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002 2000エーテルカード付き宿泊プラン

 サハリムに到着後、私はアウロラの宿泊している宿を訪れていた。

 カウンターには茶色の髪をした女性が立っていた。

 褐色の肌で、瞳は赤い。


「一部屋空いてるか?」


「申し訳ございません。満室でございます」


「他に宿は……」


「サハリムに、ここ以外に宿はございません。大変申し訳ございませんが、サハリム・ギアから漏れ出た砂の影響で、避難民を受け入れておりまして」


 仕方がない。

 そういうときは、朝まで空いている食堂などで椅子に座って寝るしかない。

 そう考え、去ろうとしたときだった。


「あの、わたしの部屋に泊まるというのはどうでしょう」とアウロラ。


 想像もしていなかった申し出に、思考がフリーズする。


「ベッドはひとつですけど、まあ、頑張れば眠れると思います。そういうのって、だめですか?」


 アウロラは店主の女性を向いて言った。


「いえ、お客様が良いのであれば、大丈夫ですけれども……」


「大丈夫なわけないだろう」私は言った。「常識的に考えろ」


「何かまずいことでもあるんですか?」アウロラは首をかしげる。「泊まるところがないなんて、可愛そうです」


 憐れまれていた。


「私は男で、きみは女だ」


「それが、どうかしました?」アウロラは純粋な目で私を見る。


「……きみは、もっと気をつけたほうが良い」


「何をですか?」


「騙されて、ひどい目にあうぞ」


「レイジ様は、ひどいことなんてしないと思います」


「そんなこと、わからないだろ。人を簡単に信じるな」


「いえ、信じます」アウロラは笑顔で答えた。


 アウロラに押し切られる形で、同じ部屋に泊まることになってしまった。

 宿屋の台帳には、アウロラが名前を記載してくれていた。

 私の名前は『Lazy』なのだが、やはり『Leizi』と書かれていた。

 まあ良いけれど……。


 案内された部屋を見に行くと、きれいに整頓されていた。

 とはいえ、部屋は狭い。

 ベッドがひとつ入っていて、あとは小さい机がある程度。

 ビジネス用のシングルルームだった。


 机の引き出しを開けてみると、聖典が入っていた。

 どこの宿にもたいてい置いてあるものだ。

 いったい誰が読むのだろう、といつも不思議に思う。


「ここ、一泊いくらだ?」


「1万テラールです」


「出張のときは、1万2000テラールの、2000エーテルカードがもらえるプランにすると良い」


 エーテルカードというのは、いったいなんのために存在しているのかよくわからないカードである。

 どこかの商業ギルドが発行しているカードで、いろいろな店で使える。

 私がおすすめしたプランは、1万2000テラールだが、実質2000エーテルカードが手元に戻って来る。

 派遣元には経費として1万2000テラールを請求しておき、手元に2000エーテルカードが入るお得なプランである。


「え? なんで、わざわざ高い宿に泊まるんですか?」


「2000エーテルカードは自分で自由に使って良いんだ」


「え? すごい。お得ですね! さすがレイジ様です!」


 いや、普通に横領だけどな。

 なんだか褒められてもまったくうれしくない。


 ちなみに、私は2000エーテルカードがもらえるプランは使ったことがない。

 映画が自由に見られるプランも使ったことがないし。

 自分の魔導カードにポイントをたくさん貯めたりもしていない。


 ……朝食つきのプランは使ったことがある。


 いや、まあいい。本当にどうでも良い。


 砂漠を歩いて疲れたのだろう、アウロラはシャワーを浴びたいといって浴室へ移動した。

 男と同じ部屋なのだ。もう少し警戒したほうが良いだろう。


 それからしばらく待っていたが、アウロラがシャワーから戻ってこない。

 心配になって、浴室のほうへ声をかける。


「どうした? 大丈夫か?」


 シャワーの音は途切れない。

 その水音の合間から、かすかに泣き声が聞こえてきた。


「泣いているのか」


「……すみません。いま、あのサンドワームのことを思い出したら、怖くて。腰が抜けて。動けなくて」


「心配するな。初めての冒険なんだろう。それくらいは普通だ」


「普通……なんですか? レイジ様も?」


「ああ。最初の任務のときは、師匠についていったが、途中ではぐれて泣いた」


「かわいい」


 まあ十代半ばの頃の話だがな。


 それから私はアウロラを風呂場から救い出し、ベッドで慰めた。


 そして、慰めている間に、流れで……そういうことになってしまったのだった。

 というわけで、長い長い回想は終わりだ。


「出かけるか」


「え? 晩ごはんデートですか?」


 私はアウロラと恋愛関係を締結するつもりはなかった。

 デートという言葉は無視することにした。


「夜ご飯には、まだ早いだろ」時刻は午後三時を回った頃合いだ。「魔導図書館だ」


 私はアウロラと共に宿を出て、街の外れにある魔導図書館を訪れていた。

 利用者はほとんどいなくなっているようで、埃の山積した本が揃っていた。


 今回、図書館へ来たのは、サハリム・ギアについての調査だった。

 事前にある程度調べてきたものの、まだデータになっていない書物があるだろうと予測してのことだ。


 私は一冊の本を手に取った。

 魔力を流し込み、ざっと内容を確認していく。

 数秒で全内容を取得し、書架に戻した。


「え? いまの一瞬で全部読まれたのですか?」


「ああ。細部まではわからないが、おおよその内容は把握できる」


「すごすぎます。どうやってるんですか? 高速で目を動かす魔法ですか?」


「そんな魔法、目がおかしくなるだろ」私は言った。「きみは、普段は本をどうやって読む?」


「どうって、一文字ずつですけど」


「char読みか……」


 char読みというのは、文頭から一文字ずつ読んでいく方法である。


「アカデミーでline読みは習わなかったのか?」


「line読みってなんですか?」アウロラは首を傾げる。


 うーん。初歩の初歩だと思うんだが。


「行読みというのは、一行ずつ読むことだ。魔導書を改行印が出てくるまで読んでいく。その人のマナメモリ量と、CPUにもよるけれど、自分のマナメモリに乗るぎりぎりを目指して増やしていくのが良い」


「CPUってCelestial Prophecy Unit (セレスティアル・プロフェシー・ユニット)のことですか? 学校で習いました! 頭の回転の速さですよね」


「まあ……。だいたいそんな感じだな」説明が面倒臭くなった。


 セレスティアル・プロフェシー・ユニット(天上予言装置)は通称CPUという。

 魔法使いは精霊の力を借り、自身の脳内の処理速度を上げることができる。

 そのときに精霊との通信を行うことのできる装置がCPUである。


 簡単にアウロラに行読みを教えると、アウロラはすぐにすらすらと使いこなせていた。


「うわ、これ、すごいです。情報がたくさん頭に来て、ああ、わたし……おかしくなりそう」


 お前はもとから結構おかしな女だ、と思ったけれども、何も言わなかった。


「でも、どれだけ頑張っても、レイジ様のように一瞬では読める気がしません」


「ちょっとコツがあるんだ。行読みを進化させた、ストリーム読みというんだが……。シーケンスにして、事前に作成しておいたfilter関数で、サハリム・ギアに関するものだけに絞り、reduceで集約する」


 アウロラは笑顔になった。


「何をおっしゃっているのか、まったく意味がわかりません」

小説家になろうに初投稿!

完結まで頑張ります!


・だいたい3〜4話に1回くらい事後シーン(朝チュン)があります。

・魔法のシーンは適当なので、雰囲気で良いです。読み飛ばしてください。


「面白かった」


「続きが気になる」


「いろんな美少女との事後展開が読みたい」


と思ったら


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・広告下の「☆☆☆☆☆」から評価

(面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ!)


をして読み進めていただけると大変励みになります。


よろしくお願いします!

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