プロローグ
あの日、私は彩花と高校の合格発表を見に行った。
仲が良かった私達は同じ高校を受けていた。
でも、着くまでの道のりは、はっきりいって覚えていない。
会ったときの挨拶も、電車での会話も。
そのかわり、番号を探したときのこと、そして、帰り道のことは脳に焼き付くように覚えている。
高校に着いた私達は必死に自分の番号を探していた。
そんな時、ふいに、彼女が呟いた。
「102番、あった。」
102番は、私の番号だ。
「え!? うそ、ほんとだ!あった!」
私はびっくりしていた。まさか受かるとは思っていなかったから。
同時に、これから訪れるだろう嫌な未来を思い浮かべた。
ー もし彩花が受からなかったら?
「彩花は135番だよね?」
「うん」
彼女は視線を固定したまま、答えた。
「えーっと、128、131、134…137。」
「「...」」
予感はあたってしまった。
私は受かった。でも、彼女は不合格だった。
その後の会話はあまり覚えていない。
ただ、二人で黙って帰ったことは確かだ。
同じ高校を受けて受かった人の電車内でのにぎわいと、対照的に沈む彼女は、映画のワンシーンのようで覚えている。
ざわめきから抜け、再び黙って歩く。
ただただ、辛かった。自分が許せなかった。でも、同時に安心している自分がいた。
前の代の人たちみたいにならなくて、よかった、受かってよかった、と。
気付いたら彼女の家に着いていて、現実に引き戻された私は なにか言わなきゃいけない と思い、余力を振り絞って声をかけた。
「えーっと...頑張って、ね」
上手く言えた自信がなかった。感情のこもっていない空虚な声だと自分でも感じた。
いまの一言が逆に彼女を傷つけてしまったかもしれない。
「ううん、恵美は何も悪くないよ。合格おめでとう」
無理やり貼り付けたであろう、引きつった笑顔でそう言われた。
それを見たらもう何も言えなかった。
ドアが閉まった数秒後、彼女は家の中で泣いた。
その声に引きつけられて、しばらく立ちすくんでいた。
先程までの受かったことへの喜びが砕け散った。
自分の気持ちに戸惑っていた。
「私、私...どうしたかったのかな?」
狭い道に、私の声がひとつ落ちた。
家についたあとも、そのことばかり考えていた。
当然、母には「どうだった?」と聞かれた。
「受かったよ」
私はまた空虚な声で言った。
「あら、おめでとう。よかったじゃない」
人の気も知らず、母はにっこり笑って言った。
やっぱり、お母さんは”幸の代”だからわからないんだ、と頭の中に染み付く彼女の泣き声を聞きながら思った。
部屋に戻っても、喜びは訪れなかった。当たり前だ。
だって私は、彼女に自分の不幸を押し付けて、自分が不幸にならないようにしたんだから。
私は、人の不幸のうえに立っているのだから。
声を押し殺して泣いた。でも、それは喜びの涙ではなく、孤独の上に咲いた寂しい涙だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
まだまだ初心者ですが、温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
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