると、優子ちゃんは人体模型として生きていかなきゃならないんだよ!?」

……。

くっそ……。

「どうすればいいんだよ……!」

南沢を助けるには……!

全員で脱出……!

「遼もわかっているでしょ。優子ちゃんを身代わりにした、元の模型を見つけ出して、もう一度戻ってもらうしかないんだよ!」

「探すのか……?」

なんなんだよもう……!

あーもう!

「わたしはあっちを探す!遼も探して!」

「おい!愛!」

「早く探さないと、犯人が見つからない!」

「愛!」

俺が止めようとしても、愛は走っていってしまった

俺だけ逃げるわけにも行かないよな……

「とりあえず、南沢と交渉だな……」





もう一度走り、理科室の前にたどり着く

「おい!南沢!どこにいる!?」

「中田……ううっ……」

俺の目の前に、座って床に拳をつけている少女がいる

俯いて、その肩を震わせている

「おまえ……!!なんで……!?」

既に南沢は人体模型じゃなかった

「あたしは……あたしは……!!」

南沢は泣きながら俺の方に救いを求めるような顔を向けて来た

その顔は、人体模型の時の南沢が俺に向けていた顔と、同じ空気

「わるかった!!」

南沢を抱きしめ、謝る

「俺がお前を置いて行かなければ……!俺が逃げなければお前は、泣く事なんか無かったのに……!」

友達から逃げた事に対して苛立つ

友達を見捨てようと一瞬でも考えてしまった自分に殺意すらも湧く

「お前は何も悪く無い。全ての元兇を捜すぞ」

体を離し、肩をつかんで話す

情けない泣き顔も、もう涙はほとんど止まっている

「誰を人体模型にした?」

俺は問い、傍らで決意する

なんとしても、こいつらは無事で帰す

「美紗を……人体模型にしてもうた……」

「そんじゃ、西尾をさがすぞ」

「うん……」

南沢を立ち上がらせ、闇を睨む

どこにいる……!?

「キャアアアアアアアアアアア!」

「悲鳴!?」

どこから聞こえた……!?

理科室の先、奥の方から聞こえてきた

そこは理科室からはそんなに距離が無い地点だが、何も見えない

だとすれば

「上か!」

廊下の横、階段がある

その上だ

「行くぞ!」

南沢と一緒に階段を駆け上がる

一階ずつ確認するが、どこも居ない

「この上か……」

そこには「生徒の立ち入りを禁ずる」と書かれた看板

ここから先は屋上だ

「行くか」

「当然や」

屋上へと向かう階段を上り、月明かりの差し込むガラス戸を眺めて、俺は気付く

開いている……

「……!」

俺は扉から屋上へと飛び出し、周辺を見渡した

「遼!助けて!」

その姿を見つけるのに時間はかからなかった

愛の声で助けを求めるのは鎖で体を巻かれた状態で倒されている女子制服を着ている〝人体模型〟

「遼、来るな。邪魔はさせない」

「中田……!」

その傍らにいるのは、翼と西尾だ

まさかこいつら……!

「翼!お前なにしようとしている!?」

いけない、俺の予想が正しければ――

「決まっているだろ。人体模型を処理しようとしているんだ」

「ふざけるな!そいつは愛だぞ!」

「わかっている」

なんだと……!?

「だったら、なんで――」

「てめえに何がわかるんだよ遼!!」

なんで愛を殺そうとしている。その問いは途中で打ち消された

今の翼は、俺の知ってる翼じゃない……?

「教えてやるよ。てめえが探してる存在を」

翼が圧力のある声でそう言い、翼の横の物陰から何かが現れた

それは、紛れもなく人間

しかも、どこかで見たことのある姿

「南沢を身代わりにした、人体模型だった人間だ。そしてこいつは、俺の双子の弟だ」

理科室の人体模型は背が小さかった

つまり……子供が模型になっていたんだ

「俺らは双子なのに。こいつが人体模型にされて成長しなくなって、俺らは今では双子には見えないだろ」

昔の翼そっくりの少年を見ながら、圧倒される

これは、緊急事態だ

「何年も、この時を待っていた。弟を取り戻す日を!俺はそのために噂話を流した!」

「……!」

翼に罪はない

翼の弟がなんで模型にされたのかは不明だが、この子を忘れて帰るのは翼が許さない……

だが、他の人間がいなければ人体模型の呪いは誰かにかかったまま

「もう二度と俺らみたいな被害者がでないように、人体模型は処理するんだ。そうすれば、みんな助かるだろう?」

「違う!愛はどうする!?」

「必要な犠牲だ。愛が犠牲にならなければ、西尾が助からなかった」

そうだ

南沢は西尾を犠牲にした

それなのに、今では愛が犠牲だ

「俺は西尾が好きなんだ。どうしても助けたかった」

「中田……わたしは、助かりたかった……!」

恋心と、自尊心

例え友人が犠牲になろうと、自分を守る……

「翼……人体模型さえ処理できれば満足なんだな……?」

「ああ。西尾と俺、弟が無事に帰れるならな」

「そうか……だったら……」

俺はただただ、翼たちに近づいていく

「中田!」

南沢が後ろで名前を呼んだが、俺は進む

そして、愛の前に屈みこむ

「俺は、愛が好きなんだ」

これは、俺の隠していた気持ち

幼い頃から一緒に遊んでた愛に、俺はいつの日にか恋をしていた

だけど今まで思いを告げたことはなかった

「俺は愛を助けたい」

静かに愛の冷たいプラスチックの体に触れる

指先の冷たさは感じなくなった

俺の皮膚に感覚神経がなくなったからだ

いや違う、皮膚ですらない

「よっと」

俺は屋上の転落防止柵の上に立ち上がり、背後に向かって告げる

これは、最終手段だ

「俺が犠牲になる。俺はお前らが大嫌いだ。南沢は西尾を犠牲にした。西尾は自分を優先して翼と協力して、愛を殺そうとした。翼は愛を殺そうとした。翼の弟も、ただ助かりたくて愛が犠牲になりそうだった」

こいつらのために命を投げ出すわけじゃない

今の俺は人体模型で、死ぬかどうかは疑問だが、殺してやる

「俺は、南沢から逃げた自分を殺すために。愛を守るために死ぬ」

愛だけは、友人を探すことを言ってくれて、俺の考えを変えさせてくれた

そんな一番優しい愛が死ぬのは認めない

「じゃあな……」

俺は跳び、体が一瞬重力の枷から解放されるような感覚に陥り、そして――

バンッ!

転落

プラスチックの内蔵が吹き飛び、腕は折れて外れている

俺の体は痛まないが、意識が消えてきた

「おやすみ……」




――――――――。









「わたし……あんたのこと好きだったのに……!」



『今日未明、○○市内の学校で、深夜の屋上から飛び降りる自殺がありました。亡くなられた西尾美沙さんは――』





「おかしいやろ!こんな終わりはおかしいやろ!」



『本日深夜3時頃、市内の学生が電車に飛び込んで亡くなりました』






「そうか……西尾は……」



『先程お伝えしたニュースの、飛び降り自殺に関してですが、現場の屋上にハサミで自殺をしたと思われる男性の死体がみつかり――』






「遼……わたしも……遼のことが大好きだったんだよ……」


『○○市の住宅地にて、殺人事件が起きました。犯人は鋭い刃物を持っていた少女で、幼い男子児童を惨殺した上で、自らも命をたった模様です』












『本日のニュースを、お伝えしました』








こんばんは

初めましての方がおおと思うのでnice to meet you


永久院悠軌と申します


ホラーを書くのははじめてだったのでいろいろ勝手がわからず爆死しました

あと、誤字点検もしてません



なんか、すみませんでした

怖がっていただけたら幸いです

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