帰宅
「そろそろ、時間みたいだぞ。」
宗久が、教室の時計を見て、五郎に声をかけた。
二人は、同じバスで帰るのだ。
「おぉ。行くか。」
五郎が立ち上がり、
「おぅ。」
宗久も、立ち上がった。
慎吾は、二人を見上げながら、ふと、思ったことを口にした。
「そういや、畑の様子はどうだ。」
「うちは、いつも通りだな。」
「こっちも、かわらないな。」
鞄を肩に掛けながら、二人が答え、五郎が、慎吾を見た。
「慎吾の方は、どうなんだ?」
「うちはちょっと増やしたから、思ったより忙しくてなぁ。」
肩を竦めると、宗久が。
「神威ちゃんに、手伝ってもらったらどうだ?」
それに、五郎が反応した。
「おっ、いいな。滅茶苦茶美味い野菜ができそうだ。」
「なっ。」
「美味いかはともかく、手伝ってもらうのはいいかもな。」
ー異常に美味いのとかにしないよう、注意する方が大変そうだけどな。ー
「「できたら、くれ。」」
「考えとくよ。時間ないぞ。」
「そうだな。じゃあ、明日な。」
「じゃあ、明日。」
「おぅ。明日な。」
二人が教室を出るのを見送り、運動場へ目を向ける。
ー速いだろうと思ったけど、まさか、高校女子のトップタイムに近いとはね。ー
力はあるだろう、と、思っていたが、予想以上のようだ。
ー抑えろ、って、言っても聞かないか、もしくは、抑えて、それか。ー
考えていると、影が近づいてきた。
「慎吾、そろそろ帰るでしょ。」
静奈だ。
後ろに、今まで喋っていたらしい、女子の集団が見える。
「そうだな。行くか。」
鞄を肩に、立ち上がり、静奈の横に並んだ。
「それにしても、帰りまで一緒の必要はないぞ、喋りたければ、べつにゆっくりしていてもいいぞ。」
「あのねぇ。私、慎吾のサポートなのよ。学校内ならともかく、行き帰りぐらいはついていかないと。」
「変なところで、真面目なんだな。」
「区別がついてる、と言って欲しいわ。」
ふんす、と、鼻息を荒くする静奈。
ー厄介ごとに巻き込まれそうなんだよなぁ。ー
「にしても、タイムのことだけど。」
「あれで、目一杯、手を抜いたのよ。走った後に、疲れた振りをするのに、疲れちゃうぐらい手を抜いたのよ。」
「そっか。」
横で、ため息をつきながら教室を出てた。
少しして。
「ごめんなさい。貴方が、静奈さん?」
三年生らしい女子に、声をかけられた。
「そうですけど、なんでしょう?」
驚きながらも、立ち止まった静奈、それを見て、三年生らしい女子が笑顔を作った。
「先に、自己紹介するわね。私は、女子陸上部のキャプテンをしている、林 志野よろしくね。」
慎吾は、目を覆った。
「あのー。もしかして。」
静奈も、わかったらしい。
「あはは。わかるわよね。そう、陸上部に勧誘しに来たの。お願いできないかしら。」
運動部らしい、健康的に日に焼けた顔に笑顔を浮かべる林に、静奈が、あっさり頭を下げる。
「ごめんなさい。今は、全く考えていませんし、タイムも、本当に、偶然で、、、。」
「それはないわ。」
林は、真剣な表情になって、静奈の言葉を区切った。
がっちりと、静奈の手を、両手で握り。
「静奈さんは、間違いなく速いわ。そんな偶然で出るタイムじゃないのよ。静奈さんは、間違いなく、オリンピックに出られるわ。それどころか、この国のベストを更新できるかもしれないわ。いえ、間違いなく、更新できる実力が眠っているわ。だから、お願い、是非、陸上部に入ってもらいたいの!」
「えーっと。」
簡単に断るたろう、と、言う、こちらの読みと違い、何故か戸惑う静奈に、仕方なく、介入することにした。
「あのー。」
はっ、と、林がこちらを確認し、静奈の手を放した。
「ごめんなさい。バスの時間があるので、今日はこのあたりで勘弁してください。」
林の目線が、こちらから静奈に。
「あっ。彼、同じバスなんです。とりあえず、今日は時間がないので、ごめんなさい。」
言って、ストンと頭を下げ、歩き出す静奈。
「すんません。」
慎吾も、林に頭を下げながら、静奈を追う。
林は、何かを言いかけたが、諦めたのか、手を下げた。
「簡単に、きっぱりと断ると思ってたのに、どうした?」
少し速歩きで移動しながら、横にいる静奈を見る。
「どうもね。天使の本能なのか、熱意のある相手には、弱いのよ。」
「うぉっと。」
足がもつれた。
「っ、と。そっちこそ、何やってるのよ。」
転びそうになるこっちから、静奈が急いで離れる。
「いゃ。静奈が、天使みたいなこと言うから、驚いただけ。」
「私、天使ですけど。」
「中身は、、、。と、確かに、天使だな。」
ー見た目は。ー
「絶対、そう思ってないでしょ。」
「そんなことはないぞ。」
「もぅ。」
二人は、来ていたバスのステップを上った。
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