7.155番 ものと本棚書店さん
「これ、本が実際に書店に置かれた時の、シュミレーションができる!」
もちろん代表作の『魔術師の杖』はPOD出版のため、委託販売が中心の一般書店には並ばない。けれどコミカライズの第1巻は全国の書店で販売される。1巻の評判がよければ、2巻以降だって……。
本が書店に並んだとしても、著者は自分で段ボールの梱包を解いたり、平台に本を積み上げたりはしない。それでも「どうしてそうするのか」は知っておきたいと思った。
出版社にとって書籍化は投資であり、投入した資金はキチンと回収しなければならない。
売れるかどうかわからない本を作る余裕は、今の出版社にはない。読者さんを抱えているなろう作家に期待されるのは、必ず結果をだすことだ。
私の仕事は百点満点ではないかもしれないけど、少なくともひと目で「こんなの売れないよ」と言われるものは作らないし、出版社にも作らせない。
渋谷〇〇書店で店番をやるときは、店頭の2段になった場所と、店の中央にある平台が自由にディスプレイできる。
元書店員の棚主さんが説明してくれた。
「平台のどこにどの本を置くかは、決まっています」
「マジですか⁉️」
たとえば横6列、縦6列なら36種類の本が置ける。それらは適当に置かれるのではなく、すべて場所が決まっているのだという。
(これ『平積みしてもらいました!』って撮った写真を、うっかりSNSにあげちゃいけないヤツだ!)
私は戦慄した。
売れ筋商品、売り場に華を添える季節物、手に取りやすい新刊……見る人が見れば、その書店における本の格付けまでハッキリ伝わってしまうなんて。
「あなたの本、『すぐ消える』と思われてますよ!」
そんなこと、作家さんご本人には絶対に言えない。
いやいや、書店ごとに基準は違うし!
ほかではドドーンと推し本コーナーに置かれているかもしれない。
とりあえず、もしも書店で自分の本が平積みされるようなことがあれば、写真の撮り方は気をつけようと思った。
「こんなん売れねーよって思ったら、開梱して即、返本BOX行きですよ」
「えええ⁉️」
なんと!売れないと判断されたら、売り場に並べてもらえないなんて……。
季節は移り変わる。お客さんが求める本も、どんどん変わっていく。新刊はつぎつぎに発売される。それに合わせて閉店後に平台に積み上げられた本を、全部入れ替えるなんて考えただけでも重労働だ。
本を売り場に並べてもらうだけでも、作家さんたちは感謝しなければならない。
「お客さんがストレスなく、パッとほしい本を見つけて買えるのが、いい本屋です。いつまでも目立つところに、売れない本を置いていたら、それだけで『この本屋は品ぞろえが悪い』と評価されてしまいます」
「なるほど」
単純に書店の目立つ場所に、本を置くだけじゃダメらしい。奥が深い。
渋谷〇〇書店は共同書店だから、仕入れや在庫管理まで悩まなくてもいい。光熱費や店の維持費を考えることもない。置かれている多くの本は古本で、売り切ったらそれで終わりだ。
そんな気楽な状況で、しっかり書籍販売について学べるのはありがたかった。
155番の『ものと本棚』書店さんは、アーティスティックな絵本を中心に、雑学の本なども扱う。こちらは古書が中心の品揃えだ。
山盛り本を詰めこんだリュックサックを背負って、滝のように汗をかいてふぅふぅ言いながら店に現れ、大きな手でガッ、ガッと本をつかんで補充をされている。
やはりめぼしい本を目立つところに置かれる一方、数ヶ月動かなかった本は持って帰るとおっしゃる。
「え、でも古書ですよね。売れ残ったらどうされるんですか?」
「またしばらくしたら出すこともありますが、動かない本はいったん下げます。棚をつねに新鮮な状態にしておきたいんで」
「棚をつねに新鮮な状態にしておく……」
新刊を扱うビーナイスさんも、古書を扱うものと本棚さんも、どちらも人気の棚主さんで、しかも同じような工夫をされていた。
「売れている棚主さんは、本を売るだけでなく、ちゃんと下げるんですよ」
後日、ほかの棚主さんにそう話したら、「えっ、そうなの?」とびっくりされた。こういうのも本の動きを観察しないと、気づかないのかもしれない。









