005 マジックナンバー
「束縛の砂塵!(let targets = ["Lazi"; "Aurora"] in apply_binding_dust targets dust())」
女主人の詠唱と共に、私とアウロラの周囲に砂が巻き起こる。
手首と足首にまとわりついてきた。
アウロラは慌てて解除魔法を唱えようとしているが、首に砂輪がつけられる。
強制的に魔法が解除される。
次に、私の首元にも砂輪が生成された。
「残念ですが、あなたがたはサハリム・ギアの調査中に亡くなった。そういうことになります」
女主人はそう言って、手に持っているナイフをこちらに向けてきた。
「なるほど」私は言った。「きみは何者だ?」
「名乗るほどのものではありません。宿屋の女主人です」
「さっきの魔法コードは……美しいな」
「OC語です。サハリムで古くから使われていた、いまではもう誰も話せない言語」
「ML系だな」
「……何を仰っているのか、わかりませんが」
なるほど。彼女はML系という言葉を知らないらしい。
どうしたものか……。
「きみは……サハリム・ギアの謎が解かれてはまずい、と考えているのか?」
彼女はつらそうに微笑んだ。
「サハリムは、もう、終わった街です。このまま、サハリム・ギアに飲み込まれて、朽ち果てていく。それで良いのです」
「きみの発した言語は、フルーメン写本が書かれていた言語でもある」
「そうなのですか。わかりません。先祖代々、伝えられてきた魔法なので」女主人は私を見た。「なぜ、あの写本が読めるのですか?」
「さあ。詳しくは知らないが、私の使っているFS語とOC語は、語族が近いんだろう」
勝手な想像だが、OC語はFS語と同じ祖を持つのだろう。
あるいは、OC語自体がFS語の祖先なのかもしれない。
「いままでにも、サハリム・ギアの無限砂生成事件を解決するためにきた魔法使いを殺してきたのか?」
女主人は答えなかった。
ナイフを握った手は、ぷるぷると震えている。
「……できます」
私の質問の答えとは、食い違っていた。
あるいは、彼女自身に向けて言った言葉なのかもしれない。
「いままでは他の者に任せてきたのか」
「こういうことは、父が……」女主人は額の汗を拭う。「でも、次は、私の番です」
「父親は、どうしている?」
「父は亡くなりました」
だいたいの話の道筋が見えてきていた。
「きみは、サハリムの王家の末裔だな?」
女主人は、私の目をじっと見た。強い瞳だった。
「……父にはそう言われていますが、本当なのかはわかりません」
「サハリム・ギアに大震災を起こしたのは、王家の末裔たち、つまりはきみの祖先だ」私はフルーメン写本に書かれていなかった内容を、想像で話した。「一度、大衆に奪われた聖域を取り返すための行動だった。それが失敗し、サハリム・ギアは無限に砂を生成するようになった」
「わかりません」彼女は目を伏せた。「もともと、取り返すつもりなどなく、単にサハリム・ギアを暴走させたかっただけなのかも。自分たちのものにならないのであれば、いっそ……と。なにはともあれ、もう、サハリムは終わった街なのです。私達がはじめ、終わらせる。そういう運命にある」
さて、どうするか。
はっきり言って、サハリムという街が消え去ろうとも、私の人生には一切の関係がない。
ここに派遣された段階で前金はいただいている。
解決したときにさらに報奨金が払われるが、そこまで莫大な額というわけでもない。
もともとサハリムに住んでいた人々も、サハリム・ギアが暴走してからは人口が減っている。
たしかに、彼女の言うとおり、サハリムは終わった街なのかもしれない。
「ここは、いい街だと思います」アウロラが口を開いた。「ご飯が美味しいですし、風景が美しいですし。だから、サハリムが終わった街だなんて、そんなことは思いません。素晴らしい場所です」
女主人は無言のままうつむいた。言葉を発しない。
しばらく無言の状態がつづき、彼女は、ぎゅっと目をつむった。
「……砂刃 (let harden_knife knife sand = { knife with material = Sand_Hardened (sand.density) })」
彼女の持っていたナイフに、周囲から砂が集まっていく。
硬質化させる魔法だろう。
そのまま、女主人はナイフを構え、アウロラに向けて走っていく。
まあ、よくわからない。
私にとっては、どうでも良かった。
サハリムがどうなろうと知ったことではない。
私は砂輪を解いた。
というよりも、最初からバインドなどされていなかったのだ。
「重縛 (fun target -> { target with gravity = target.gravity * 3.0 }) >> apply_to (nearest_enemy())」
「うっ!」女主人が地に伏せる。「なぜ動ける……」
「簡単な話だ。きみの魔法には、定数というか、マジックナンバーが使われている。私の名前は『Lazy』だ」
「宿帳には、Leiziと……」女主人はつぶやく。
「あ」アウロラが口を開けた。「私、レイジ様のお名前を間違えてしまったのですね」
まあ、実際には名前が正しかったとしても、解除はできただろう。
私の使う言語と彼女の使用する言語は近い。
アウロラが女主人のもとへと歩いていく。
しゃがみこんで、女主人へと手を伸ばした。頭を撫でる。
「私、ここに来てまだ二日目ですけど、サハリム、すごく気に入りました。なくなったら、悲しいですよ」
「……わたしだって」女主人はつぶやいた。「悲しい」
そう言って、女主人は涙を流した。
「サハリムを、どうしてほしい?」私は問うた。
「サハリムを……救ってください」
やれやれ。仕方がない。
「その願い、叶えよう」
小説家になろうに初投稿!
完結まで頑張ります!
・だいたい3〜4話に1回くらい事後シーン(朝チュン)があります。
・事後シーンのある話には『★』がついています。
・魔法のシーンは適当なので、雰囲気で良いです。読み飛ばしてください。
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