001 ★実務経験なしの経歴詐称魔法使い(★マークは事後シーンあり)
全身が心地よい疲労感に包まれていた。
シーツに残る乱れた皺と、肌にまとわりつく汗の感触。
私の隣で金髪の女性がすやすやと幸せそうに寝ていた。
彼女はアウロラという名前の魔法使いである。
アウロラは、泣き疲れて……そして、動き疲れて寝てしまったのだ。
はぁ……。
またか……。
やってしまった…….
仕事の関係者に手を出してしまった……。
面倒くさいことになるのはわかりきっているのに……。
いつもそうなのだ。私は、なぜか、いつの間にか女性と関係を持ってしまう。
私はゆっくりとベッドから起き上がった。
起こしてしまったようで、アウロラがこちらを見た。
「あ、わたし……。レイジ様と……」とつぶやいていた。「ありがとうございます」
ありがとうと言われても困る。
私は、なぜこうなってしまったのかを思い出していた……。
およそ1時間ほど前のことである。
私は砂漠を歩いていた。
私が向かっているのは、古代遺跡『サハリム・ギア』だった。
砂漠都市『サハリム』に隣接している遺跡である。
すでに現地には、実務経験五年の凄腕魔法使いがいるらしい。
仕事は全部まかせてしまおうと考えていた。
さて、サハリムまで残すところ三十分程度のところまで来ていた。
ふと、気づく。
風だ。
ゆらゆらと細かい砂が、揺れながら舞っている。
不自然だ。単なる砂嵐とは思えない。徐々に砂の舞う量が増えていく。
前方に、地上から空にまで舞う砂が見えた。
いったい、どうしたものか、と対応を考えていると、女性の悲鳴が聞こえてきた。
周囲の環境データを取得。
風速、風向き、砂の密度、温度、湿度、魔力、音。
それらをリアルタイムデータとして無限のシーケンスを生成。
そのなかで女性に関係しているデータを収集する関数を作成。
filter処理。不要なデータはその場で即座に捨てる。
女は……魔法使いのようだ。
きらめく金髪と、大きな青い瞳が印象的だ。
星の刺繍が施された帽子を被っている。
砂嵐に巻き込まれ、視界を奪われているようだ。
そして、彼女の背後から迫りくるモンスターを検知。
サンドワームだ。
砂嵐を起こしているのはこいつで間違いない。
だが、通常種よりも大きい。二倍ほどに巨大化している。
サンドワーム自体の戦闘力は大したことないが、砂嵐が防壁となっているようだ。
scan関数で砂嵐のデータを再観測。パターン把握。
groupByでサンドワーム本体と砂嵐のデータを分離。
サンドワームの発している砂嵐生成魔法を解析。
砂嵐生成魔法を打ち消す関数を生成。
unfold関数で展開。
砂嵐に放射。
一瞬で、晴れた。
砂嵐は消えたわけではない。
分解された砂嵐の魔力は私の手にあった。
「砂嵐を用いた螺旋魔導砲の開放(sandStorm |> gatherMagic powerFactor |> compressSpirally |> accelerateLinearly |> releaseMagic())」
関数によって放出された螺旋状の魔力が、サンドワームの肉体に直撃。
サンドワームは粒子状に飛散し、宙に消えていく。
私はゆっくりと魔法使いの女に近寄っていった。
彼女は砂地に座り込んでしまっていた。
何が起きたのかわからず、呆然としているようだった。
「砂嵐は……。いま、何が?」
女性は混乱しているようだ。
説明が面倒くさい。さっさと話を終わらせよう。
「きみはサンドワームの起こした砂嵐に巻き込まれていた。きみを狙っていたサンドワームがいた。逆位相により砂嵐を打ち消した。螺旋魔導砲によりサンドワームを破壊した」
「いや、全然わかりません」
うーん。もっともっと単純化することにした。
「私がきみを助けた」
「ありがとうございます!」女性は深々と頭を下げた。「死ぬかと思いました!」
「死んでいてもおかしくなかったとは思う」
「うわぁ……。助かりました。本当にありがとうございます」ぺこりと頭を下げる。
「このあたりは危険だ。なぜ、こんなところをひとりで?」
「サハリム・ギアってご存知ですか? 遺跡なんですけど。わたし、そこを目指してまして」
「知っている」
「そこで、無限に砂が生成されているっていう事件がありましてね」
「それも知っている」
サハリム・ギアはもともと王家の墓だったが、ゴーレム生成所として使用されていた。
砂が生成される異常事態は百年ほど前から発生していた。
ここ数年で漏れ出た砂が溢れはじめ、ゴーレム工場としての機能を停止した。
すでに入口は閉鎖され、サハリムの外縁部に砂が迫ってきているという話だった。
聞けば聞くほど面倒くさそうな仕事だった。
「なぜ、サハリム・ギアに?」
「仕事です」女性は言った。嫌な予感がした。「わたし、光明教団の者です。サハリム・ギアの調査を命じられておりまして」
私は師匠からのメッセージを脳内で確認していた。
実務経験五年の凄腕魔法使い。名はアウロラというらしいが……。
「きみ、名前は?」
「アウロラ・C・アステラです」笑顔で答えた。
「実務経験は?」
「えっと……五年ということになってます」
「なっているのか」私は、わざと深々とため息を吐いた。「本当は?」
「五年ですよ?」
「なぜ疑問形なんだ。実務経験五年もあれば、巨大種であろうともサンドワームに遅れを取ることはないだろう」
「……実は、光明マジックアカデミー卒です。実務経験はありません」
よくある話だった。
光明教団は魔法使いの派遣を斡旋している。
未経験者に実務経験五年と申告させ、無理やり現場にねじ込む。
そして新人には安い給与を払い、光明教団のほうで上前をはねる。
よくある話だった。
サハリム・ギアへの潜入調査は、A級難易度のクエストである。
新人が生きていけるような環境ではない。
つまり、新人は捨て駒だ。
新人が殉職した場合、光明教団は依頼者へ慶弔金を請求することもできる。
非常に面倒くさいことになりそうだ。
アウロラは戦力としてはカウントできない。
それどころか足手まといだろう。
アウロラをサハリムへ足止めし、ひとりで事件を解決しようと決意した。
「えっと、あなたのお名前を伺っても良いですか?」と女性は言った。
「レイジィ・F・シーケンスだ」
「レイジ……様ですね」
私はレイジィという名なのだが、どうも私の出身国以外では発音が難しいらしい。
よって、レイジと呼ばれるのには慣れていた。
「レイジ様が、サハリム・ギア調査のペア相手だったんですね」
「そうだ」残念なことにな。「ひとまず、サハリムに宿を取りたい。街まで案内してもらってよいか?」
「かしこまりました」女性は頭を下げた。「レイジ様。わたしの命を救っていただいて、ありがとうございます。この恩は、絶対に忘れません」
こうして、私は経歴詐称魔法使いのアウロラとサハリムを目指すことになった。
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ぜひ第1話だけでも読んでみてください!!
---もともとのあとがき
だいたい3〜4話に1回くらい事後シーン(朝チュン)があります。
魔法のシーンは適当なので、雰囲気で良いです。読み飛ばしてください。
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