10.みんなの書店さん
「PODいいよね。本が足りなくなったら、必要なぶんだけ刷って棚に補充するだけだもん」
そう言ったのは『議会制民主主義』について研究されている、みんなの書店さんだ。仲間内で編集した本は、Kindleで電子書籍も販売されている。
「出版社に原稿渡して、あとは電子で読めるし。それにこの書店に棚を持ったら、Kindleでも安定して売れるようになったんだよ」
「へえぇ……そっかぁ、そんなふうに気楽に考えることもできますね!」
「そうそう、紙の本売るのなんて大変だもん。この書店、いろんな人が来るからさ。けっこう見られてるんだよ。誰が見てるかわからないけど、ちゃんと認知されてくみたい。ときどき地方の文学フリマにでかけていくのも楽しいよ」
「それはいいですね!」
私の本のこともほめてくれた。
「粉雪さんのPOD、すっごくいいじゃん。紙も印刷の質も、これで2千円で収められるなら、たいしたものだよ」
「インプレスは自社工場で印刷・製本するんですよ。技術はしっかりしてるんです」
「うらやましいなぁ。AmazonのPODは紙がペラいからねぇ」
実際、すごい技術なのだ。ペーパーバックの本を買って下さるお客様に、印刷の出来をほめて頂くことも多い。
ソフトカバーの美麗なラノベに慣れている人からすると、2,200円の『魔術師の杖』は高いけれど、出版に詳しい人が見れば、その値段におさめる企業努力まで評価してもらえる。
「それに表紙がいいよねぇ。僕も若い世代に訴えようと、イラストレーターさんに女の子のキャラクター描いてもらったんだけど……中身とあまりにも合わないって、反対されちゃってさぁ。ページをめくれば『議会制民主主義』じゃ、ダメかなぁ」
気さくな研究者の方で、書店を借りてイベントも開き、もう満足されたという。
「2年近くやったけど、現物を書店に置くだけでも違っていた。今はKindleでちゃんと売れるようになったからね。目的は達したよ」
みんなの書店さんはそう言って、10月末に撤収されていった。
本を店に並べたら絶対反響があるはず……同じような考えで始めた棚主だけど、先達の言葉に改めて勇気をもらった。
それと……もっと気楽に楽しめばいい、そんなふうにも思えた。









