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009 きみを殺すことに等しい

「……動きませんね」アウロラはゴーレムを見て言った。


 サハリム・ギアにいるゴーレムは、完全に行動を停止していた。

 以降、王家の末裔であるファリーダに仇をなすもの以外には、攻撃をしないのだろう。


 ずっと地下にいるので時間の感覚がわからなくなってきていたが、そろそろ夜も近い。

 明日にまわしても良いけれど、さっさと事件を解決してしまいたかった。


 再度アウロラと協力し、サハリム・ギア中心部のマッピングを行う。


「あ」と不意にアウロラが声を出した。「ここ、なんか、変ですね」


 仮想的にマッピングされた地図の一箇所が、やけに広大な空間だった。

 サハリム・ギアの最奥部だろう。


 私たちは最短ルートを通った。

 迷うことなく到着する。

 途中、モンスターが現れることもない。

 やけに静かだった。


 さて。

 目的地には、大きな扉があった。

 扉には、あの不思議な動物の紋様が描かれている。

 コブのある馬。

 いったい、何を描いたものなのだろうか……。


 扉の中央には、手のひらの形のくぼみがあった。


「ファリーダ、ここに手を」


 なんとなく、王家の血筋が認証になっているのではないか、と思った。

 これはただの勘である。


「やってみる」


 ファリーダが扉のくぼみに手を重ねる。

 扉は音を立てて、ゆっくりと開きはじめた。


 そして、そこにあったのは……。


 驚きのあまり、私は声を出せなかった。


「なんですか、これ」一番最初に口を開いたのは、アウロラだった。「ここは……外ですか?」


 扉の向こうに広がっていたのは、地下空間とは思えない光景だった。


 見上げるほど高い天井には、無数の発光する鉱石が散りばめられ、星空のように輝いている。

 地面には、緑豊かな草木が生い茂っていた。

 空気は澄んでいて、ひんやりとしている。

 まるで、別世界に迷い込んだかのようだった。


「信じられない……」ファリーダが呟いた。「こんな場所が、サハリム・ギアの地下に隠されていたなんて」


「仮想空間……だろうな」


 現実として、陽光の差さない部屋に、このような草木が存在するはずがない。


「レイジ様、あれを見てください」


 アウロラが指差す方向を見ると、森の中に砂の滝があった。

 かなりの高さから、大量の砂が流れ落ちている。

 滝壺から流れ出た砂は、一本の川となって、森の中を静かに流れている。

 それは、水ではない。

 光を浴びてキラキラと輝く、黄金色の砂の粒子だった。


 幻想的、と言ってよいだろう。


 そして、あれこそが……サハリム・ギアから無限に砂が生成される事件の元凶だ。


 私たちは、砂の滝へと向かって進んだ。

 川沿いに、獣道のような細い道が続いているのが見つかった。

 私たちは、慎重に道を進む。


「ここが地下だなんて、信じられません」アウロラがつぶやいた。「広すぎます」

「現実の広さを超えている。仮想空間だな。こんな空間を再現するほどの魔力か……」


 あの滝を調べてみればわかることだろう。


 道は徐々に傾斜を増していく。

 砂の川は、すぐ隣を流れていた。

 時折、水しぶきならぬ砂しぶきが飛んできて、体にまとわりつく。


「なんか、変ですね。水じゃなくて、砂なんて」

「……私も、はじめてだ」


 そして、砂の流れ出る滝へと到着した。

 魔力は滝の上方ではなくて、裏側から感じられた。


 滝の裏側には、ドアがあった。

 明らかに異質だ。

 年数が経っているだろうに、ちっとも古びていない木のドアだった。

 ドアの先から強力な魔力が漏れ出ていた。


「離れていろ」二人にそう言って、私はドアをノックした。


 少し待っていると、室内から足音がした。


 果たして、こんな地下に誰が……。


 ドアはゆっくりと音を立てて開く。


 そこに現れたのは、白い女だった。

 あまりにも白い。瞳は赤色。

 明らかに人間ではなかった。

 年齢は若く見える。

 アウロラよりも小さかった。

 そして、なんといっても……ファリーダに、よく似ていた。


 なんというか迷ったが……。


「こんにちは」と私は言った。果たしてこれが正しい挨拶だろうか?


「はじめまして」白い女は返した。「どうぞ、お連れ様も、なかへ」


 室内へ誘われる。

 信用しても良いものかどうか悩んだ。

 仮に、この部屋が白い女の構成した結界のような役割を果たしていた場合、脱出することはほとんど不可能だ。

 魔法使いのアトリエは、自身の能力を最大化する。


 背後からアウロラとファリーダが近づいてきた。


「あら」アウロラが言葉を発する。「あなたは、だあれ? こんなところで何をしているの?」


「私の名はテューラ。貴方がたをお待ちしておりました」


 私はファリーダを見た。

 ファリーダは驚いた表情をしている。


「私と同じ顔」ファリーダは言った。「あなたは、何者?」


「話は、なかでしましょう。どうぞ」とテューラは再度入室を促した。


 私は警戒しつつも、テューラにつづいて部屋へ入った。


 部屋は質素ながらも洗練された空間だった。

 壁には古代文字が刻まれた石板が埋め込まれている。

 床には複雑な魔法陣が描かれている。

 部屋の中央には、水晶でできた台座。

 その上に、巨大な……人間ほどの大きさの砂時計が置かれていた。


「あなたは、何者ですか?」ファリーダがさっきと同じ質問を繰り返した。


「私の名は、テューラ・OC・サハリム。あなたの先祖にあたるものです。いえ……でした」


 過去形だった。


「ご覧の通り、わたしは人間ではありません」


 テューラの肌は白かった。白すぎた。


「私は生まれつき体が弱く、長くは生きられませんでした。父は……私をゴーレムとすることで、永遠の命を与えようと計画したのです」


「そんな、人間をモンスター化させるだなんて、禁忌です」とアウロラ。


「ええ、禁忌です。しかし、父は、私を失うことを恐れるあまり、禁断の術に手を出してしまったのです」


「この砂の滝は……無限の砂は、その術の影響か」私は聞いた。


「はい。ゴーレムの動力は魔力を含んだ砂です。それをまかなうために、大地にある魔力脈からエネルギーを吸い取り、魔力を含んだ砂を生成していた」


 そして、テューラは部屋の中央にある砂時計を撫でた。


「これが、私を生かしている源です。この砂時計に入っているのは、高純度の魔力を集約した砂です。父は、私の命を永らえさせるために砂生成の術式を書き換え、魔力脈から大量のエネルギーを吸い取り、砂を生成することにしたのです」


 それが、砂が無限に生成されるようになった原因か。


「レイジさん」テューラは赤い瞳で私を見つめた。「砂生成の術式を元に戻し、サハリム・ギアの暴走を止めてください」


「それは、つまり……」私はなんというか迷ったが、言った。「きみを殺すことに等しい」

小説家になろうに初投稿!


完結まで頑張ります!


・だいたい3〜4話に1回くらい事後シーン(朝チュン)があります。

・事後シーンのある話には『★』がついています。

・魔法のシーンは適当なので、雰囲気で良いです。読み飛ばしてください。


「面白かった」


「続きが気になる」


「いろんな美少女との事後展開が読みたい」


と思ったら


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・広告下の「☆☆☆☆☆」から評価


(面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ!)


をして読み進めていただけると大変励みになります。


よろしくお願いします!

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