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不死殺し

「それにしてもまだ商人の通りが少ないわね。」

洞窟を出た私達はルナが乗ってきた豪奢な馬車に乗り込み帝都を目指していた。

「レッドドラゴン討伐の報はまだ噂程度ですからね。リアナ様がご帰還なされてはじめて正式に発表されます。」

「そういえばそうだったわね」

と言うやり取りをしながら私は徐々に体勢を崩す。ルナは「はしたないですよ」と言いながらも矯正させる素振りはない。

そうしてしばらく馬車で揺れていると、突然馬車が止まった。

機械人形(ゴーレム)を使った馬車だから魔獣や盗賊などの外的要因では止まることはない。

私とルナは馬車を降り機械人形の様子を確認する。見た目だけでいえば傷一つない。ゴーレムの魔術回路にも異変はないが魔力(マナ)が森の奥に向かい流れ出ている。自然に生成された物質は魔素を吸う性質のものはあるが魔力を吸うものは存在しない。私とルナは魔力の流れを追って森に侵入する。

森に入り程なくすると私たちはひらけた広場に出た。一見すると穏やかだ。中央の()()が無ければ…。

「あれ周辺の魔素を吸っていますね。」

「えぇ、でもあれは魔素を吸うだけ。機械人形から魔力を吸っているのは別のものよ。それにあれ自体は昔使われていた魔導具のコアよ。周辺の魔素を吸っていてもコアの容量が満たされれば吸収は止まるわ。

それに私たちが今回追っているのはそこよ。」

ライト。

私が奥の森を照らすと黒い鎧が浮かび上がってきた。

「流石は音に聞こえし魔術王。我の気配遮断を見破るとは…。」

「隠れる気なんてなかったくせに。」

「ふむ、それもそうだな。物見遊山のつもりだったが中々面白いものを持っていたのでな。興味本位というやつだ。魔術王殿の力を見てみたいと思い機械人形を停めさせてもらった。」

黒い鎧は剣を抜き歩き始める。さながら騎士のような動作で…瞬間黒騎士が陽炎のように揺れたと思うと私の目の前から消えていた。

「最も魔術王などという称号も他者からの過大評価の様だがな。」

黒騎士の声が後ろから聞こえ私の視界は後ろの居たはずのルナを逆さまに映していた。

「リアナ様!!!」

ルナの口は私の名前を叫んでいた。そしてそれはボトッと地面に落ちあっという間に血溜まりを作っていた。

「期待はずれと言う他ないな。」

黒騎士は膝から崩れ落ちたルナの首元に剣をあてる。

「直ぐに主の元に送ってやろう。」

俯いたルナは唇を動かしていた。だが黒騎士からはそれは見えないし聞こえない。

彼の者を縛れ(ローズ・バインド)

ルナの発した声に呼応するように黒騎士の足元からつるが伸び絡まり棘を生成する。

「一般的な魔術師なら確かに貴方の攻撃で終わりでしょう。ですがあなたの前に居るのは魔術王ですよ。」

落ちた首が霧のように霧散し何も残らなかった。

「馬鹿なっ。我の手で切り捨てたはずだ!」

「貴方は…何時から自分の見ている世界が正しいと思っていたのですか?リアナ様と対峙する前から…あるいはもっと以前から…。」

ルナが後方に数歩歩くと空が一層明るくなる。

汝に裁きの刃を!ソード・オブ・ジャッジメント

私の周りに浮かぶ無数の剣が黒騎士に向かって降り注ぐ。

土煙を上げ白銀の剣はいつまでも黒騎士に振り続ける。我ながら殺意の強い魔術ね…。

しばらくして剣の雨も止み土煙が晴れると中身のない抉れた鎧が崩れ塵になり始めていた。

「これは…。」

ルナのつぶやきに私は空から降りながら答える。

傀儡魔術(マリオネット)ね。対象のどこかに自身の血で術式を描き魔力を込めると思い通りに動かすことができる魔術。動かすものが大きければ大きいほど魔力の消費は激しくなる。もちろんただそれだけだと魔力消費の激しい身代わり人形だけどこの魔術にも欠点があるわ。傀儡魔術(マリオネット)で操作対象が受けたダメージは術者に返ってくるのよ。術式が存在し続ける限り触覚や痛覚は解除されないからね。だから今回みたいに上手く術式を避けて鎧を崩壊させれば相手は術式を消すことも出来なくなる。この術式の魔力を追えば術者を見つけられるわ。」

術式を消さないように鎧片を拾うと鎧に書かれていた術式が消えてしまった。

「死んだわね…。」

今の話が聞こえてたのね。そりゃ会話ができるなら聴覚の共有もやってるわよね。

「この鎧は持って帰って詳しく調べてみましょう。」

私は広場中央のコアと鎧片をルナに渡し再び帝都への帰路に着いた。


馬車に戻った私たちは機械人形に先程回収したコアを取り付け帝都に向かっていた。

なんかすごい疲れた。レッドドラゴン討伐してよく分からない黒騎士と戦って…。お腹すいたし…眠く…なって…。


「リアナ様?…ごゆっくりお休み下さい。」

ルナの声が聞こえて私は眠りに落ちた。


・・・・・・・・・・・・・・・


「あと少し…あと少しだ。もうすぐ我は復活する。忌々しい小娘め、必ず……。」


・・・・・・・・・・・・・・・


「何事ですか!」

なに…。外からルナの声?

「リアナ様が乗っていると知っての事ですか?アーサー陛下!」

アーサー…帝国の皇帝が帝都を出てなんでこんな所に。

「知っているとも、ルナよ。何故なら私たちの目的は」

「ルナ…どうしたの?」

早く帰りたいのにこんな所で立ち往生は困る。

「リアナ様お逃げ下さい!」

ルナの叫び声が聞こえるけどそれよりも先に数人の騎士が私に斬りかかるのが見える。

「なに…これ?」

流石の私も迫り来る剣を見れば眠気が覚める。騎士の剣は私の手前で止まった。並の騎士程度の剣は私には届かない。それは向こうも分かってるはずなのに何をしたいの?

「アーサー陛下、これはどういうことかご説明して頂けますよね?」

「説明か…。それに意味はあるのか?今ここで死ぬのだから。魔術師団、撃て!」

アーサーの言葉を皮切りに魔術師団は様々な術式を展開するが悉くルナに邪魔される。

「チッ!騎士団攻撃を続けろ!」

アーサーは騎士団に命令を出し騎士団も私に攻撃するが届かない。

鬱陶しい。当たらないけど…当たらないんだけど四方から剣が迫って来るのは鬱陶しいことこの上ない。ルナは魔術師団の相手で手一杯だし…めんどくさいけどやるしかないかな。

「平伏しなさい。」

言葉に魔力を乗せて発すると魔術師団、騎士団は攻撃をやめ片膝をついている。

「さぁ説明を求めます。」

私が1歩踏み出すと背後から嫌な気配と声が聞こえる。

「いや、やはり説明の必要はねぇな。」

「なっ!」

振り向くと赤髪に左眼に刀傷がある厳ついおじさん、騎士団長ガルムが見たことある剣を私に突き刺そうととしていた。

「その剣…!」

嫌な気配の正体は剣。思い出した。あれは1400年前の戦争で神々が私を殺そうと作った魔剣、『不死殺しの(つるぎ)』。

戦争が終わってから私が壊したはず…。およそ人の技術では作れないのになんで。

ガルムの剣は私の障壁を悉く破り私の身体をも貫く。

腹部に痛みを感じ私の視界は真っ暗になった。

立っているのか倒れたのかわからない…。私はどうなったの…?

「リアナ様!」

ルナの声が聞こえた気がした。気のせいかもしれない。



───── ───── ─────

「リアナ様!リアナ様!」

私『ルナ』は突然の出来事に反応が出来ず崩れ落ちるリアナ様を見ることしか出来ませんでした。私が駆け寄った時にはリアナ様はもう虫の息でした。

ガルム様は私も殺すつもりだったのでしょう。リアナ様を貫いた剣を振り上げて私目掛けて振り下ろしました。

「させないっ!」

馬車の方から澄んだ声が聞こえると私とリアナ様の周りには風の障壁が発生しガルム様は咄嗟に後退しました。

「ルナちゃん早くリアナちゃんを連れてこっちへ来て!」

私は声の主に従ってリアナ様を抱き上げ馬車の傍へ向かいました。

馬車の傍には20歳前後の浅緑色の髪をなびかせた綺麗な女性が立っていました。私はこの方を知っています。この方はシルフィード様。リアナ様の養母で風の大精霊です。

「お久しぶりです、アーサー陛下。時間がありませんので単刀直入に申し上げます。この度の我が娘に対する仕打ちは到底見過ごすことはできません。これはこの娘の母としてだけではなく全精霊の意思でもあります。処分については後日通達いたします。それでは…。」

シルフィード様一刻も早くここを離れようとしていました。リアナ様の命が掛かっているので皇族に対する礼儀など知ったことではありません。でもあろうことかアーサー陛下は…アーサーは私たちを呼び止めたのです。

「待ちたまえ!双方の利害が一致しているはずだが?」

「…何を言っているの?利害の一致…?この子にその忌々しい魔剣を突き立てておいて…。先のダンジョンや黒騎士は目を瞑りましょう。本来なら塵も残さないところですが。この娘も覚えてないようでしたし確たる証拠もありません。関わってないと言われればそれまでだったのであまり私が干渉することでは無いと判断しました。ですが今回は違います。明確な殺意を持ってこの娘に手をかけた。貴方が戴冠する際に言いましたよね。「この娘に害をなす時は相応の罰を与える」と。」

シルフィード様はとても怒っています。私よりも。

「だがリアナの殺害を依頼したのは君たち精霊だろ。」

この方は何を言って居るのでしょう。リアナ様は精霊と契約することで精霊魔法を行使することができます。契約上どちらかに叛意や懐疑心が生じた場合それを感知することができます。ですがリアナ様にはそれを感知した素振りはありませんでした。それなのに精霊がリアナ様に気づかれないように殺害を人間に依頼するなんて有り得ません。

「何を言っているの?そんなわけ…!」

「ル…ナ。お母さ…ま」

リアナ様が小さく呟きました。

それを聞いた私とシルフィード様はリアナ様に目を向けると「だいじょうぶ」と言って再び意識を手放してしまわれました。

「シルフィード様…これ以上は…。」

「そうね。それでは後日伺います。…くれぐれも逃げないで下さいね。」

私はリアナ様を抱えシルフィード様と共に精霊の森へ帰還しました。

後からシルフィード様から聞いた話ですが処分については今回の襲撃に関わった者に魔術及び武器の使用を禁じるというものになったようです。これを破ると全身に焼き付くような…死んだ方がマシとすら思えるほどの激痛に襲われるみたいです。

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