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006 ★悪い男

「……名前、聞いていなかったな」


 私は隣で寝ている女、つまり宿屋の女主人に声をかけた。


「ファリーダ」と彼女は答えた。


 全身が、だるかった。

 心地よい疲労感。


 またしても非常にややこしいことになっていた。

 どうしてなのかわからない。

 いつもこうなのだ。

 なぜか、こうなってしまう。

 自己嫌悪だ。

 やめたくてもやめられない。

 だから、私は家を出たくないのだった。

 自宅で引きこもって仕事をしていたいのだ。


 なぜこうなってしまったのか、あまり深くは覚えていない。

 ファリーダと一緒に酒を飲み、いろいろな話を聞いた。

 彼女の生い立ちや、サハリムという街について。

 そして、父親の話を聞いていた。そこまでは覚えている。


 すぐにこうなってしまうのは、何者かの策略ではないか、とさえ思える。

 しかし、私がこのような状況になって得する人間などいない。

 そうなると、呪いなのか……。

 うーむ。


 私は、ぼんやりと宙を見ていた。


 ファリーダが、そっと体を寄せてきた。


「アウロラとは、お付き合いしているの?」


「していない」即答した。


「私とは?」


「……していない」即答した。


「そうだよね」ファリーダは言った。「悪い男」


 人を殺そうとしていた貴様にだけは言われたくないものだった。


「ねえ、これを受け取ってもらえる?」


 ファリーダは、サイドテーブルに置かれた布袋から、石を取り出した。

 それは赤い宝石だ。


「宝石……か」価値はわからない。「いや、要らない」


「サハリムの風習で、はじめてを捧げた男に、贈り物をするの」


 はじめてだったのか。

 聞かないことにしたいところだった。


「とりあえず、サハリムにいる間だけでも。お守り代わりに」


 私は、その宝石を受け取った。受け取らざるを得ない雰囲気だった。


 ファリーダと別れ、自室へと戻った。

 自室というかアウロラの部屋だが。


 ドアをそっと開ける。

 部屋のなかは暗かった。


 アウロラは寝ているのだろうと思った。

 電気をつけると、彼女はベッドの上にちょこんと座っていた。


「……おかえりなさい」


「ただいま」言って、驚いた。


 誰かにただいまなんて言ったのは、久々のことだった。


「どこに行ってたんですか?」


 私は答えなかった。

 別の言葉を返すことにした。


「嫌いになったか?」


「嫌いになれたら、良かったんですけど」


 アウロラは目元を抑えていた。赤くなっている。


「嫌いになれません」


 難儀なものだった。


 私は、こういう人間なのである。

 いつの間にか、そうなってしまっていた。


 もちろん、人間的に魅力があるわけではない。

 話が面白いわけでもない。

 顔は整っているほうだが、道を歩いていればそれなりにいるレベルだ。


「好きです」アウロラは言った。「まだ、会って二日目なのに、おかしいですよね」


「わからない」私は言った。「本当に、わからないんだ」


 これは私の人生の謎である。

 いつか、解決することはできるのだろうか……。


 その日はアウロラと抱き合って眠った。

 彼女の肢体は温かく、落ち着く抱き心地だった。


「明日は、一緒にいてください」とアウロラがしがみついてきた。


「ああ」と私は答えた。


 一夜明け、翌朝。


「……一緒にいてくださいって言いましたよね」とアウロラ。


「ああ」私は昨晩と同じ答えを返した。


「なんで、この人も一緒なんですか」


 そう言って、アウロラは私の隣に立つファリーダを指した。


「ごめんね、アウロラ」ファリーダは頭を下げた。「サハリア・ギムへつづく、地下水路があってね。そこを案内するから」


「ということだ」私は言った。「さて、行くぞ」


「レイジ様って、女心がわからない人ですよね……」


 アウロラはわざとらしくため息をついた。


 聞かなかったことにした。


 私たちはサハリムの街の端にある、いまは使われていない古井戸へ向かった。

 地下水路は、王族に先祖代々伝わる、非常用の通路となっている。


「なんか、ひんやりしてますね」とアウロラが言った。「狭いし……」


 不平は無視することにした。


 枯れた古い井戸を降りていくと、水路になっていた。

 人間がひとりならば進める程度の幅しかない。

 私は、持参していたランタンに魔法で火をともした。


「うわ、眩しい」アウロラが大声を出した。「すごい魔法ですね!」


 ……初歩の初歩だった。


 私が先頭を歩き、その次にファリーダ、最後にアウロラという並びで進んでいく。

 地下水路は迷路のようになっていたが、ファリーダの指示により進むことができた。


 進みゆく道には、人が通った形跡があった。

 ぬかるんでいる場所があるため、泥の跡が残るのだ。

 足跡のサイズを考えると、ファリーダが以前に通った道である。


 二時間ほど進んだところで、私は足を止めた。


「……行き止まりか」


 そこには、砂の壁ができている。

 徐々に砂が漏れ出てきている。


「……ごめん。一ヶ月前かな、そのときは、通れたんだけど」


 ファリーダが嘘を言っているようすはない。


「どうしましょう」アウロラが言った。「私の魔法で、消してみましょうか?」


「やめておけ」崩落して圧死しかねない。「もしかしたら、アウロラの魔法が原因かもしれないな……」


「えぇ、わたしのせいですか?」


「入口の砂が消えたことで起きたのかもしれない」


「何が原因なのかはわからない」ファリーダは言った。「エルフの国で蝶が羽ばたくと、サハリムで砂嵐が起こるということわざもあるし」


 私は聞いたことがないことわざだった。


「帰りますか?」とアウロラが提案する。


「うーん」私は腕を組んだ。「アウロラ、少し力を借りても良いか?」


「はい。なんなりと」


「これから私の渡す魔法を実行し、できる限り高速に返事をしてくれ」


「ええと、どうやってするんですか?」


「仮想魔法というか、思考を分割し、その余剰部分を貸してほしいんだ」


 アウロラは笑顔になった。

 まったく何もわかっていないようだった。


「アウロラ、イメージしろ。君の頭の中に、小さな『魔法の部屋』を作るんだ」


「魔法の部屋……」アウロラは目をつむり、手を胸の前で組んだ。「何色の部屋ですか? 広さはどれくらい?」


「色は知らん。好きにしろ。広さは、自分の魔力の……七割くらいをイメージしろ」


「そんなこと言われてもわかりませんよぅ」アウロラは困ったような顔をした。「秘密鍵を渡すので、お願いできませんか?」


 秘密鍵。

 それは、魔法使いが相手の精神へと直接通信を行うための鍵である。


「そう簡単に秘密鍵を明け渡すな。私が悪い人間だったらどうする」


「レイジ様は、悪い人間じゃありません」


 ファリーダが「レイジは悪い男だけどね」とつぶやいたが、無視することにした。


「さすがにアカデミーで習っているかと思うが、秘密鍵を渡すことは、つまり、命を相手に明け渡すことに等しい。たとえ夫婦であっても、相手に渡すことはない。それがわかっているのか?」


「はい」アウロラは小さくうなずいた。「わたしの命は、レイジ様に助けられたあのとき、すでに一度なくなったようなものですから。レイジ様に、すべてを捧げます」


 そう言って、アウロラは私に向かって右手を差し出した。

 彼女の右手は、ぼんやりと光っていた。

 秘密鍵だ。

 私はそれを受け取った。


 アウロラのなかへと、私は入った。


「あ、なんだか、くすぐったいです。ああんっ。レイジ様が、入ってくる……」


「艷やかな声を出すな。すぐに慣れる」


「んっ。そんなこと、言われましても……」


 アウロラは顔を真赤にして、口を抑えていた。


 私は、アウロラのなかで余力を調べ、仮想的な魔力形成場を作成する。


 作成した仮想アトリエに、魔法を呼び出すだけの非常に簡素な実行環境を生成した。

 そこに魔法を送り込み、アウロラの魔力を使って起動する。


 私は、いろいろなダンジョンで使用できる探索魔法ライブラリを構築していた。

 BFSというアルゴリズムを用いたものである。

 自分のCPUだけを使用して全力で探索を行う手もあるが、周囲に気を配りながらでは分散してしまう。

 そこで、探索部分をアウロラに任せ、私は能力の半分程度を防衛に回すことができる。


 それから、十分ほどで演算結果は出た。


「お、おおう」アウロラは変な声を出していた。「なんだか、道が光って見えてきました」


「その道を辿った先に、抜け道がある」


「すごいな」ファリーダはつぶやいた。「私でさえ知らない道を、そんな簡単に見つけるなんて」


「私のレイジ様はすごいんです」なぜかアウロラが胸を張っていた。 「天才魔術師です」


「天才魔術師はやめてくれ……」


 恥ずかしい。


 それに、私は天才ではない。

 もっとすごい魔術師をたくさん知っていた。

 だから、褒められると、嬉しいというよりも……恥ずかしいのだった。


 実際のところ、私は魔法がチョットデキル程度の人間でしかない。

小説家になろうに初投稿!


完結まで頑張ります!


・だいたい3〜4話に1回くらい事後シーン(朝チュン)があります。

・事後シーンのある話には『★』がついています。

・魔法のシーンは適当なので、雰囲気で良いです。読み飛ばしてください。


「面白かった」


「続きが気になる」


「いろんな美少女との事後展開が読みたい」


と思ったら


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・広告下の「☆☆☆☆☆」から評価


(面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ!)


をして読み進めていただけると大変励みになります。


よろしくお願いします!

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