最強兄妹と初陣
その後、幾つか話して割り当てられた寮の自室に戻ってきて……さて。言い残すことはある?
《初手死刑宣告? 主文後回しなのマジ?》
裁判すっ飛ばさないだけ有情だと思いなよ。……で、何で態々改めて喧嘩売ったの。
《別に、そんな大それた理由じゃないさ。簡単に言うと安全確保だよ》
……安全確保?
《うん。こう言ってしまうとなんだけど、人間って基本的にカスだからね。目立つ奴の足を引っ張りたがる生き物なんだ》
身も蓋もないこと言ってる自覚ある? あるか。あるんだろうなぁ。
《だからまあ、喧嘩売ってくるとかしてきた相手はしっかりぶっ飛ばしに行く。そういう応報のスタンスを見せつけることで牽制するんだ。殴ったら殴り返してくる奴と黙って殴られる奴、どっちに手を出すかなら後者だろ?》
一々角の立ちそうな表現をしないと気が済まないのだろうか、うちの兄は。……まあいい、ちゃんとした理由があるんなら。
「あ、でも。決闘、私はやんないから。お兄ちゃんがやってよ」
《そりゃ勿論。あの子がどんなスタイルなのかは知らないけど──────》
俺よか弱い。そう言って、お兄ちゃんは引っ込んだ。……さて、私も色々やるとしますか。
数日が経ち、決闘当日。『先に喧嘩売ったのはこっちだから』と、手続きは向こうがやってくれた。なのでこちらは余計なことを気にする必要もなく普通に決闘の舞台である闘技場に来ていた。……ちなみに、この闘技場は一年生限定トーナメントでも使うらしい。
「おはようございます、メリディさん。絶好の決闘日和ですわね」
「決闘日和じゃない天気ってのがよくわかんないけど、そうだね」
そもそも戦うのに相応しい天気って何だろう。お兄ちゃんに聞いてもどうせ《血の雨でしょ》としか言わないだろうから聞くだけアホらしいけど。
「……それで、その手に持っているものが?」
「うん、武器」
私が手に持ってるそれを見たルクスさんの顔が引き攣る。それもそうだろう、私が手に持っているのは『大鎌』だ。……お兄ちゃん、基本的に武器なら何でも使えるからそういうの頓着しないんだよね。まあ一番強いのは普通に剣使ってる時なんだけど。
「じゃあ、そろそろ始めよっか」
「え、ええ! ……ですが、その前に一つ」
彼女はそう言うと、話し始めた。
「……何故、決闘を挑んだのか。簡単な話で、知りたかったのです。貴女が『首席』に、『最強』に耐えられるのか。代表というのは結構クソダルいものですので」
……今『クソダルい』って言った?
「ぶっちゃけ誰が一位だろうとどうでもいいんですの。……でも、ただ才能があったというだけで頂点に据えられたなら。その重圧に耐えられるか、壊れないと分かりませんので。……それなら、『その重圧に耐える覚悟がある』私が代わりに背負う。そう考え、決闘を挑みました」
うーん……それ初めから言ったらここまでの面倒事九割くらいは無くなったのでは?
《おもろ。お兄ちゃんとしてはこういう子好きだよ》
お兄ちゃんの趣味嗜好は別にどうでもいいんだけどね。でもまあ……悪い子じゃないのは分かったよ。
「ですので、証明してくださいまし。貴女が私たちの中で最強であることを……そして、私たちの頂点に立つ覚悟があることを」
そう言って、ルクスさんは自らの武器……杖を構える。杖ってことは、魔法型か。
……さて、もういいでしょ。お兄ちゃん、お願い。
《ああ、任せろ》
──────雰囲気が、変わった。
私、ルクス・ヴルヌスは……俗に言う『エリート』に分類される人間であると自負していますわ。爵位を持ち裕福な家系に産まれ、才能も美貌も知性も、大体人が持ち得るものは大体生まれつき持っているしそうでないものも与えられています。……お兄様には『いや謙虚さだけはねえけどな?』『その言動全てに悪意がないから紙一重で許されてるだけでお前の言動って出力次第では普通にヤバいからな? 気をつけよ? な?』と言われておりますが。
まあそれは置いておくとして。そうやって恵まれた分、その代償としての成果を挙げなければならない。私はそう考えております。千を与えられたならば、民に。国に。世界に千一以上の価値を齎す。その摂理を掲げ、私たちの住まうこの国が建国された当時から貴族として五百年間生きて来たのです。
それ故に、背負えぬ重荷があるならば代わりに背負いましょう。私はエリートで超凄いので。その重荷を背負って生きていくのならばそのお方は私と同等に凄いだけで、私でも厳しい重荷を背負って生きているのならばそれは私よりも凄いということでしょう。
ですが、その上で。メリディ・リムスさん──────彼女は、間違いなく異質でした。本来人間では到達できない『魔法と剣の完全両立』。それを成し遂げ、それすらも些事として平然とする様相……『知りたい』。そう思ったのです。凄いのは当然で、そこから何故凄いのかを知る。それを無くして真にそれを『凄い』と評価するのは、余りにも不適格です。
「──────さて」
ぞわり、という怖気。先程まで目の前に居たメリディさんが、どこかに消え去ってしまったかのような感覚。一切の予兆なく、余波なく、痕跡なく。コインが反転したかのように、理解不能のソレが表出した。
「何時でもいいよ、勝敗は見えてる」
霧に覆われた森の中、静かに凪いだ湖のようなメリディさんとは異なる気配。そう、喩えるなら……『あらゆる干渉を無為と呑み込む、底なしの沼』。踏み込むことすら躊躇わせるのが普段のメリディさんで、こちらは踏み込んだら最後抜け出せない。静謐と混沌、光と闇。触れても死なないけどそもそも触れられない表と、触れたら死ぬから触れられない……触れる訳には行かない裏。──────ですが、その上で。
「いいえ──────勝ちますわ」
その言葉と共に、決闘が始まった。
まず私が繰り出したのは、出方を窺うための術式。光属性、多段装填掃射魔法。
「薙ぎ払いなさい──────『光雨』」
その言葉と共に、無数の。具体的には三百二十四発の光弾が出現し、メリディさんへと殺到する。威力はない、軌道も一つの座標へと殺到する単純なもの。それ故に数に極振りしたわけですが……ぶっちゃけこれでもそこらの剣士や魔法士ならそれなりの痛手を与えられますわ。何せ生まれつき魔力の出力が……大体普通の方の三倍くらいありますので、どんなに頑張って落としても『普通の方の最低火力』の倍くらいはあります。何度調整を失敗して自主練習中のお兄様にぶち当てて半殺しにしたことか。治療魔法は使えますから、それで治した後報復でお兄様に腕折られるまでがよくある話でした。いえ、初めて折られた時は吐くまで泣きましたが。
「さて、どう切り抜けますか?」
そう呟いた、次の瞬間。勢いよく何かを振り抜く音と共に、光弾が全てぶった斬られました。えー……そんなの有りですの? ちょっと喧嘩売る相手間違えたかもしれませんわ。
「良いな、力量を見極めるには適度だ。まあぶち込むんなら速度を倍にした方が良かったんじゃない?」
無茶言うんじゃねえですわ~~~~~!! そんなことしたら私の脳みそ『ッパーン!』なりますわ! 人間の脳の演算規模ナメてんですの!?
「じゃあ今度はこっちから行かせてもらおうか。耐えてくれよ?」
待ってくださいまし!? ちょっと心の準備というものがありまして──────
「刃理装填、術理展開……形式:大鎌」
あ、これヤバいやつですわ。本気で対処しないといけないやつですわね?
「『逆しまの断頭台』」
二発の斬撃が左右から襲いかかってくる。それを防壁魔法により受け止め──────あっ、止まりませんわね。収束が段違いですわ。飛んでくるのが事前に分かっていたなら止められますが、咄嗟の防御だと真っ向からだと通されます。角度つけて流すべきでしたわ。そんな反省はさて置いて『身体強化』を発動し、射線から外れるために跳躍します。体術の基礎魔法ですが、魔法なので勿論使えますわ! 動かずぶっ放す固定砲台よりも、適切な位置を自分で測って動きながらぶっ放せる移動砲台の方が強いのは自明の理ですもの!
「──────って、あら?」
上を見ると、鎌を構えて飛び込んでくるメリディさん。いつの間に飛んだの、とか今の一瞬でそこまで来てるとかどんな倍率で『身体強化』かけてるの、とか。色々困惑、疑問は駆け巡りましたが……それ以上に。
これ、誘い込まれましたわ。恐らく『逆しまの断頭台』は、三発ワンセットの斬撃技。最初に相手の左右への逃げ場を潰す斬撃を飛ばして対処を『防御』『前後に跳ぶ』『上に跳ぶ』の三通りに限定させ、それに合わせて跳んで三発目を確実に叩き込む。はっきり言って一年生がやっていい技じゃありません。この年代はとにかく高火力を一発ぶち込んでゴリ押すのが殆どですわ。『避けられない速度で当てる』が基本で、『避けられる前提で繰り出す』のは先のカリキュラムで考えるもの。攻撃を回避するほどの知性と身体能力を持つモンスターとの討伐実習が組まれる、一年生の後半で習うものです。
何故『避けられる前提で繰り出す』ものが先のカリキュラムなのか。それは簡単な話で、細部の想定が難しいからですわ。魔法であれば『発生地点』『終着点』『経路』『速度』を定義する際に、『経路』を同じ長さにして『速度』を揃え同時に開始すれば同時に叩き込むことは可能です。ですが剣などを使う場合、『同時に放つ』ことはまず不可能。まあ軍の大隊長レベルの方でしたら出来ますけど、基本的には不可能です。
それ故に、『一発目』と『二発目』の速度をずらさないと着弾タイミングもずれてしまいます。二発目が一発目に追いつけなくても、追い越してしまってもダメ。丁度ぴったりの偏差を計算する必要があるため、武術……特に斬撃や刺突を『飛ばす』タイプの多段攻撃は最上級の技術として定義されていますわ。
しかし、彼女はそれを可能としている。つまり……これマジで勝てませんわね! 少なくとも武器振り回すのを許してる間はまず無理ですわ!
「ですが、ただ負ける気もありません……ッ!」
闇属性魔法『見えざる手』を多重展開。重力の力場であるこの魔法をメリディさんへと複数差し向け時間を稼ぎ、一つは私自身へ。空中にいる私の身体を地面へと引き寄せて着地します。そして水と風の複合魔法で霧を展開、視界を遮り距離を取りながら重力場を確認……あ、斬られてますわね。というか魔法って斬れるんですの? 後で原理聞いてみましょうか。
「良いな、楽しいよ」
「全力ってるのを娯楽感覚で対応されてるこちらはあんまり楽しくないですけどね!?」
炎属性魔法『赫縛蛇』、水属性魔法『水底の手』、風属性魔法『疫病の風』。三重の拘束魔法を繰り出し、その動きを無理やりにでも止めに行きます。炎の縄と水の手、目を開けていられないほどの暴風。この三つなら、少しは時間を稼げるでしょう。──────その隙に、あの魔法を。
「我は希望を背負う者、我は絶望と相対する者」
詠唱。本来ならば大きな隙になりうるものですが、決して無意味なものではありません。言うなればご老人が持つ杖、行動の補助具。詠唱によって強力な魔法の行使を安定させるものであり、強力な魔法士が行う詠唱はそれ即ち『規格外の術式』の証明。
「闇を斬れ、悪を絶て、混沌に終焉を齎し給え」
それは、私の二つ名の由来──────になったら良いなと考えている魔法。そりゃ二つ名とか齢15の子供が持ってるわけないでしょう。ああいうのは実戦で重ねた功績によって付いてくるものです。実戦さえ積めばどうとでもなると自負してますが、実際にはまだ出ていないので。はい。
「……へえ、大技か。待ってやる、と言いたいところだけど」
メリディさんは三重の拘束を容易く抜け出すと、その鎌を構えてこちらに飛びかかり──────
「聖光剣、解放──────『二重奏』」
その一撃は、光り輝く二振りの剣に阻まれた。
「──────光属性? いや、本来術式により性質・指向性を持たせるものを敢えて持たせずに純化させた光の魔力を凝縮することで質量を持たせた『光そのものの剣』か」
はー! やってられませんわね! これ一発で見抜くとか冗談じゃねえですわよ!?
「まあバレたところでもう遅いですわ。この魔法の本質は──────」
魔法による近接戦闘と遠距離戦闘の両立! 振るう人間を省略し、剣のみを独立して動かすことで本来人間の身体構造では不可能な剣技を可能としたのがこの魔法ですわ! 更にまた別で遠距離攻撃魔法を撃ち込むことで相手に対応のみを強制する、私の最強の布陣!
「うわ、さすがにこれキツいか?」
その取り回しの難しい鎌なら、押し切れますわ──────!
「じゃあいいや、しようぜ素手喧嘩」
同時に叩き込んだ二つの斬撃が、メリディさんの鎌を砕いた次の瞬間。彼女は私の懐にいました。そして、
「『日輪喰らいの蛇』」
グーパンが横っ面に叩き込まれました。
「ごっぶぁ!?」
ギリギリ意識を保って、聖光剣を振るい牽制。お兄様に感謝ですわね、去年まで週に五回は誤射で半殺しにしてその報復で同じく週五回のペースでボコボコにされていた甲斐がありました。お陰で治療系の光属性魔法はめちゃくちゃ得意ですわよ、やってられませんわね。……にしても。
「貴女、そっちが本職ですのね?」
「いんや? 一番強いのは剣握ってる時だから安心しな。ただ──────」
何も持ってない時が一番速いだけ。
「ッ、聖光剣・『四重奏』!」
咄嗟に剣を増やして操作、彼女の行動の先を潰す。そしてその狭間を縫うように光弾を撃ち込み──────いや冗談じゃねえですわよどうなってんですのそれ!?
「殴り壊し甲斐があっていいな」
『殴り壊し甲斐がある』じゃねーですわよ。こっちが遠距離攻撃に意識を割いたら次の瞬間には剣が殴り壊されてますわ。こちらには『剣の操作』と『破壊された剣の再生成』の余裕しかなく、それを疎かにして遠距離攻撃をしようとしたら抑える剣が速攻でぶっ壊されて殴りかかって来る。何でこれ対応出来てますの……?
「……こうなったら、賭けに出るしかありません」
既に展開している剣を離脱、手元へ集めながら伝える。
「……次で、終わりにしましょう」
ここまでで判明したこと。それは、この方は演出家気質だということ。実際、鎌振り回すのなんて軍の中でもエリート揃いである『騎士団』に所属しているお姉様に招かれて忘年会に混ぜてもらった時の隠し芸でしか見たことありませんわ。使いづらい武器を巧みに使いこなし、それが破壊されて手詰まりとなれば次の瞬間には武器を捨てて異なる強さを魅せる。間違いなくそういうのが好きなお方ですわ。で、あれば。この誘いには必ず乗るはず!
「……いいぜ、大技ぶちかまして来な。真っ向から潰す」
そう言って、メリディさんはその両手に魔力を集めていく。我々魔法士が『自身の外に魔力とそれによる事象を出力する』ことを得手とするのに対し、お兄様のような方々は『自分の中に魔力とそれによる事象を出力する』ことを得手とします。それ故に単純な大出力ではこちらが、精密な出力操作ならばあちらが得意なのですが……ちょっとアレ、洒落になりませんわね。
「『曙光』『黄昏』『巡る日月』」
「聖光剣、最大展開──────『七重奏』!」
七本の剣を展開、更にそれを束ねて一振の極光へ。
「『日は沈み』『月は昇る』『月は沈み』『日は昇る』」
「聖光剣、七天合一──────『果てなき希望』」
彼女の右手には闇属性の魔力、左手には光属性の魔力。……相反する力の対消滅、ですわね。
「──────天地開闢の理を識れ」
「絶望よ、反転せよ──────」
そうして、私たちは共に疾駆し──────。
『震天動地覇神拳』
『神去りし空に捧ぐ輝煌の星』
極光と混沌、片方だけでも闘技場を砕く一撃が互いを喰らい合う。そして、その果てに。
「──────お見事でしたわ、メリディさん」
「楽しかったよ、またやろう」
私は地に伏せて。彼女は、勝利の証明としてその手を天に掲げていた。
ルクス・ヴルヌス
高飛車エリート。全自動おもしろ言動人間。メリディとノクスという規格外バグチートがいるから二番手に甘んじてるだけでコイツも世代が違えば周囲から『やってられるかボケ』とか言われるレベルのチート。
面白いと思っていただけたなら、感想・レビュー・いいね・評価をお願いします。




