幕間:残響
私の目の前には無数の屍が横たわっていた。
男性、女性、老人、子供、魔獣や神……私は悟った。これは私が殺してきた生命だ。千余年忘れることはなく、でも心のどこかでは忘れたいと思っていた。
耳から離れない人々の断末魔。鼻に残った人間の焼ける匂い。
恨み、憎しみを孕んだそれは歩みを進めている私に重く伸し掛りついに私の足が止まる。
慣れているつもりだった。1000年以上絶えず聞こえてきたそれは私の過去、現在、未来…そして私自身を否定してくる。
「貴女が居なければ神代戦争は起こらなかった。」
「大人しく呪いで死ねば良かったのに。」
「お前の存在そのものが災いを呼ぶのだ。」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。」
人々の声が幾重にも重なり死体と炎しかないこの空間に木霊する。
突如残響の中から澄んだ声が聞こえてきた。
「こんな所で何してるの?私たちのギルドマスターがもう歩けないなんて言わないよね。」
「前を見ろ。お前の今は確かに数多の死の上に成り立っているかもしれない。だがそいつらもかつてはお前に未来を託して死んで行った者達だ。お前は過去の仲間の想いを蔑ろにするような奴か?思い出せ、なんのためにここまで歩き続けた?」
「彼らは死ぬ直前確かに君に希望を託したんです。今よりももっと良い未来に君がしてくれることを願って。そんな彼らが君を恨むことは決してない。神の悪あがきに君が負けるわけないですよね。」
「俺たちの死を無駄にすんじゃねーぞ。」
「リアナ…私たちは私たちの意思で死を…殺されることを受け入れたの。貴女のせいなんかじゃない。貴方ならあの絶望を時代を終わらせていい未来にすることができるって確信したから。そして今世界を見るとあの時よりもずっと多くの人が笑って過ごせてる。それは紛れもなく貴女のおかげだよ。だから迷わないで。貴女はただ存在しているだけで正しいのだから。だからこれからも前に進み続けてね、私たちの小さな王様。そう遠くない未来に運命が交わるその先でまた会いましょう。」
なにかに背中を押された気がした。自分より他人…世界の未来に全てを捧げるそんな無私の集団…。
そして再び歩き始めた私はいつの間にか光に包まれた。
暖かく安心する香りがする。