オーバースペック
早朝から、苗木の世話をしていた慎吾が、裏口の扉を開けると。
「慎吾、急いだ方がいいわよ。」
祖母、恵理子の声が聞こえた。
顔を向けると、テーブルで、静奈が朝食を食べている。
「おはよ。」
「あぁ。おはよう。」
眠そうにしているが、静奈は、学校に行く準備は終わっているようだった。
急いで部屋に行き、着替えて、テーブルにつき、朝食をかきこむ。
他、諸々を準備して、
「いってらっしゃい。」
「「いってきます。」」
玄関を出た。
天気はよく、見える田畑では、夏に向けての準備がすすんでいるのがわかる。
車一台がやっとの道を、静奈と並んでバス停に向かって歩いていく。
「ねぇ。」
他の田畑の様子を見ていると、静奈がこちらを見ていた。
「なんだ?」
「昨日のサボり、まだ謝ってもらってないいんだけど。」
一瞬、膝の塚らが抜けて、転びそうになった。
「お前。まだそんなことを、、、。」
むー、っと、静奈の顔が少し膨らみ、尖った口が動く。
「当たり前でしょう。私、凄い忙しかったんだよ。」
「知るか!静奈が勝手にやったことだぞ、だいたい、俺は全く知らなかったんだぞ。」
「それこそ関係ないでしょう。私が、短い時間の中で、必死に準備したサプライズが無駄になったのは、事実なんだからさ。」
息を吐くのに合わせて、慎吾の肩が落ちた。
「俺、熱が出たから休んだんだけど。」
静奈は、聞こえない、と、ばかりに、むこうを向いてしまう。
「おぃ。」
さらにむこうに顔を向け。
「治したから、ノーカン、熱はでてないになってて、サボりなってるの。」
また、ため息をついてしまった。
「なぁ。聞きたいんだが。」
話題が変わったのに気が付いて、あっさり、こちらに目を向ける静奈。
「何よ。」
機嫌は、悪いらしい。
「んー。静奈が準備を始めたのは、俺の夢で別れてからだよな。」
「そうよ。あの短時間で用意したんだから、謝るべきよね。」
「知らん!て、言うか、どうやったんだ?爺さんや婆ちゃんを篭絡して、菓子まで用意して、サプライズまで。」
「はぁ?」
明らかに、馬鹿にした目線で答えてくる。
「あのねぇ。選抜会の奴らがやったに決まってるでしょう。彼らは、本物の神なのよ。人については、微妙に記憶を上書き、物については、現物をちょいと。に、決まってるでしょう。」
ー悪魔の所業にしか聞こえん。ー
当然、と、疑う様子もない様子に、戦慄を覚える。
「だ、、。大丈夫なのか?そんなことやって。」
軽く、本当に、軽く、静奈は、肩を竦めた。
「大丈夫に決まってるでしょう。稀にやってることだし。」
「あ、、。そう。」
ー稀に、て。何回もやってんのか。ー
「そ。それに、今回は、選抜会の為に、私みたいに、義体に入った天使が相当数降りてるから、余計に、いちいち手続きなんてやってられないし。」
「滅茶苦茶すぎて、ついていけん。それに、相当数の天使、て、静奈みたいなのが何人も?」
「何人じゃないわ。100は超えてたと思うけど、詳しくは知らないわ。」
ー間違いなく、不味い。ー
慎吾の俄然に、壊れていく社会が見えた。
ちらりと静奈を見る。
可愛い。
その一言しか言いようがないのに、その一言が陳腐にしかならない可愛さ。
ー100人以上かよ。ー
他の天使達の容姿はわからないが、彼女と大差ないだろう、正直、それだけで、社会が崩壊できる。
ーまぁ、そのあたりは、選抜会とやらが何とかしてそうだけどな。ー
彼女の話から、それなりに前から潜入している様子がある為、今、崩壊していないことから、正解だと思える。
「義体、って?」
静奈が、自分の鼻先をつついた。
「この体のことよ。天使業務をするだけなら問題ないけど、こちらで生活するとなると、天使の体だと不便が多いから、義体に入ってるの。」
慎吾には、昨日、箱をあっさり持ち上げる静奈が見えた。
「で。あの馬鹿力か。」
「仕方がないのよ、体に強度がないと、器になれないの。ちなみに、今は、ノーマルモード、普段の生活に支障がないように訓練して馴染ませてあるわ。緊急用に、ブートモードがあって、その上に、天使モードがあるわ。」
次に、こたつであったまっている、その背に、純白の羽、頭の上に、金色に輝く輪を浮かべ、金髪を腰まで伸ばした、エメラルドグリーンの瞳を持つ美女が見える。
「天使モード、って、あれか。」
「そ。私の元の姿に戻るやつね。まぁ、使いすぎると義体が壊れる可能性があるから、多用はできないけどね。」
「ふーん。」
こちらを、静奈がのぞき込んできた。
「、、、。何だよ?」
そのまま、追加で、もう少し、首を傾げる。
「この義体、ちゃんと成長するから、そう遠くないうちに、髪と目の色以外は、元の私と同じ姿になるのよ。」
「そうか。」
「今は可愛く、将来は美人確定、その上、上位天使の私にサポートしてもらえるのよ。嬉しいでしょ。」
「中身が悪、ではな。」
「ちょっと。そんな些細なこと、どうでもいいじゃない。」
「些細じゃねー。それから、サポートはいらん。何にもするな。いいな。」
ニヤリ。
何処から見ても、悪魔的な、それでいて、強力な魅力を放つ微笑み。
「何だ、その笑いは。」
「ん?なんでもないわ。」
ー違う、これから崩壊がはじまるんだ。ー
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