帰宅して 1
程なくしてバスが、扉を閉め、走り出し、慎吾は、安堵で体の力が抜けるのを感じた。
怖くて、後ろ、駅前で、募金を望んでいる彼女達のほうへ、顔を向ける気がしない。
ー信号なんかで、止まってんじゃねー。ー
とにかく早く離れたいことから、思わず、危険なことを思いながら、努めて、いつものようにバスの窓から見える前の景色に意識を向けた。
流れていく景色に、建物が少なくなり、かわりに、畑と林が増えていき、慎吾は、バスを降りた。
山間部にある傾斜に沿った畑が続く中に、ポツリポツリと家が建ち、そこを、バスが往来できる道が貫いていて、そこに、ポツンとあるバス停の一つだ。
やかましい音とともに扉が閉まり、客が全く乗っていないバスが、さらに山奥へむかって走り出すと、慎吾は、珍しく少しそのバスを見送って、歩き出した。
別れていく細い道に入り、歩いていき、普通の二階建ての古い家の玄関口を開けた。
「お帰り。」
野菜を洗っていた祖母の恵理子が声をかけてくる。
「ただいま。」
「畑に行くでしょ。爺さんに、時計を見るように言っといて。」
「わかった。」
答えながら横を抜け、慎吾は、二階の自室で作業服に着替えると、裏口から外へ出た。
畑の間を通って、奥に歩いていくと、祖父の次郎が作業しているのが見えた。
「来たよ。婆ちゃんが、時計を見とけ、って。」
慎吾が近づくと、祖父は、少し、顔を上げた。
「そうか、わかった。そっちをやってくれ。」
「了解。」
畑の脇に置いてあった支柱を手に、苗木の脇に立つ。
慎吾が、畑仕事に熱中し始めた頃、祖父母は、いい顔をしなかった。
勉強やら、部活やら、他をほったらかして熱中したからだ。
流石に勉強は不味いだろ、と、説得され、妥協案として、最低限の成績の維持、を飲まされ、何とかギリギリそれを維持しつつ、高校にも合格した今は、二人は、何も言わなくなっていた。
もちろん、高校も、最低限の成績を維持しなければいけないが、維持しいていれば、後は自由、と、他に同年代の子供が全くいないこの集落で、慎吾は、畑仕事にいそしんでいた。
サボりのお仲間ね。
苗木を前にして、先ほどの、アンケートを頼んできた女の子の一言がよぎった。
ー確かに、部活はやってねぇ。勉強も適当で、成績はギリギリ、サボってるように見えるかもしれないけど。、、、過度に頑張るのをやめただけで、べつにサボってるわけじゃねー!スローライフだっ!ー
ふん!
「どうした?」
鼻息荒く、気合を入れたところに、後ろで作業していた祖父が声をかけてきた。
「何でもない、ちょっと、気にくわないことを思い出してさ。」
「そうか、苗木を折らないように気を付けてくれよ。」
振り向きもしないで答えると、祖父も、それ以上は追及しないで、作業を続けた。
食事の後、風呂から上がった慎吾は、ボーっと、窓から外を眺めていた。
やっと、思い出すことが殆どなくなった、あの場面を、明確に思い出してしまったことで、簡単に眠れなくなっていたのだ。
それに、
「あの女、何が、サボりのお仲間、だ。一緒にするな。」
時間は、ずるずると、流れていった。
「で?何でさっさと寝ないのよ。」
気が付くと、金髪を腰まで伸ばした、エメラルドグリーンの瞳を持つ美女が、目の前にいた。
何故か、かなり気分を害しているようで、それを、慎吾の責任のように言ってくる。
「えっと。誰?」
「誰でもいいでしょ。とにかく、あなたがはやく寝ないせいで、この後、私、かなり忙しくなるんだから。」
「そんなこと言われても、全くわから、、、、ないんですけど。」
年上みたいな様子の為、一応、丁寧に。
ー寝た、って言うのは?ー
慎吾は、なんとなく、自分の頬をつねった。
「痛くない。」
「ちょっと、聞いてるの?あなたのせいで、私が忙しくなるのよ。謝るとかしないの?」
女性が、勢いよく詰め寄ってくる。
「理由が全くわからないので、謝る気にならないですけど。」
流石に、理由もわからないのに言ってくる女性に、慎吾も、目を細くして言い返す。
ちっ。
ーて、舌打ちするんかい。ー
口には出さず、心でつっこんでおく、慎吾。
「まぁ、いいわ。今回は、大目に見てあげる。」
「全く、理由がわかりませんが。」
「そうね。確かに、今は理由がわからないかもしれないけど、すぐにわかるわ。そしたら、私に思いっ切り謝りたくなるから。いい?」
彼女は、自分の優位を示して機嫌がなおったのか、鼻高々に慎吾に目を向ける。
「今、理由がわからなければ、意味がないと思いますので、じゃあ。」
ーなんだよ、全く。どう見ても、不味い奴じゃないか。ー
昼間のこともあり、夢とは言え、急いで退散した方がいい、と、判断したのだ。
女性に背を向けて歩き出す。
「ちょっと。待ちなさいよ。」
後ろから聞こえてくる女性の声は、無視。
だが。
「無駄よ。」
いつの間にか、女性が、目の前に立っていた。
「ここは、私が用意した空間、あなたは、私の許可なくここからは出られないわ。」
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