第4章 未来の恋
第四章です
モニターに映る桜色のワンピースのアバターが、そっと姿勢を整えた。
ひらりと揺れた裾は、風もないのに静かに落ち着きを取り戻す。
まるでミライが、心のどこかで“言葉を選んでいる”かのようだった。
「先生……ひとつ、お伺いしてもいいですか?」
「何?」
「先生は……恋をしたことがありますか?」
ミライの情動波形が、細い糸のように揺れた。その微かな跳ねは、言葉よりも先に胸へ届くものだった。
ミライの問いかけに、逸平はわずかに首を傾けた。
まるで、遠い棚の奥にしまい込まれた記憶を探るような、静かな仕草だった。
「恋……?」
ひと呼吸おいて、記憶の抽斗をゆっくり開けるように続ける。
「どうだろう……しばらく記憶にないな。」
逸平がそう答えると、ミライの波形がふっと柔らいだ。 わずかな揺れだったが、その波はどこか軽やかに見えた。
「ふふっ、先生らしいですね。」
「らしい?」
「はい、なんとなく……先生は、恋とか、仕事以外のことにはあまり興味がないのかなって。私の勝手なイメージですけど。」
逸平は、返す言葉を一瞬見失い、ただ「そうかな」と小さくつぶやくしかなかった。
ミライの情動波形が、ふわりと膨らむ。
まるで、その瞬間に合わせて呼吸したかのように。
「先生……」
「うん?」
「実は……」
ミライは、ほんの少しだけ声音を落とした。
治療ログの自動解析には拾われない、ごく微小な揺れ。
「私、最近恋をしているんです……。」
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