神威 静奈(かむい しずな)
慎吾が着替えて、居間に顔を出す。
祖母の恵理子と静奈と呼ばれて、返事をした、アンケートの女の子、が、楽しそうに話をしている。
二人が同時に気が付き、慎吾に目を向けてくる。
先に、祖母が口を開いた。
「慎吾、彼女、かなり遠縁の子なんだけど、神威 静奈ちゃん。急だけど、今日から家であずかることになったの。仲良くしなさいね。」
「よろしくね。」
「あぁ。」
完全に裏を感じさせず、やんちゃな様子を絶妙に混ぜた、明るい笑顔を向けてくる静奈に、慎吾は、こいつ、と、思わず心で毒づいた。
「紅茶でいい?」
頷くと、祖母は、ポットに手を置いて、お湯をカップに注ぎだす。
「そうそう。静奈ちゃん、学校も、教室も、慎吾と同じなんだって。」
ゴン!
慎吾の額が、テーブルに接触した。
「は?」
「私も、驚いちゃって。担任の先生が、同じ住所の奴がいるとかって。」
「そんなこともあるのねー。」
慎吾は、むこうで、別世界のように女子トークを繰り広げる二人を眺めながら、何とか現状を認識し、二人の会話に割って入った。
「ちょっと待って、て、言うか、待て。」
二人が注目するのを確認して。
「学校も、教室も、同じ?俺と?」
「そうよ。」
慎吾には、答えた静奈の明るい笑顔の中に、自分を驚かせたことに対して、ガッツポーズをしている様子を見た。
「どうやった?」
歯軋りしながら、慎吾が静奈を睨み見る。
と。
昨日の夜、夢に出てきた女性が重なった。
ーまさか?ー
だが、今は、それどころではない。
「どうやったも、偶然でしょ。」
祖母が、疑問もなく答えると、
「そうですよねー。とにかく、これからもよろしくね。」
静奈が、同意する。
祖母は、完全に篭絡されている。
「ばーちゃん。じーさんは、知ってるの?」
慎吾は、どう見ても異常事態の今の打開を求めて、畑に行っている祖父に期待するも、駄目だった。
「知ってるわよ。さっき、携帯に電話したから。一区切りしたら来るとか言ってたけど、今、来てないとなると、晩御飯の時になるわね。」
呑気に答える祖母。
横で、黙ってニコニコしている静奈の様子から。
ーじーさんも、篭絡済みか。ー
ニコニコしている口の端が、妙につきあがって見えるのだ。
一言、静奈に言いたかったが、思い浮かばない。
いったん、追及を諦めた慎吾は、気が付かないうちにしていた中腰を止めて、席に座り直した。
「はい。」
祖母が、紅茶を入れたカップを渡してくる。
「うん。」
受け取り、飲まずに、テーブルに置いた。
「飲まないの?」
静奈が、ちょっと、首を傾げる。
裏がない、純粋に疑問に思ったことに対する動作のせいか、妙に可愛い。
ー悪魔か!ー
またもや、夢に出てきた女性が重なる。
「この子。かなり猫舌で、相当ぬるくならないと飲めないの。」
「えっ。そうなんですか。お子ちゃまねー。」
「うるせー。」
二人が、女子トークにもどるのを眺めながら、テーブルに置かれたお菓子に手を伸ばし。
「これー。高そうだけど、、、。」
しっかりとした構造で、かなり凝ったデザインが施された化粧箱に、デザインよく作られたお菓子が、行儀よく並べられている。
どう見ても、近くの、と、言っても、車で暫く走った先の小さいスーパーマーケットで買えるようなお菓子ではない。
「これ。静奈ちゃんが持ってきてくれたの。凄く美味しくて、驚いたわ。」
手に取ったお菓子を、祖母が、美味しそうに頬張ると、自慢げな静奈の目が向けられた。
「ふふふっ。これ、今、かなり話題になっている、有名シェフが手作りしたお菓子なのよ。普通に店に並んだぐらいじゃあ手に入らない絶品なんだから。」
どうよ、褒めろ、と、静奈から言外の圧力を受けながら、
ー昨日の今日で、しかも、学校に行っていたのに、どうやって用意したんだ?ー
彼女の昨日の様子、自分の記憶から、間違いなく、昨日が彼女と初顔合わせ。
それなのに、一日、いゃ、二、三日かけても手に入らなそうなお菓子を持ってきている。
ー忙しくなるんだから。ー
夢に出てきた、女性 天使の声が、慎吾の頭をよぎった。
あらためて、神威、静奈を眺め見る。
ー似てる。ー
髪と目の色が違うし、背丈も違う、女性のふくらみも。
とは言え、体型については、目の前にいる彼女の成長した姿とすれば、違和感なく、顔も、大人びた感じをのぞけば、同じ。
髪と目の色は。
ー天使なら、そのくらいは簡単に切り替えできる、とか。ー
「、、、。」
慎吾が、黙って静奈を眺めていると、彼女の手が動いて、高級菓子をつまんだ。
そのまま、慎吾の方に突き出してくる。
「どうしたの?ほら、たべなさいよ。」
「おっ、おぅ。」
受け取り、今度は、手にある高級菓子を眺める。
「あっ、もしかして、静奈ちゃんが可愛いから、見惚れてた?」
突然、祖母からの一撃。
「はぇっ?」
慎吾は、本当に飛び上がるかと思った。
「あはは。そんなこと、あり得そうですねー。」
よっぽど自信があるのか、(実際、相当な可愛さではある。)、当然のように肯定してくる静奈。
「やっぱり。そうよね。慎吾、駄目だからね。静奈ちゃん、大事な預かりっ子なんだから。」
半分本気、半分は、からかいか、冗談か、で、祖母が口を開き、二人は、そのまま女子トークへ。
慎吾は。
ー嘘だろ。夢だよな。ー
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