9.133番めがね書林さん
133番のめがね書林さんは、ご夫婦でやっている棚主さんだ。
旦那様が作家の緒真坂さんで、棚の左半分にご自分の著作、右半分にご自分の本棚から持ってこられた本を並べている。
ネット書店も開設していて、中野のほうにも本を置いており、「インスタで見た」と本を探しにくる方もいる。
めがね書林さんの本は、ご自身の著作も本棚から持ってきた古書もよく売れる。やっぱり目利きの感じがする。
私はよく、めがね書林さんの本を、棚から引っ張りだして、目立つところに置く。するといつのまにか、ちゃんと売れている。書店にくるお客さんの嗜好と合うのかもしれない。
趣味は古書店巡りだそうで、レコードにも造詣が深い。
いっぱいになった本棚の整理を兼ねて、渋谷〇〇書店に古書を並べているそうだけど、自宅の本棚はいつまでもスッキリすることなく、本があふれかているらしい。
店番には奥様が立ち、旦那様はお客さんに本の説明をしたりサインをされたりして過ごされている。書店には、いつもご夫婦で連れ立ってこられる。
シークレット本は奥様手作りのカバーがかけられ、こちらも人気だ。
学生時代は勉強、社会にでてからは仕事……と、脇目もふらず生きてきた私と違い、文面からは都会で青春時代を過ごした若者らしさと遊び心が漂う。
(ああ、ちゃんと青春を送ってこられたんだなぁ)
音楽に演劇、そして文学……古い喫茶店が似合いそう。本のタイトルもしゃれていて、目を留めて気になった本を買っていかれるお客さんも多い。
入店したばかりの頃、奥様がドラえもんのついた服を着ておられ、それをきっかけに話しこんだ。
緒真坂先生からは、ライトノベルについていろいろ質問された。
文芸誌にくらべて、ライトノベルはどうして景気がいいのか……というような内容だったと思う。景気……いいのかなぁ?
「ラノベは……そうですね、エンターテイメントだと考えています。読ませるよりも、楽しませる。読者さんを気軽に異世界へ連れて行くんです。ライバルは小説や本ではなく、動画やアプリなど、読者さんの時間を奪うものですね」
「なろうはひとつ当たったら、二番煎じ、三番煎じがすぐ出てくるでしょう?」
「そういう傾向はありますが、時代劇と同じですよ。同じパターン、似たような展開だと読者さんも安心して読めるんです。それに二番煎じ、三番煎じが書ける作家さんは、それこそ本当のプロですよ。きちんと分析して、文章の構成も組み立てられる。職人のような方々ですよ」
「以前はケータイ小説というのがあって……」
「すみません、ケータイ小説は読んだことないです」
ちゃんと答えたつもりだけど、創作界隈やその変遷については、実を言うとさっぱりわからない。
ZINEという自費出版の同人誌が人気なことも、渋谷〇〇書店の棚主になってから知ったのだ。
自分の本が発売されることになって、ようやくXのアカウントを作り、「世の中には本をだしたい人がいっぱいいるんだ!」とびっくりしたぐらいだ。
だしたい人はどんどんだせばいい。
私は単純に本好きだから、本を創る作業も楽しめているけど、べつに書籍化の声がかからなくともかまわない。
なろうならお金もかからず、好きなときに好きなように書けるし、誰にも迷惑がかからない。
なろう出身のライトノベル作家が、そのへんをチョロチョロしていることはあまりないため、珍しかったみたい。









