007 MAProxy
地下水路を抜け、サハリム・ギアの内部へと進んでいく。
狭い道がつづいていた。空気はかび臭い。
壁は砂岩でできており、触れると、ぱらぱらと砂埃が舞った。
「なんか埃っぽいですねぇ」とアウロラ。
「我慢しろ」
「ひどい……」
ひどくない。仕事だ。
しばらく道を進んでいくと、小さな空間に出た。
空気はひどく乾燥している。
そして、部屋の中央には砂塵をまとったゴーレムが一体、静かに佇んでいた。
侵入者に気づいたようで、砂に隠された瞳が、ぎらりと光った。
ゆっくりとこちらを向いた。
「気をつけて」ファリーダが小声で言った。「私は制御コードを知っている」
小声のまま、ファリーダは詠唱を行う。
「静まれ、古の巨人よ( GolemControl code Golem.Standby |> setMode )」
ゴーレムは動きを止める。
「制御は効いているみたいですね」とアウロラがつぶやいた。
「ゴーレムが暴走して人のコントロールが効かなくなったと聞いていたが」
「一体だけならば、なんとか止められます。」とファリーダ。「この広間には、いつも一体だけ。もう少し進むと、もっと広い場所に出て、そこには三体かな」
「制御コードは他にあるのか?」
「知っているのは、攻撃と、防御と、さっき使った静止くらい」
「……少し、調べてみても良いか?」
「たぶん、大丈夫だとは思う」
一般に、ゴーレムは動きが鈍重だ。
その代わり、非常に力が強い。
物理的な防御力はもちろん、魔法についての耐性もあるらしい。
かつて、戦においては非常に頼もしい戦力になったことだろう。
微弱な魔力を流し、ゴーレムの構造を読み取る。
これが敵対行動だと感知されないと良いが……。
しばらく様子を見ながら探る。大丈夫だ。
「どうですか? 何かわかりますか?」
「特権ユーザーが設定されているな」
特権ユーザー以外の命令は聞かないようになっていた。
ただ、誰でも読み取ることのできる情報から、一応、基本的な行動方針などはわかった。
アウロラに説明してやることにした。
「もともと、ゴーレムはサハリム・ギアへの侵入者を退治する目的で作成されたようだ。その侵入者については、外部から参照することになっている。魔法コードに直接記述した場合、柔軟に対象を変更することができない。しかし、どうやらその侵入者リストが書き換えられているようだ」
私の説明がまったく理解できなかったようで、アウロラは微笑んでいた。
果たして、リストにはどのような記述がされているのだろうか……。
ゴーレムからは、細い糸のような魔力が伸びていた。
それは小部屋の先へとつづいている。
三体のゴーレムか……。
一般論として、大切なものを守るためには厳重な警備を敷くものだ。
なにか手がかりがありそうな気がした。
「先へ進むことはできるか?」私はファリーダに尋ねた。
「うん。部屋を出るまでは静止魔法が効くから大丈夫」
ファリーダがゴーレムを静止させたまま、私達は小部屋を出た。
部屋を出たあとはゴーレムの検知外になるようで、追ってくることはなかった。
ゴーレムの発していた魔力を辿り、細い道を進んでいく。
そうしていると、さきほどよりも、さらに広い広間に出た。
「あ、あれ、見てください!」
アウロラの指す先には、左、右、中央と三体のゴーレムが鎮座していた。
三体のゴーレムからも、細長い白い魔力が見えた。
それは、部屋の中央の床に描かれている紋様に伸びていた。
その文様は……モンスターだろうか。
見たことのない生物だった。
馬のように見えるが、背中がデコボコになっていた。
すでに絶滅してしまった種族なのか、あるいは伝説上の生き物なのか……。
「どうする?」ファリーダが聞いた。
アウロラも私を見ている。
私は考えていた。
今回の仕事の目的は、サハリム・ギアから無限に生成される砂を止めることだった。
恐らく、遺跡のどこかにバグが仕込まれている。
意図的なものかどうかはわからないけれど……。
詳しく調べるためには、ゴーレムが邪魔だ。
どうにかして、ゴーレムを制御する必要がある。
「ゴーレム三体を止めよう。その隙に、あの文様を確認する」
「三体なんて無理だよ」ファリーダが言った。「私の魔力が持たない」
「いや、大丈夫だ。proxyを使おう」
「プロクシィ?」アウロラが繰り返す。「あ、なんか、昔きいたことがあります。自分の身元を偽装するための機能ですよね。昔の人は、串とか言ったりしたんですよね。串を刺して自作自演とかしてたって、おばあちゃんに聞いたことがあります」
どんな祖母だよ。歴戦の猛者だな……。
「今回用いるのは、負荷分散、つまり、一つの仕事を複数の対象に振り分けるためのMA proxyだ」
私は空中に手をかざし、魔法式を展開し始めた。
「高可用性魔力中継(let chant = magicProxy (GolemControl.SetState GolemControl.Standby))」
「うわ、なんですか、これ、すごいですね。きれい」アウロラは私の魔法式を見て、そう呟いた。
「この中継先を3体のゴーレムにする。方式はラウンドロビンでいいか」
「ラウンドロビンって、なんですか?」とアウロラ。
「えっと……順番だな」説明が面倒なので端折っておいた。
理解できなかったようで、アウロラは首をかしげていた。
高可用性魔力中継には、ファリーダからの魔力を受け付けるポートを開放してあった。
「ここに、さきほどの制御魔法をかけてくれ」
「やってみる」そう言って、ファリーダは私の方を向いた。「静まれ、古の巨人よ( GolemControl.send_magic ("lazy", 1337) "Standby"」
ファリーダから送信されてきた魔法は、なんだか、懐かしい気持ちにさせられるものだった。
制御魔法は、思っていた通り、継続的にゴーレムへ通信を送るタイプのものだ。
常に同じ指令を送り続けている限り、ゴーレムは静止状態を維持する。
もともとの魔法は出力先が一箇所だし、それだと、一体にしか魔法を使えない。
その出力先を私のMAProxyにし、そこに送られてきた魔法をゴーレムへ振り分けることで、擬似的に並行処理が可能になっていた。
一時的に通信が途絶えても、それが長くなければ静止の魔法は維持される。
そういう仕組になっているようだった。
ファリーダを通路に残し、私とアウロラは広間へと入っていく。
「やりましたね。ゴーレムさんたち、全然動きませんよ。さすがです!」
私はアウロラの言葉を無視した。
正確に言えば、なんと返事をして良いのかわからなかったのだ。
「あ、照れてますね?」
「照れてない」即答した。
「照れてるぅ。かわいい」と言って、私の腕をつんつん、と突いてきた。
小説家になろうに初投稿!
完結まで頑張ります!
・だいたい3〜4話に1回くらい事後シーン(朝チュン)があります。
・事後シーンのある話には『★』がついています。
・魔法のシーンは適当なので、雰囲気で良いです。読み飛ばしてください。
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