体育の授業 1
通勤、通学が重なる時間のバスは、多少、人が乗っていて、静奈を窓際に、二人が並んで座ると走り出した。
景色が、田舎から、建物が多い町へと変わっていく、それを眺めながら、今日の授業の内容を、ボーっと、思い出してみる。
ーそういや、今日の体育、マラソンだったなぁ。ー
隣で、同じように、外を眺めている静奈の横顔が見える。
「そうだ、今日、体育があるけど、体操服とか持ってるのか?」
声に、その、綺麗な瞳がこちらを向いた。
「まだ、教科書もまともに持ってないのよ。当然、ないわ。」
聞くまでもないでしょ、と、口を尖らせている。
「俺のでよければ、ジャージを貸してやるぞ。」
「あっ、本当?じゃあ、借りるわ。ま、そこまでやる気も無いから、サボってもいいけどね。」
「やっとけ。」
サボるに反応して、ジャージを押し付けてしまう。
「はいはい。」
静奈は、ほとんど何も入っていない鞄に、ジャージを押し込む。
「男と女で、線の色が違うけど、サイズは多分、大丈夫だろ。」
「ん。ありがと。」
バスは、いつもの如く、遅れて駅前のバス停に着き、少し、急ぐことになった。
教室に入ると、一斉に目が向き、
「静奈。おはよー。」
教室の真ん中あたりで固まっている集団の、一人の女の子が声を上げた。
「おはよー。」
静奈も、片手を上げながら答え、歩いていく。
慎吾は、その集団を回り込んで、教室の後ろの隅に向かった。
「おぉ。はよ。」
佐賀 五郎。
「今日は、遅かったな。」
石島 宗久
「はよ。変なところで渋滞してて、焦ったぜ。」
慎吾が近づくと、二人が立ち上がって、肩に手を回してきた。
「おぃ。何だよ。」
半眼になった二人の目。
「おぃ。じゃねーだろ。」
「てめー。どう言うつもりだ。」
二人の腕に、力が入った。
「おい。痛いぞ!」
二人の、あいている手が上がり、慎吾の額に向けて、デコピンの構え。
「そうだろうな。だが、俺たちの心は、もっと痛い。」
「そうだ、お前に、デコピン100発でも足らない。」
「何が言いたいんだ。早く言え!」
二人は、同時に手を下げ、同時に。
「「神威ちゃんと一緒に住むって、本当なのか?」」
ー神威?ー
誰のことか、一瞬、わからなかったが、
「静奈のことか。」
呆然と、二人が固まった。
その隙に、腕を振りほどく。
「こいつ。今、名前で呼びやがった。」
「ぐぬぬぬ。しかも、かなり親しげに呼びやかった。」
「うあぁぁぁ。こいつだけは、仲間でいてくれると思ったのに。」
「高校に入って、一か月程で裏切りに、、。」
二人は、うねうねと、苦悶の踊りを踊り始めた。
「おい。確かに、同じ住所にいるけど、それだけだぞ。」
ピタッと、止まる二人。
「それだけ、とかいったぞ。」
「大丈夫か、こいつ。」
「「なぁ。」」
腕を上げてきたため、下がって捕まらないようにする。
それを気にする様子もなく、踵を返した五郎が手を上げた。
先に、教室の中ほどで、楽しそうに話している静奈。
「見ろ、彼女を。わからんのか、あの可愛らしさ。」
「間違いなく、天使!」
ー本当に、本物の天使なんだけどな。ー
心で突っ込む慎吾に、再び、二人の目が向けられた。
「その、彼女と一緒に住むことが、それだけ!とは。」
「まさしく!万死を!」
両手をワキワキと動かしながら近づく二人に、こちらも、じりじりと下がりる。
「落ち着け二人とも。もしかしたら、中身は悪魔かもしれないだろ。」
五郎が、くわっと目を見開く。
「あほか!見ろ、彼女の可愛さ。どう見ても天使。悪魔とは、よく言ったものだな。覚悟はいいか?」
と、宗久が手を上げた。
「待て。俺はむしろ、悪魔ほうがいいかもしれん。」
「はぁ。」
「なっ。宗久。お前、狂ったか。」
五郎が殺気立ち、慎吾は、呆れて半眼になった。
「よく考えろ、彼女が悪魔だとして、ちょっと、エッチい恰好をして、小悪魔ポーズをしてくれるんだぞ。」
「「、、、、、、。」」
「そっ、それは、、、。」
五郎が、その場面を思いたったのか、呆然と呟く。
ーあいつが、そんな恰好、するわけねーだろ。ー
と、思うも、面白半分でやりそうなため、何も言えない。
「しかも、だ。」
もったいぶって、区切る宗久。
「まっ、まだあるのか。」
横で、五郎がオロオロと、目を躍らせている。
こめかみに指を当てて、目を細くしている慎吾の前で、宗久が、ゆっくりと、喋りだした。
「今の彼女が、清楚な天使の姿のままで、中身が悪魔だった場合。今の彼女が、そのままで、小悪魔ポーズをしてくれる。って、ことだぞ。」
ダン。
五郎が、崩れるように膝をついた。
「ダブルパンチ、、、、。」
ー完全な、本気の悪魔の笑いだったら、それどころじゃねー!!ー
「あはは。」
教室の中ほどで、楽しそうに話している静奈の笑い声。
三人は、思い思いの目線を彼女に向けた。
授業の始まるチャイムが鳴り響く。
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