やりすぎ畑仕事
相変わらず、自分たち以外に乗車する人がいないバスの、後ろの方の席に、並んで座った。
もちろん、静奈が窓際。
「彼女、林さん、だったか。毎日、陸上部に入るまで来ると思うぞ。」
窓枠に肘を当て、その腕の手に顎をあて、静奈は、ため息をついた。
「そうはならないわ。暫くしたら諦めてくれるわ。」
ーそうなるわけだな。ー
「タイムの記録そのものを、なかったことにできないのか?」
こちらの話に、少し考えるように目を閉じて。
「できないことはないけど、かなり面倒ね。しかも、失敗する可能性が高いわ。」
「失敗?」
「あのねぇ。」
驚くこちらに、苛立たし気な表情になった静奈。
そのまま、話を続けた。
「未来に対しての変更は、割と楽だけど、過去に対しての変更は、大変なのよ。何しろ、関係者に一斉に細工をしないといけないし。まぁ、そのくらいなら私でもできるけど、記録がね。」
「記録?」
「メモとか、パソコンとかのデータとかね。」
「それか。その記録を書き換えるようには?」
「書き換えさせることはできるわ。けど、その行動をなかったことにするのが大変なの。何しろ、その間の別の記憶を、それに関連してくる人、全員分、齟齬が無いように用意しないと駄目なのよ。それなら、そのまま、諦めてもらう方が確実で、簡単なの。」
「なかなか、難しいんだな。」
「当たり前でしょ。そりゃあ、選抜会の奴らなら簡単にやっちゃうと思うけどねぇ。」
「確かに。じゃあ、適当に諦めてもらうまで、我慢だな。」
「そうなるわね。」
バスは、いつの間にか走り出していた。
バスを降りて、家に向かって歩き出す。
暗くなるには、まだ暫く時間があった。
「この後は、静奈はどうするんだ?」
「私?そうねぇ、こたつを堪能しようかな。」
少し首を傾げて考える様が、しっかり絵になっている。
ー話の内容が聞こえなければ、だけどな。ー
「本当に、こたつが好きなんだな。」
「ふふっ。そうみたい、何だか、サボってる、て、言う気になるのがいいのよね。」
嬉しそうに微笑む姿は、、、。
ー話の内容が聞こえなければ、と。ー
「その、堪能したいところを悪いが、畑仕事を手伝うのはどうだ?」
綺麗な目が、こちらを見て、くりっと動く。
「あら。面白そうね。いいわよ。」
「よーし。決定だな。いくか。」
「ん。」
二人は、作業服に着替えると、祖父のいる畑に向かった。
「爺さん。静奈が手伝ってくれるらしいから、連れてきた。」
「おー、そうか、助かるな。よろしく頼むよ。」
「はい。お願いします。」
「あぁ。そうだな、むこうに、まだ手を付けてない畑があったろ。そこを頼む。」
「わかった。行くぞ。」
「うん。」
畑の脇に置いてあった支柱を手にして、慎吾は、静奈を見た。
手に持った支柱を見せ、
「このくらいなら、持てると思うぞ。」
「あっ、と。そう言うことね。このくらいね。」
わかったらしい静奈は、こちらより少し少ない数を手に持った。
言われた畑に移動して、苗木の脇に立つ。
「まず、この支柱を、苗木の脇に倒れないようにしっかり刺して、、、。」
慎吾が、説明しながら、支柱を持って、苗木の脇に刺す。
静奈も、真似をして、
「んっと。こう?」
ドッ。
聞いたことがない音がして、支柱は、半分ほど地面に潜り込んでいた。
「おーい。そこまでしなくても、俺ぐらいあればいいぞ。」
「えっ。そうなの。早く言ってよ。」
「いや。そーだけど。」
言うと、静奈は、半分ほど潜り込んだ支柱を、簡単に引き出す。
かなりの力が加わっただろう支柱は、無事のようだ。
「よく折れなかったな。」
「私も、そう思ったから、ちょっと強化。」
「いゃ。必要ないから。」
「はいはい。」
今度は、こちらのと見比べつつ、同じほどに立てる。
「次は、こいつだ。」
ビニール紐を静奈に渡し、苗木を縛る。
「解けないように、しっかりな。」
「ん。」
ピチッ。
またもや、聞きなれない音。
苗木が千切れ、支柱が折れていた。
一呼吸おいて、静奈に。
「なんで?」
静奈は、ちょっと、頬をかき、支柱を折ったとは思えない、全く、綺麗な状態のビニール紐を見せた。
「えっとね。この紐、弱そうだったから、ちょっと、強化して、しっかり、縛ろうとしたの。」
「そうか。強化は、考えない方がいいぞ。」
「そっ、そうみたいね。」
静奈は、少し下がって、惨劇を眺めている。
慎吾は、その前に立って、支柱を引き抜く。
「とりあえず、これはそっちに置いといてくれ。」
「うん。ごめんね。」
「いいぞ。気にするな。」
支柱を、静奈に渡して、千切れた苗木を拾う。
「見るまでもないか。」
「それ、貸して。」
支柱を置いた静奈が、手を出していた。
「あぁ。でも、完全に千切れてるんだぞ。」
「わかってるわ。」
渡すと、苗木の千切れたところを合わせるように持ち、手を添えた。
微かに、添えた手が光る。
手を退けると。
「上手くいったみたいね。」
千切れたところが、繋がっていた。
「おいおい。」
「植物には、治癒を使ったことがなかったけど、上手くいってよかったわ。」
ー畑仕事で、魔法連発、、、。ー
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