6.1番ビーナイス書店さん
130名ほどいる棚主のなかで、1番のビーナイス書店さんは、2021年の開店当初からいる棚主さんだ。
私が棚の説明をするときに、お決まりの口上がある。
「1番のビーナイスさんは出版社の本棚で、ご自分のところで出している本や、全国のブックフェアで見つけた面白そうな本を買いつけて、新刊を中心に揃えています。おとなりは宗谷さんという作家さんの棚で、ご自分で書かれた推理小説と本棚にあった本、という風に並べています」
古くからやっているだけあって、ビーナイス書店の棚は常連さんに人気なのだ。入店してすぐにビーナイス書店の写真を撮り、本を吟味して購入されるお客さんを何人も見た。
実際、全国各地の文学フリマを回って、めぼしい本を見つけては仕入れておられるらしい。人脈も広そうだ。
(そんな人に『魔術師の杖』はどう見えているんだろう?)
ちょっと思った。
そもそも、たいていの本好きの人にとって、電子書籍は見えていない。
紙の本だとかさばるし、電子書籍は持ち運びできて、どこでも読めるから便利。
絶版になった本が、データとして復活することもあるから、電子書籍は便利。
とはいえ私も逆に、渋谷〇〇書店に棚を持つまで、ZINEと呼ばれる自費出版の小冊子のことなんて、まったく知らなかった。
「ふつうの書店では手に入らない本がほしい」
インスタか何かで情報を拾うらしい。お客さんは探して本を見つけたら、その写真を撮って、インスタかSNSにあげている。
10年たっても読み継がれているZINEがあるくらいだ。
カフェでラノベを読むのはオシャレじゃなくて、コーヒー一杯を飲むあいだに読み終えるような、バッグの中でも場所を取らない、薄い本を読むのが高感度な若者には流行っているらしい。
それだけでなく、自分で作って売ったりもしている。
漫画を読む人は多少、なろう系を知っているけれど、そうでなければ興味すら示さない。
私に手売りのことを教えてくれた、先輩作家さんの言葉を思いだす。
「今はナントカ賞を取った、作家のサイン本なんて見向きもされないのよ。うっすい本が人気なの。うっすい本!」
たぶん『うっすい本』というのは、このZINEと呼ばれる本のことだろう。
(なるほどなぁ……)
ビーナイスさんはマメな方で、バイトさんのいない平日を中心に、月2〜3回は店番をされる。
だからちょくちょくお会いする機会はあって、何回か言葉を交わした。
「ここの本棚の本は品揃えが面白い」と、お客さんが言うだけあって、補充される本はどれも面白そうだ。
それをさりげなく、店内の目立つ場所に置かれる。
(さすがだなぁ……)
見守っていたら、ビーナイスさんがサッと本を動かした。
(……お⁉️)
なんとそれまで目立つ場所に置いてあった本を、あっさりと片づけたのだ。
もちろんかわりに他の本を置いてらっしゃるが、それまで置かれていた本がイチオシなのかと思っていた私は、意表を突かれた。
(あ、小さくても『書店』なんだ!)
書店の品揃えはバラエティに富んでいる。もちろん書棚にはきちんと分類された本が並ぶけれど、店頭に置かれた本は季節や流行を取り入れたものが多い。
売れてほしいから、お店は本を店頭に並べる。けれどお客さん目線で考えたら、ほしくもない本が目の前にあっても困ってしまう。それもいつまでも置いてあったとしたら……。
だからサッと引っこめる。棚に戻して違う本をだす。
たとえ棚の前後にある本を入れ替えただけだとしても、目先を変えることで本に動きがでる。するとお客さんの目には、常に新しい本が並んでいるように見える。
(棚ひとつでも手間のかけ方で、集客力が違うんだ……)
それに気づいたことに私は嬉しくなり、家に帰ってさっそく娘に教えた。娘は目をぱちくりして、こう答えた。
「ママってホント、研究者気質だよね」
まぁね、理系だもんね。









