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一話 夜の森

忙しくて更新遅れました

すいません、

夜の森は、想像以上に恐ろしかった。

 焚き火の炎が頼りなく揺れ、闇はその向こうで生き物の気配を隠している。

 遠くからフクロウの声、時折、得体の知れない獣のうなり。

 普段なら工事現場の重機の音に包まれて過ごす拓真には、この静寂が逆に不気味でならなかった。

「……夜勤明けの現場よりきついわ……」

 声に出さなければ心が折れそうだった。

 いつもの仕事は、人に怒鳴られたり無茶振りされたりでストレスが溜まる。

 だが今は――命がけ。

 拓真は火を絶やさぬよう、周囲から集めた枝を次々と焚き火にくべる。

 火の粉がぱちぱちと舞い、顔を照らす赤い光が心の拠り所だった。

「火は命……ってのはマジだな。現場も一緒だ。照明が落ちたら事故まっしぐら。

 ……こっちは事故ったら“死亡”だけどな」

 そう呟きながら、スコップで焚き火の周りに浅い溝を掘った。

 もし夜中に雨が降っても火が消えないように――。

 無意識に“現場監督の癖”が出ていた。

「排水ヨシ。……いや、ほんと俺、何やってんだろ」

 次は寝床だ。

 ツルハシで木の枝を地面に打ち込み、即席の支柱を作る。

 そこに枝葉を組み合わせ、さらに落ち葉を積み重ねる。

 簡易的な屋根と壁が出来上がった。

「……悪くねぇ。見た目はボロでも、台風で飛ばされる仮設トイレよりはマシだな」

 笑いながらも、どこか誇らしげに眺める。

 土木現場で鍛えた空間把握力と応用力が、こうして生き延びるための術に変わるとは。

 ただ、問題は食料だった。

 空腹がじわじわと襲ってくる。

 拓真は森をうろつき、木の実や草を見つけるたびに試しに口へ運んだ。

「……にっっっが! これ絶対食ったら腹壊すやつだろ!」

 吐き出しながらも、少しでも腹に入れておかねばと無理やり飲み込む。

 口直しに焚き火で枝を焦がし、炭を噛んで胃の不安を誤魔化した。

「炭は吸着作用があるって聞いたことあるしな……。

 ……いや俺、いつからサバイバル芸人になったんだよ」

 夜半になると、森の奥から狼の遠吠えが響いた。

 それはさっき倒した個体と同じ魔物の仲間だろう。

「……バレてんのか? おい勘弁してくれよ」

 焚き火の光の外、闇がざわめくように思える。

 背筋が凍りつき、眠気どころではなかった。

 スコップを手に取り、焚き火の周囲に浅い落とし穴を掘り始める。

 泥と落ち葉でカモフラージュし、即席の防御陣地を築く。

「これで多少は時間稼ぎになる……。

 ……いや、こんなん夜勤で仮眠時間削って書類作ってるのと大差ねぇな」

 自嘲気味に笑いながらも、手は止まらなかった。

 体は疲れているのに、頭は妙に冴えていた。

 やがて東の空がうっすらと白み始めた。

 鳥の鳴き声が聞こえ、森に朝が訪れる。

 拓真は焚き火の残り火を足で潰し、深く息を吐いた。

「生き残った……。マジで、生き残っちまった……」

 体中が痛く、腰は軋んでいる。

 だが心の奥底に、奇妙な充実感があった。

「……よし。現場は続く。次は水場と食料の確保だ」

 スコップを肩に担ぎ、ツルハシを手に、拓真は森の奥へと歩き出す。

 木々の隙間から差す朝日が、まるで新しい工期の始まりを告げるようだった

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