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「……また始発かよ。俺、いつ寝てんだ?」

 土浦拓真、三十五歳。

 土木会社の現場監督。職人たちに怒鳴られ、元請けに無茶振りされ、役所に書類でしばかれる男だ。

 朝五時半。

 缶コーヒーで胃を荒らしながら家を飛び出し、満員電車に押し込まれる。

 揺られること一時間。耳には建設現場特有の音が近づいてくる。

「おーっす監督!」

「おはようございまーす!」

 現場に着くと、職人たちが声を掛けてくる。

 拓真は笑顔で手を振り――すぐさま眉をひそめた。

「おい! そこの兄ちゃん! ヘルメットのあご紐! 締めろっつってんだろ!」

「あ、すんませーん!」

「謝る暇あったら締めろ! 事故ったら俺が怒られんだよ!」

(ほんっと、監督って損な役回りだよな……。安全管理で怒鳴れば嫌われるし、怒鳴らなきゃ事故るし)

 安全朝礼が終わると、作業が始まる。重機のエンジン音が響き、鉄骨を吊るクレーンが空を横切る。

 拓真は無線を握り、走り回りながら指示を飛ばす。

「そこ、もうちょい下げろ! ……おい止めろ! お前、合図なしで動かすな!」

「す、すみませーん!」

「はぁ……(俺、怒鳴るために現場来てんのか?)」

 昼前。休憩室の隅でコンビニおにぎりをかじっていると、スマホが鳴った。

 画面には元請けの担当者の名前。拓真は深いため息をつき、通話ボタンを押す。

「はい、土浦です」

『あ、土浦くん? ちょっと工期、一週間縮められないかな』

「はぁ!? 一週間!? 無理ですよ!」

『いやいや、そこをなんとか。職人さんにお願いすればできるでしょ?』

「……(できるかボケェ! 俺が魔法使いならやってるわ!)」

「すみません、それは現場的に危険なので――」

『いやいや、安全も大事だけど、施主がね? 早くって』

「(知るか! 俺の命削ってんだぞ!)」

 なんとか電話を切ると、今度は現場に役所の職員が来る。

「この書類、フォーマットが違いますね。再提出してください」

「えぇ……またですか?」

「えぇ、またです」

「(お前らのフォーマット、毎週変わってねぇか? 趣味か?)」

 心の中で毒づきながら、拓真は笑顔を作った。

 日が暮れてからは事務所で書類仕事。

 日報、施工計画、KY活動報告、安全衛生管理表。

 気づけば深夜一時。

「はぁ……。工期は守れ、予算は削れ、でも品質は落とすな……。

 ――いや、魔法でもなきゃ無理だから」

 乾いた笑いと共に、カップ麺をすすりこむ。

 現場監督という仕事には誇りもある。だが、消耗するばかりの毎日に心は削られていく。

(俺も、そろそろ“産廃”かもな……)

 事務所を出て帰ろうとすると、資材置き場の脇に古びたスコップとツルハシが見えた。

 泥にまみれ、錆びてひび割れた柄。

 もう誰も使おうとしない道具。

「……俺と同じか」

 ぼそりと呟き、拓真はツルハシを握った――その瞬間。

 ――カッ!

「なっ……! うおっ!?」

 ツルハシが青白く光を放ち、スコップが脈打つように震える。

 資材置き場が歪み、足元が吸い込まれるように沈む。

「ちょ、待て待て! まだ日報出してねぇ――!」

 拓真の声は光にかき消された。

「……っ、痛って……。……ここは……森?」

 見渡せば、見知らぬ木々。湿った土の匂い。

 空には、信じられない光景――二つの月が輝いていた。

「おいおい……。これ、異世界転移ってやつか? マジで?」

 手を見れば、握っているのはツルハシとスコップ。

 試しに地面に落ちていた剣を拾おうとした瞬間――

【この武器は装備できません】

「はぁ!? ちょ、なんだよこのシステムボイス!?」

 慌ててツルハシを握ると――

【ツルハシを装備しました】

「いや、なんでだよ! よりによってツルハシ限定!? 俺、ドラクエなら商人以下だぞ!?」

 混乱していると、茂みがガサガサと揺れた。

 赤い目を光らせた狼のような獣が姿を現す。

「……おいおい。転移一発目がモンスター? 剣も魔法もなしで? 俺の武器はスコップとツルハシ……?」

 乾いた笑いを浮かべ、拓真は構えた。

「――ははっ。マジで現場監督、死ぬまで現場だな」

 こうして、土浦拓真の

『スコップとツルハシで世界を掘り進む!土木監督の異世界開拓記』

が幕を開ける。

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