メリディとノクス
私、メリディ・リムスには……パパとママしか知らない『お兄ちゃん』がいる。
そのお兄ちゃん……ノクス・リムスは、昔からずっと私を助けてくれた。
時々……というか頻繁に意味わかんないことを言う時があるけど、ご飯に私の嫌いな野菜が入ってた時に代わりに食べてくれたり、他にもモンスターに襲われた時に倒したり、勉強でわかんないところを教えてくれたり。
この世界に産まれてからおよそ15年間、ずっと助けてくれたお兄ちゃん。産まれてからずっと一緒で、そしてこれからもずっと一緒。何があっても不可分で、一心同体な人。
……ただ、一つ。一つだけ悩みがあります。
《いやあ、まさか異世界転生かましたかと思ったらこんなことになるとは想定してなかったよ俺。やっぱ上位存在ってクソだな、送られる側のことも送られた先のことも考慮してない。まるでたまにSNSで話題に挙がって炎上する、配達物を玄関先に放り投げる配送業者みたいだ。……配送業者は神様だった……? いや、だとしても邪神の類ではあるだろうが》
どうか神様。ちょーっと、私の中にいるお兄ちゃんを黙らせてくれませんか?
とまあ、お兄ちゃんがうるさくはあったものの。それを無視して、私はある場所に来ていた。
「……ここが、アウローラ魔法剣術学院」
それは、15歳になった少年少女の中でも選ばれたエリートだけが入学を許される国内最高の名門校。そして私は、その学院の入学試験を受けに来ていた。
《こういう学府にチート振り翳して首席入学、入学してからも才能剥き出しの『俺TUEEE』ってのはある種鉄板だよな。近年の流行に合わせたと言いたいところだが、こういう流れが生まれ始めてからの時の流れを考えるとそろそろ新進気鋭とはとても言えないだろうな。古豪は……さすがにまだ早いか》
相も変わらず何言ってるかわかんないお兄ちゃんは置いておくとして……このアウローラ魔法剣術学院は、大きく分けて二つの学科が存在する。
一つは魔法……この世界の人間や、異種族が持つ力『魔力』によって様々な事象・現象を意図的に引き起こす技術を学ぶ、『魔術科』。そしてもう一つは、剣や槍などの武具を媒体とした戦闘技術を学ぶ『剣術科』。
勿論『魔術科』でも武術は習うし、『剣術科』でも初歩の魔法はカリキュラムにある。……普通にそれぞれを特化して教えていいと思うんだけど、何で学科外の内容もやるんだろう。
《簡単な話さ。専門家と言えば聞こえは良いが、裏を返せばそれは替えが効かない上に他の分野を得手としないということ。10人か20人ほどで運営する小規模な組織であればまだしも、百や二百……それ以上の千人単位で運営する大規模なものとなれば、その大半を専門家で賄う訳にはいかない。仮に専門家ばかりにした場合……怪我や病気で運用に穴が空いた時、誰もその代わりを務められなくなってしまう。だからこそ、必要なのは1の専門家と9の万能家なのさ》
……ということらしい。お兄ちゃんの分析によるとだけれど。
《分かりやすく言おうか。剣はめちゃくちゃ強いけど武器がないと何にも出来ない人と、剣使ったらちゃんと強いけど最悪剣がなくてもある程度魔法も使えるからいざという時も割とどうにか出来る人。雇うならどっちがいい?》
なるほど、確かに分かりやすい。となると一番強いのは両方極めた人になるのかな。
《それが出来る人間が居たら苦労しないさ。見るに、武器を媒体とした魔力運用と単純に魔法としての魔力運用は勝手が大きく異なる。それを両方極めるってのは……短距離走と長距離走を両方極めるようなものだ。成長速度と老化までの時間を考慮すると、人間の寿命では足りないだろうね》
ふうん。でも、私たちなら出来るでしょ?
《勿論。俺たちの転生特典はあらゆる魔法や体術を観ただけで模倣、最適化して学習する『模倣正典』と鍛えれば鍛えるほど過剰に成長する『無限強化』。テンプレチートと努力チートも、極めれば個性なんだよ》
よく分かんないけど、それは果たして個性なんだろうか。まあいっか。
校舎内に入り、案内に従って教室へ。座席について筆記試験の開始を待つ。お兄ちゃん、助言に関しては──────。
《当然するよ。俺たちは『二人で一人』、産まれた時からそういう存在なんだ。最早身体機能も同然、使わない方がナンセンスさ。高貴さは強制するとは言うけど、俺たちが二重人格であることは恥じ入る理由にならない。他の受験生を慮るなら、だからこそ持てるもの全てを使うべきなのさ》
……そっか。じゃあ、遠慮なく頼ろうかな。
《存分に頼ってくれたまへ》
というわけでお兄ちゃんの知恵を思いっきり借りて筆記試験を突破。続けて実技試験だ。魔法に関しては普通に私がこなして、武術に関してはお兄ちゃんがやる。昔からそういう風に分業してきたから、今更問題はない。
「メリディ・リムス。魔法の行使を」
「はい」
試験官の指示に従い、魔法を構築する。試験内容は『フィールド内の的の破壊』。そして試験において注目されるのは、『威力』と『射程』、そして『速度』。それ故に──────フィールド端の試験開始地点から、全て撃ち抜くことでクリアする。
「──────灼いて、『眼差し』」
そう呟いた次の瞬間、放たれた真紅の熱線がフィールドの的全てを撃ち抜き焼き払った。
《まさしく『熱い視線』ってわけだ》
お兄ちゃんうるさい。次はお兄ちゃんがやる実技なんだからしっかりしてよ。
《はいはい》
というわけで俺ちゃんのターンだ。我が愛しの妹、メリディが受けた魔法の実技とは異なり俺が受けるのは武術の実技。チート引っ提げてる側としてはエンターテインメント重視で行きたいところだが……。
《お兄ちゃん》
メリディがしっかり見張っていらっしゃる。まあ手を抜く気はないから安心してくれ。
「メリディ・リムス、前へ」
お、呼ばれたな。さて、俺が受ける実技試験の内容は至ってシンプル。試験官と一戦交えるだけ。試験場に用意されてある刃引きされた直剣を手に取り構える。試験官は……槍か。間合いは俺より上、突きと薙ぎ払いの射程・範囲は脅威だろう。……ならば。
「……始めっ!」
その合図と同時に、武術共通の基礎魔法である『身体強化』を起動。踏み込みを強化し一気に肉薄する。試験官の突きは側面に剣を叩きつけて逸らし、そのまま身体を捻って蹴りを繰り出す。何も武器でしか攻撃しちゃいけないってルールはないからな。余裕があれば普通に殴るし蹴る。
《これで手怪我させたら怒るからね》
ある程度は必要経費として勘弁してくれ。別に飛んでくる刃素手で掴んで止めるとかはしないから。
薙ぎ払いには直角に刃を置いて受け止め、弾くと同時に上から踏みつけて地面に固定する。若い女の子の身体様様だな、関節の硬い男の身体だとこうは……まあ柔軟体操をしっかりしていればギリといったところだろう。そしてそのまま地面に突き刺さった槍の上を走って接近、そのまま『剣技』を起動する。
「刃理装填、術理展開──────形式:片手直剣」
繰り出すは、切り上げ・振り下ろし・突きの三連撃。そもそも高校生にもなってないガキ共を揉んでやるだけの試験官、武器さえ封じれば何もしてこない。いや出来るんだろうけどね、まだ14か15の子供相手にそこまでやるのは余りにも余剰だ。それ故にこの三連撃ははっきり言って過剰殺戮甚だしいのだが……まあちょっと楽しくなっちゃった。諦めて喰らってくれ。というわけでどうぞ。
「『双鋏突』ッ!!」
脳天、顎、人中。人体の頭部にある急所三つを一瞬で殴打され、試験官が昏倒する。……これ大丈夫なやつ? あ、一応複数人いるから後の受験生は他の試験官がやると。了解でーす。
《お兄ちゃん、興が乗ったにしては攻撃ガチ過ぎない?》
ついうっかり。有史以来、人は過ぎたる力を振り回して他者との違いを明らかにするのが娯楽な生き物なんだよ。
《開き直らない》
はい。
メリディ・リムス
主人公。15歳の女の子。名前はラテン語で「昼」を意味する「meridies」から。苗字はラテン語で「境界」を意味する「limes」が由来。
殴られたら直ぐに殴り返すタイプ。
ノクス・リムス
主人公。転生者。名前はラテン語で「夜」を意味する「nox」。
笑顔で人の神経逆撫でするタイプの煽りカス。殴りかかられたら普通に動き見切って避けたり掴んで止めたりしてノーダメに済ませる癖にそれはそうとして殴り返して相手沈めるタイプ。
『眼差し』
炎・光系複合属性魔法。文字通りの『熱視線』。鉄くらいなら溶かすほどの温度の熱線を放つ魔法。
『双鋏突』
片手直剣の剣技。振り下ろしと切り上げ、突きの三連撃を繰り出す。今回は刃引きした武器で繰り出したので切断力はない……が、普通に鉄バットで脳天と顎ぶん殴られた後鼻どつかれてるようなものなので死ぬほど痛い。




