行きは、ギリギリ、帰りは、、、? 1
チャイムがなり、授業が終わる。
担任の佐原 悠真が、席を立っていく生徒達の傍ら、荷物をまとめて顔を上げた。
「神威、少し話がある。悪いが、一緒に来てくれないか。」
席を立って、いつものメンバーの方に向かっていた静奈が、立ち止まった。
「はい。えーっと。」
返事をして、静奈がメンバーを見ると、聞こえていたらしく、手を振ったり、頭の上でマルを作っている。
「わかりました。」
「悪いな。ついて来てくれ。」
「はい。」
「先生。俺もいいですか?」
ガタン、と、音を立てて立ち上がった慎吾だった。
嫌な予感がして、思わず声を上げてしまったのだ。
担任の佐原は、少し考えるように慎吾を見て、
「藤原か、、、。いいだろう、どうせ、後で話すことになるしな。一緒に来てくれ。」
歩き始めた。
慎吾と静奈は、担任の佐原について、教室を出た。
「ちょっと。私一人で、十分なんですけど。」
担任の佐原の背を見ながら、小声で、静奈がつついてきた。
「はぁ。静奈、絶対、厄介ごと起こすだろ。」
慎吾も、小声だ。
「なによ。私が、トラブルメーカーみたいに言わないでほしいんですけど。」
「何を言ってんだ。静奈が、トラブルを起こしたから、呼ばれてるんだぞ。」
「、、、。」
言い返したいものの、呼ばれた理由に気が付き、言えなくなった静奈が、頬を膨らませて横を向く。
ー裏が感じなければ、滅茶苦茶、可愛いんだよなぁ。ー
眺めてしまう横顔。
思わず、見惚れていると、
「何だ。悪い話ではないと思うから、神威も藤原もとりあえず、最後までちゃんと聞いてくれな。」
担任の佐原に遮られた。
「じゃぁ。先生は、、、。」
「あぁ。一応、簡単には聞いてる。と、待っててくれ。」
いつの間にか、職員室に来ていたらしく、担任の佐原が中に入っていく。
「あっ。」
「話は、校長室だ。」
慎吾と静奈は、思わず、顔を合わせた。
「ろくな話じゃないのは、間違いなさそうだな。」
「あーー。もぅ。めんどくさいわね。」
「おーい。」
「言っておくけど、私は、走ってタイムを出しただけで、周りが勝手に騒いでるんですからね。」
「それは、そうだけど。」
「つまり、私のせいではないわ。いい。」
腰に手をあて、言い切る静奈に、なにを言っても無駄だと気が付く。
「へいへい。」
と、一応賛同。
一気に、機嫌が回復した静奈は、ニヤリ。
「よろしい。」
ため息をついていると、職員室の扉が開いた。
「よし。行くか。」
「「はい。」」
担任の佐原は、二人を背にして、隣の校長室の扉の前に立った。
「佐原です。」
扉を数回ノックすると、中から声が聞こえた。
「入ってくれ。」
担任の佐原、静奈、慎吾の順で、中に入った。
正面に、何度か顔を見たことがある、校長がデスクのむこうに座っていて、前にある応接セットの片側に、女性一人を含む、三人が座っていた。
互いに紹介をすませ、入ってきた順で、先に来ていた三人の向かいに座った。
先に来ていた三人は、陸上競技連盟から来ていた。
座ると、すぐに、真ん中の初老の男が口を開いた。
「休みの時間にすまないが、神威君、君に、悪い話ではない。いや、間違いなく、いい話だと思っている。だから、先ずは聞いてほしい。」
目に、熱意をのせて、初老の男は、静奈を真っ直ぐに見つめる。
「はっ。はぁ。」
中途半端に答えた静奈は、困ったように、微妙に俯いた。
ー単純に、強力に押されると弱いみたいだな。ー
女子陸上部のキャプテンをしている林に誘われた時を思い出す。
慎吾は、自分では気が付かない状態で、冷静に、言うべき言葉を考え始めた。
「神威君、君は、自分が出したタイムの意味を知っているかね?」
「はい。その、100メートル高校女子のトップタイムに近いタイムだと聞いてます。」
「そうだね。素晴らしいタイムだ。だが、その意味は、それだけじゃない、神威君、君が持っている可能性、と、言う意味を持ってる。」
「可能性、ですか?」
「そうだ。」
初老の男は、静奈の呟きのような一言に、強力な熱意と、自信と確信を織り込んだ笑みを浮かべた。
「神威君、君は、間違いなく、世界のトップをとれる。間違いない。」
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