闇野 夢見(やみの ゆめみ) 1
バスのステップを上がって、後ろの席、二人掛けの席に、静奈を窓際にして、慎吾が座った。
すると、慎吾が座っている座席についている、取っ手を、誰かが握った。
バスの中はガラガラで、わざわざ、慎吾の座っている座席の横に立つ必要はないのにかかわらず、誰かが横に立ったのだ。
「で?何でついてくるの?」
静奈が、慎吾の向こうに立っている誰かに、険しい目を向ける。
慎吾も、横に立った影を見上げた。
そこに、予想たがわず、闇野、と、呼ばれている彼女が、少し、目を大きくして立っていた。
「何で?と、言われましても、静奈様と同じで、慎吾様のサポートをするためですが、、、。」
闇野、と、呼ばれている彼女は、微妙な色香からくる大人びた雰囲気を壊しながら、可愛く、小首を傾げる。
「あのねぇ。」
前屈みに立ち上がろうとした静奈を、慎吾の手が止めた。
「悪いが、先ず、静奈に確認したい。待ってもらえるか?」
静奈側の手を上げたまま、横に立つ、闇野、と、呼ばれている彼女を見上げると、彼女は、ニッコリと、笑顔になった。
「はい。では、待たせてもらいます。」
「悪いな。」
「いえ。」
見直すと、静奈は、心底、機嫌の悪い表情で、外を見ていた。
ゴトン。
音が鳴り、扉が閉まると、揺れとともに、バスが走り出す。
「静奈。」
「何よ?」
喧々諤々だ。
「まず聞くが、彼女のことは知ってるのか?」
「知るわけないでしょう。」
「でも、選抜会が関係してるのは間違いないだろ。」
「そうね。彼女の義体は、選抜会が用意した、カスタムメイドの義体で間違いないわ。」
「じゃあ、何で俺を呼ぶとき、様がつくんだ?」
「さぁ?わかるのは、私を様を付けて呼ぶから、上位天使、ではないわ。」
「なんだそりゃ。」
「言ったでしょう。私は上位天使だ、って、ランク外の天使から、様付きで呼ばれることが多いのよ。」
「ふーん。」
静奈は、こちらを見ることもしない。
ちらりと、闇野、と、呼ばれている彼女を見ると、目が合った。
「よろしいですか?」
「よろしくないわ。」
慎吾より先に静奈が答えた。
真っ直ぐに、正面から、闇野、と、呼ばれている彼女を見据える。
「何で、選抜会の奴らがあなたをよこしたかわからないけど、慎吾を推薦しているのは私。サポートするのも私。だから、あなたのサポートは、悪いけど必要ないわ。」
闇野、と、呼ばれている彼女は、笑顔で答えた。
「普通なら、それでいいんでしょうが、慎吾様は違いますので、私のサポートも必要なんです。」
「何よ、それ。」
「慎吾様。」
むくれる静奈を袖に、こたらを見る、闇野、と、呼ばれている彼女。
「まず、自己紹介が遅れたことをお詫びします。私は、魔界において、魔王代行を務めている、闇野 夢見、といいます。慎吾様が、魔王として立たれる準備をサポートさせていただくために参りました。よろしくお願いします。」
ーは?魔王?ー
ビクン、と、静奈の体が反応した。
「あなた。悪魔なの。」
そちらを見ると、強烈な、警戒の眼差しをしている静奈。
冷静に見えるが、慎吾の腕に少しだけ触れている静奈の腕は、微妙に震えていた。
「大丈夫ですよ。害意はありません。それに、私は非戦闘員なので、戦うことは全く駄目です。」
夢見は、微苦笑を浮かべながら、取っ手を握っていない手を上げ、肩を竦める。
「何処を、信用しろと?」
強張った発音で、区切りながら答えた静奈は、青ざめるほど強烈に、夢見を警戒していた。
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