13.208番 GACHA BOOKSさん
渋谷〇〇書店の奥まった一角にGACHA BOOKSさんの棚はある。今は亜細亜書店さんのすぐ上だけれど、棚のボックスは時々位置を入れ替える。将来は違うかもしれない。
その名の通りガチャガチャをイメージしていて、中身がわからないよう紺色の紙で覆った本を、貼られたラベルの説明書きだけで選ぶ仕組みだ。シークレット本というヤツである。
「何を買うか悩まなくてすむ」
「自分だと選ばないような本が読めそう」
それにちょっとした冒険心。そんな理由でウケていた。
ご本人はすごく几帳面そうな方で、1冊1冊リストを作って管理されているらしい。
たまに補充にこられると、奥の座り読みスペースに陣取って、在庫や売れた本をチェックし、時間をかけて出品準備をされている。
(渋谷〇〇書店のひとり読みスペース。寝転んで本が読めるほど広い。GACHA BOOKSさんに限らず、キャリーケースを持ちこんで長時間くつろぐ方も)
そんなGACHA BOOKSさんが、本に値段をつけているときに声をかけてみた。
「ふつうに本を並べるより、大変じゃないですか?」
「……大変です」
声の響きがガチだったから、やっぱり大変みたい。GACHA BOOKSさんは本屋巡りが好きなのだという。
「紀伊國屋書店とか、行くと感心しちゃうんですよ。パッと目につくところに面白そうな本が置かれていて。あのセンス、最高です」
「なのにご自分の棚の本は、全部覆っちゃうんですか?」
「それはそれで面白いかなって」
手間はかかるけれど、わざと条件を制限して、あれこれ工夫するのも楽しいのかもしれない。最近は、小見出しみたいな付箋も本につけられるようになった。
そんなGACHA BOOKSさんに、私は教えてあげた。
「GACHA BOOKSさんの棚のあたり、カップルゾーンなんですよ」
「えっ」
「カップルで来店した方のどちらかが、『面白そう』ってGACHA BOOKSさんの本を物色し始めると、手持ち無沙汰になったもうひとりが、近くの棚から本を引っ張りだして時間を潰すんです。結果的にそこだけ、カップルの滞在時間が長いんですよ」
「ま、マジですか、そんな使われかたをしているとは……」
びっくりして天を仰いでおられた。棚主さんにも想像のつかない、お客さんの挙動を観察しておいて、後で教えてあげるのは楽しい。
書店デートするカップルは、意外と多いのだ。ふたりで楽しそうに、本を開いてのぞきこんでいて微笑ましい。
ちなみにGACHA BOOKSさんの隣はケルト書店さんで、アイルランドやスコットランドの音楽や文化、ケルト神話の解説などを置いている。
これまたBOXがそのうち、移動するかもしれないけれど。









