通学トライアル 1
いつものように、ちらほらと人が乗っているバスに揺られて、駅へ向かった。
「なぁ。学校、どうなってると思う?」
景色も、いつものように、田舎から、町へと変わっていっている。
「大丈夫でしょ。ちょっと、ニュースで流れただけじゃない。」
静奈は、特に気にした様子もなく、外を眺めている。
「俺も、そう思いたいが。嫌な予感がするんだよな。」
なんとなく、腕を組みながら、外ではなく、バスの中を見回す。
変わった様子はなく、薄っすらと、顔に覚えがある人が乗っているだけ。
「心配性ね。」
「こう言うときは、慎重、って、言うんだぞ。」
静奈が、可愛い仕草で、小首を傾げ、
「あらあら。そこはお仲間なのに、意見が違うのね。私は、慎吾は心配性派だと思うわ。」
思いっ切り、息を吐いてやった。
「仲間じゃない。俺は慎重派だ。」
「ふふっ。」
「何だ?」
「楽しみだなっ、て。」
「おぃっ!」
ートラブルメーカーの思考じゃねーか!ー
バスは、珍しく時間通りに着いて、二人は、駅前に立った。
「ふふっ。慎吾が、心配性派だって、証明されるのが楽しみ。」
こちらに回り込むようにして、見上げてくる静奈。
ー笑みが、悪魔じゃなければねぇ。ー
「俺だって、心配しただけ、で、終わって欲しいんだからな。」
周りを見回してみる。
バズか時間通りに着いたこともあって、多少、人の様子が違うが、それ以上はない。
まばらに、同じ学校に行く学生たちの流れに沿って、二人は歩いていき、学校の正門に近づいた。
「待った。」
横を歩いている静奈の前に手を出す。
「どうしたの?」
「人、多くね?」
正門の前に、明らかに人だかりが出来ている。
学生が、不思議そうに眺めながら、前を通って学校に入っていっている。
よく見ると、マイクらしきものを握って、話をしているようだ。
「不味いな。取材だぞ。」
立ち止まっていると、静奈が前に立った。
「別に、関係ないじゃない。行こうよ。」
「この状況で、静奈以外の、誰を取材するんだよ。」
「えっ?私なの?」
信じられない、と、自分を指差す静奈。
「おぃ!」
「あー、わかったから。結局、慎重派の慎吾が正解だったのね。面白くないわね。」
肩を落として、呑気に頭をかいている静奈に、慎吾は、ため息しか出なかった。
「呑気にしている場合じゃないぞ、どうやって学校に入るつもりだ。」
「別に、急いで入ればいいんじゃない?」
「あの人数だぞ、上手くいくわけないだろ。」
「そう?」
「見つけた!!あなたが神威 静奈さんでしょ!」
横から、声が割り込んできた。
声の方を見ると、派手気味なワンピースを着て、同じく、派手気味なピアスを付けた女性が、スマートフォンをこちらに向けて立っていた。
「物凄く可愛い子だから、すぐにわかります、って、ほんとね。」
言いながら、スマホをずらして顔を見せる。
派手な化粧に、長い髪をした女性は、ニッと、笑った。
「私ね。動画配信をしている、ユリアよ。よろしくね。ちょっと、神威さんにいろいろと聞きたいことがあって来たんだけど、、、、。」
「おい!多分あれだぞ、見つけたぞ!!」
今度は、男の声が飛び込んできた。
見ると、何人かが、鬼気迫る勢いで走ってきている。
手には、スマホを持って、こちらに向けている。
彼女と同じ、動画配信者だ。
「ちっ。」
ー距離はまだある。ー
慎吾は、静奈の手を掴んだ。
「走るぞ!」
「えっ。ちょっと!」
「あっ!待って!」
静奈と女性の声を無視して、慎吾は、住宅街に入っていく脇道へ、静奈を引っ張りながら走りこんだ。
右へ、左へと、交差点を曲がっていく。
田舎の入り組んだ住宅街は、知らない者が追跡するのは難しかったらしく、慎吾の息が上がるころには、彼らを振り切っていた。
静奈の手を放して、両ひざに手を突き、慎吾は、息を整えている。
静奈の方は、息一つ乱さず、慎吾の横に立っていた。
「大丈夫?」
「て、言うか、ちょっとは疲れろよ。」
「私がこのくらいで疲れるわけないでしょ。」
「そんなこと言ってるから、、、。」
「それより、慎吾こそ、私の手を引いて、カッコよくやったんだから、見え張った方がいいんじゃない?」
途端に、自分がしたことを思い出し、耳まで赤くなるのがわかった。
「そっ、それは、、、。」
顔を上げると、ニヤニヤ笑う静奈がいた。
ーげっ。悪魔の笑み。ー
刹那に、気分が警戒に切り替わった。
「大丈夫よ。今回は、大目に見てあげる。」
読んでいただき、ありがとうございます。
よければ評価をお願いします。




