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王子を支えてと頼まれましたが、もう我慢の限界です

作者: お芋ぷりん
掲載日:2026/04/21

 




「――余の最期の頼みだ。どうか息子を、アベルを……側で支えてやってほしい」


 か細い声でそう言ったのは、このアルメリア王国の女王――ルミナス=フォン=アルメリアだった。かつて勃発した隣国との戦争において最前線で兵を率いて自国を勝利に導いた稀代の女傑だ。


 ――だが、そんな彼女もその身を冒す病には勝てなかった。


 周辺諸国から“戦神”と恐れられたその身体は、今や枯れ枝のようにやせ細っていた。懇願と共に握ってきた手にも力が入っておらず、アスタルテ公爵令嬢であるエーリカは驚きを隠せなかった。


 動揺を悟られまいと、エーリカは視線を隣へ逃がす。


「っ、えぐっ……かあさまぁ~」


 第二王子アベル。


 まだ十歳にも満たない婚約者が、年相応に泣きじゃくっていた。刻々と迫るルミナスの死を察してのことだろう。彼女と似て目鼻立ちの整った顔が大きく歪む。


 婚約してから何度も見せられてきた弱々しい姿。


 今も縋るように手を握ってくるアベルの事が――――エーリカは大嫌いだった。


 どれくらいかと言えば、女王の強さをまるで継承していない気弱な王子を矯正する権利ほしさに、自ら婚約を申し出たくらい気に入らない。




 ……とはいえ、尊敬する陛下の頼みだ。


 たとえ吐き気を催すほど嫌いだとしても、その願いは聞き届けねばならない。不躾にもルミナスを人生の師と仰ぐエーリカの矜持が、嫋やかな背を折り曲げた。


「……………………はい。このエーリカ、身命を賭して殿下を矯せ――支える事をここに誓います」


 その十数分後――ルミナス=フォン=アルメリアは崩御。


 国を挙げての葬儀が行われ、後日第一王子のディアスがわずか十一歳にして王位を継承した。優男ながらも母親譲りの資質と才能を幼くして開花させ、王として立派に成長していった。


 その背後に、大きな影を残しながら――。




 あれから数年。


 王立貴族学院に入ったエーリカはルミナスの背中を追って剣術に魔法、勉学と励み、学友に囲まれながらアベルの性格矯正に精を出していた。


 …………出して、いたのだが。




「――エーリカ! エーリカ=フォン=アスタルテ!」


 庭園で怒声が響いた瞬間――ドン!


「エーリカ様!?」


 エーリカの身体は横合いから突き飛ばされていた。


 頭上にさしていた日傘が芝生に落ちる中、エーリカは無表情のまま顔を上げる。


「……………………アベル様」

「なぜ僕の側にいない! 婚約者たる僕より、そんな取り巻き達のことが大事と言うのか!?」


 幼さが抜けてすっかり大人の男になったアベルが、公衆の面前で癇癪を起こした童のように怒鳴り散らす。


 ルミナスが亡くなって以来、母の愛を失ったアベルは少しずつ荒んでいった。もっとも生前ルミナスと交わした約束もあって心のケアを()()()()()()()ので、()()()()()()()()を言えば多少の改善が見られた。


 ――とはいえだ。


「そのようなことは決して……私はアベル様一筋ですので」

「ならば常に側で侍っていろ!」

「…………申し訳ございません。以後、気を付けます」


 立ち上がったエーリカは僅かに抱いた嫌悪感をおくびにも出さず頭を下げる。


 尊敬するルミナスの強さに少しでも近付けるためとはいえ流石に厳しくし過ぎたのかもしれないと、ここ最近のエーリカは反省していたのだ。


 王子の婚約者という地位を利用し――騎士団長に宮廷魔法師、王家専属の教育係を師につけ、共にルミナスの高みへ上がるべく日夜励み、夜はルミナスの武勇伝の読み聞かせたりもした。


 弱音を吐こうものなら張り倒し、ルミナスの名を出して無理やり鼓舞した。


 その成果もあってか、アベルの性格は思わぬ方向に歪んでしまったようだ。今ではこれまでの鬱憤を晴らすかのように、こうしてほぼ毎日罵声を浴びせられているのが現状だった。


「全く……僕に尽くしているのか分かりやしない。たまには、カリーナのような女性を見習ったらどうだ?」

「……カリーナ?」


 エーリカは眉をひそめた。


 どうでもいい石ころにうつつを抜かしている暇があるのかお前に、と思わなくもない。よって、アベルの生活環境を全て把握している身としては不穏分子の存在は看過できない訳で。


「どこの下女ですか」

「下女じゃない。アハズーレ男爵家の一人娘だ。お前と違って愛嬌も包容力も段違いの素晴らしい女性で――カリーナ!」


 不意に言葉を切ったアベルは廊下の方へ手を振ると、「アベル様!」と小動物のような女子が跳ねるようにへ駆け寄ってきた。


「アベル様、何か御用でしょうか!」


 笑顔で問う女に、アベルはその肩を抱き寄せ、


「どうだ、この可愛さ。まるで天使のようだろう?」

「まぁ、アベル様ったらっ」


 あろうことか、婚約者であるエーリカの前で平然とイチャつきだしたのだ。別に好きでもなんでもないし独占欲もほぼないが、その姿はあまりに醜い。


「彼女に見習って、お前はもう少し素直になった方が良いぞ! ハハハハハ!」


 そのままアベルが高笑いしながら踵を返す。その去り際、男爵令嬢のカリーナが小馬鹿にするように舌を出していた。


「……………………まさか、王子がここまで馬鹿だったとは」


 エーリカの口から思わず溜息が漏れた。


 桃色空間を展開している所為で――もとい、馬鹿な所為で気付けなかったのだろう。


 ここが学院の共有スペースであることに。


 その日から、学院ではアベルとカリーナの話で持ち切りになった。アベルは今まで行ってきた勉強や鍛錬をサボるようになり、たまに学院ですれ違ってはカリーナと一緒にエーリカを貶める発言を繰り返していった。




 そして、運命の邂逅から一ヵ月が経ったある日。


 王家主催のパーティで、アベルはとんでもない事を言い出した。


「エーリカ=フォン=アスタルテ、今日限りでお前との婚約は解消だ。そして、このカリーナを未来の妻として迎えることをここに宣言する!!」


 多くの重鎮が見ているその前で。


 華やかしいドレスに身を包んだカリーナを側に侍らせたアベルが、エーリカにそう言い放った。


「……念の為に一応、しょうがなく理由を伺っておきましょうか」


 なんとなくそんな気がしていたエーリカはアベルに尋ねた。


「まさか分からないのか? 僕の人生を散々無茶苦茶にした癖に!」

「アベル様はぁ~、エーリカ様との灰色の日々に嫌気がさしたんですよ~」

「よもや無理とは言わせないぞ! この婚約自体、お前が強引に――」

「構いませんよ」

「きめ…………え?」


 即答したエーリカに、アベルとカリーナが面食らう。


「何を惚けているのですか。構いませんよ、別に」

「! そ、そうか……! 話が早くて助かる!」

「ありがとうございます、エーリカ様ぁ!」


 …………本当にどうでもいいのだ。


 勝手に落ちるとこまで落ちた上に自分よりも遥かに格の低い女と一緒になりたいというアベルの願いなど。


 なんというか、嫌気がさしたのだ。罵倒され続ける日々に。


 厳しい王妃教育を受け、ルミナスの願いにこたえようと費やしたこの十数年を否定されたのだ。ルミナスとの約束、王家と公爵家で結ばれた正式な婚姻もあって、今まで嫌々ながらも世話を焼いてきたが、もはや我慢する必要もないだろう。


 なので、


「最後に一つ、お願いがございます」


 エーリカはアベルを正面から見つめる。


「なんだ、言ってみろ。元婚約者の願い、聞いてやろう」

「ありがとうございます。こちらに来ていただけませんか?」

「なに?」

「アベル様の御顔をこの目に焼き付けたいのです」

「容易い御用だ」


 カリーナの腕を解き、アベルがエーリカの眼前まで近付いてくる。


「アベル様。少し屈んでいただけますか。そう……その位置がよろしいかと」

「そうか? なんなら椅子の上に立っても……」


 ちょうど膝上辺りに頭をセットしたアベルにエーリカは久々に微笑み…………。


「では、いきますよ?」

「どこに――――へぶるっっしゃぁアアアアアアアア!!!!?」


 その顔面に向けて、渾身のトゥキックをお見舞いした。


「きゃぁあああああああああああああ!!? アベルさm――はぐぅッ!?」

「泥棒猫めー(棒読み)」


 続けて、カリーナを顔面に拳を叩き込む。


 二人を床にしずめてやったエーリカは静まり返った空気の中、そっと胸をなでおろす。


「ふぅーーーー、スッキリいたしました!」





執筆時間に制限を設けて、ひとまずオチまで書き切った?

いや、後すこし追加したいところがあったんです。最後雑になってしまった……

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