あなたは、神がいると思う? 2
表情を険しくした慎吾は、それをそのまま、声にのせた。
「なんだ。その質問は。」
彼女は、それを無視して、胸元の十字架をつついた。
背丈は、慎吾と同じぐらい、その彼女の胸元は、制服でわかりにくいが、大きめのふくらみがありそうで、その上で輝く十字架は、まだ新しいもののようだった。
「なんだ、って、いわれてもねぇ。こう言う学校のアンケートなんだから、当然でしょ。」
何を言ってるの?と、肩をすくめる。
慎吾は、息を吐きながら肩を落とした。
「自分が信じてないのを、人に勧めるのはどうかと思うけどな。だいたい、何でこんな田舎にそんな学校の奴らが来てるんだよ。」
今度は、彼女が肩を落とした。
「度胸付けよ。」
「なんだそりゃ?」
「こう言う学校だから、卒業したらそういうところにいくことになる場合が多いでしょ。そしたら、人前で話すでしょ。今の子は、そういう事は苦手な子が多いから、今年からやることになったの。私達は、ここの駅が当番なの。」
「アンケートもか?」
「ふふっ。」
してやったり。
彼女の笑みの意味は、外に考えられなかった。
ーちっ。何で、こっちが引っかかったみたいな笑い方なんだ?ー
「これは、私の提案。いくら何でも、いたいけな女の子に、個人的に声掛けさせる学校ではないわ。何で私が提案したかかわかる?」
「サボるため。」
即答しながら、慎吾は、自分が捕まったことを自覚した。
「正解。即答とは、流石、サボりのお仲間ね。」
「違う。」
とりあえず、抵抗だけはしておく。
彼女は、微笑みではなく、明白にニヤニヤと、慎吾を上から下まで見回す。
「まさか、こんなところで見つかるとはねぇ。」
「仲間じゃない。勝手に決めるな。」
「ふふっ。」
細くなった目に、背筋が凍る。
「おぃ。」
「ねぇ。」
「まずはっきり言うが。俺は仲間じゃない。」
「それはいいから。もう一度、問くわ。」
慎吾は、彼女の目に、真剣な思いが浮かんだのに気が付き、黙った。
「あなたは、神がいると思う?」
「俺も、もう一度言う、自分が信じてないのを、人に勧めるのはどうかと思うけどな。」
慎吾が、少し間をあけて答えると、彼女が、首をふった。
「違うって。信じるか、信じないか、じゃなくって。神がいると思う?って、聞いてるの。どぅ?ちなみに、これの神様じゃなくて、八尾ロ図の神でも、神様なら何でもいいわよ。」
彼女は、言いながら、胸元の十字架をつまんで振った。
「いようがいまいが、あてにする気も無いし、俺には関係ないな。」
集中治療室に、包帯に巻かれて寝かされた二人を背に、
「時間の問題です。」
医者が、うつむき加減に、はっきりと言った。
その時の慎吾には、今でもそうだが、神に祈るしかなかった。
祈って。
祈って。
祈って。
祈って。
祈って。
、、、、、、、、。
叶わなかった。
以降、慎吾は、神をあてにすることをやめた。
同時に、二人を助けることは、祈った程度で叶えてもらえる程、簡単なことではないこと、と、当然の如く、慎吾自身も、そんなことはできないことから、自分自身の身の程を知ることになった。
「あらあら。でも、いたら、便利だと思わない?」
また、慎吾を見上げる姿勢をとった彼女は、面白そうに笑っている。
「便利とか言ってる時点で、絶対、信じてないだろ。」
無言で胸を張って、再び胸元の十字架を指し示す。
慎吾は、思いっきり、わざとらしくため息をついた。
「胡散臭い臭いしかしねえよ。」
彼女の表情が、すっ、と、険しくなっていく。
「あなたねぇ。ちょっとは察してよ。建前ってのがあるんだからさぁ。」
「建前があるなら、あっさり、信用してないのを認めるなよ。」
言い終わったところで、慎吾は、彼女が、また、ニヤニヤと笑っているのを確認した。
「なんだよ。」
「なんでもないけど。」
ニヤニヤの意味がわからない。
「おい。」
「後ろ、バス、来たみたいよ。」
プシュー、と、エアーの漏れる音と、ガチャガチャと扉の開く音が聞こえ、慎吾が後ろを向くと、バスの扉が真後ろにきていた。
他に、このバスに乗る様子の人はなく、チラッと、慎吾が彼女を見ると、相変わらずニヤニヤと笑いながら、手を挙げて振ってくる。
「またね。お仲間さん。」
「仲間じゃねー。」
断言すると、バスのステップを上がった慎吾は、彼女が見えなくなる奥のほうの席に座った。
読んでいただき、ありがとうございます。
よければ評価をお願いします。




