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第2話 廃れた村と「スコップの男」

 川沿いを歩き続けた拓真は、太陽が中天にのぼりきる頃、ようやく森の出口にたどり着いた。

 視界がぱっと開け、乾いた風が吹き抜ける。

 そこには広い草原があり、その先に、木の柵で囲われた小さな集落があった。

「――村だ」

 声が自然と漏れた。

 しかし、喜びより先に、職業柄どうしても“状態”が目に入ってしまう。

 柵はところどころ朽ちており、板は歪んで、隙間だらけ。

 打ち付けられた釘は錆び、木材は黒ずみ、乾燥で割れている。

「完全に年数経ってるな……更新も補修も追いついてねぇタイプのやつだ。

 というか、ここ、台風来たら柵ごといくぞ……」

 独りごちていると、突然――

「止まれ!!!」

 鋭い叫び声が、乾いた空気を震わせた。

 柵の上の見張り台に、痩せた男が立っていた。

 槍を構えているが、その槍先は小刻みに震えていた。

 怖れているのか、それとも責任が重いのか。

「そ、そのまま動くな! こ、ここはミリア村だ! 怪しい者は入れるわけにはいかん!」

「怪しい……って言われてもなぁ……」

 拓真はゆっくりと両手をあげる。

 腰にぶらさがるのは、スコップとツルハシだけ。

「武器を捨てろ!!!」

「いや、これ武器というか作業用……いやまぁ人に振り回したら武器なのは否定しないけど……うん、置きます置きます」

 地面にそっと置く。

 土に差し込んだスコップが、妙に存在感を放った。

(……この状況だと“完全に怪しい流れの旅人だな俺”)

 少し泣けてきた。

 と、その時。

「サム! 何事です!?」

 村の中から、落ち着いた張りのある声がした。

 現れたのは中年の女性。

 痩せてはいたが、背筋がまっすぐで、目は凛としている。

 彼女が村長だと、見ればわかる。

「村長! よそ者です! 武器を持っていて……!」

「スコップとツルハシですけどね」

「武器じゃないですか!!」

 サムは完全にスコップ恐怖症になっていた。

「あなた……旅の方ですか?」

 女性が拓真に問いかける。

「旅というか……気づいたら森にいて、歩いていたらここにたどり着いた、というか……」

「…………それは、ずいぶん大変でしたね」

 信じたわけではないはずなのに、否定もしなかった。

(あ、この人、話が通じるタイプだ。助かる……)

「私はこの村の代表、ミリアと申します。あなたは?」

「土浦拓真。土木の現場監督……でした。いや、してました。いや、今も気持ちはしてます」

「現場監督……?」

 その単語に、サムがピクリと反応した。

「道をつくったり、建物建てたり、土砂崩れ防止したり、地形を読んで土地を整えたり……まあ、そんな仕事です」

 少し、誇りを込めて答える。

 すると――

「村長!!」

 サムが身を乗り出した。

「川だ! 川をなんとかできるかもしれない!!」

 村の中に案内されると、その荒廃ぶりはさらに露わになった。

 家々の壁はひび割れ、藁屋根はところどころ抜けて空が見える。

 地面は乾き切ってひび割れ、畑らしき場所も、土が白く痩せていた。

 人も少ない。

 10軒ほどの家があるのに、子どもが一人も見えない。

 静かすぎるほど静かな村だった。

「以前は、もっと人がいました。

 ですが、川の上流で土砂崩れが起き、水がこちらに流れなくなってしまって……」

 ミリアは、言葉を選びながら話した。

「畑が枯れ、人が病み、他所に移り……今、残っているのは、移れない者たちだけです」

「……水が来ないと、土地は死にます。

 水は……現場の生命線です」

 拓真は呟いた。

 ミリアは小さくうなずいた。

「あなたは、川を見てくださいますか」

 村全体の静かな視線が、拓真に集まる。

 誰も声を発しない。

 ただ、必死に、祈るように見つめていた。

 拓真は息を吸い、ゆっくり吐き出した。

(スーツも、重機も、測量機材もない。

 でも……)

 スコップの柄に手を置く。

(これだけは、ある。)

「現場を、見せてください。原因を見て、できるかどうか判断します」

 ミリアは深々と頭を下げた。

 サムは目を潤ませた。

 そして――

「ありがとう……本当に……」

 その声は、かすれていたが、震えるほど真っ直ぐだった。

 こうして、土浦拓真。

 異世界での**最初の“現場調査”**に向かうことになった。

 スコップとツルハシだけを携えて

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