009 女神ちゃんの涙
「雨の日が多くなってきたね」
「そうだね」
「誰も来ないね」
「そうだね」
6月の長雨に打たれ、石像達はびしょ濡れだ
『ゴロゴロゴロ』『ピカ!ドドーーーーーん』
「モーちゃん大丈夫?」
「むず痒いくらい」
「私も足の裏ピリピリしたくらいわ」
雷が一直線に奉剣のモーちゃんに落ち輝きを放った
キョンちゃんがモーちゃんの心配をして声を掛けたが避雷針の如く地面に伝えただけで女神ちゃんの足の裏以外はなんともなかった
「雨ってさ、なんか辛いよねぇ」
「分かる〜、寒いとかじゃないけど心が冷える感じでね、日中暗いのとか嫌だよねぇ」
「ジメッと感もね」
「我はホコリが取れて嬉しい、錆は嫌だが」
「不錆鋼なんでしょ?」
「『刀身は』だ、柄を留めている楔なんかは錆びる」
「でも大丈夫なんでしょ?」
「まぁそうだな」
「でも嫌は嫌か」
「そうだな」
次第に風が強まり横殴りの雨になってくるとうっすらと姿を見せていた魔物も姿を見せなくなった
「やっぱり屋根って大事よね」
「そうね、壁も欲しいね」
「そうだね〜、毎日拭いてほしい」
「それはさ、欲張りすぎじゃない?」
「そうかなぁ〜、街の中の神殿にいる石像とかは毎日拭いてもらえるんじゃないの?」
「最初のころは月1くらいだったよ、時が経てば年1くらいになってったよ」
「そんななのー!?」
キョンちゃんは元都暮らしでそういう扱いだったことをうっすら思い出し、モーちゃんも何かを思い出しどんよりし始めた
「我は拭くどころか触れてさえ貰えず鞘に閉じ込められて立て掛けられていた」
「えーーーー!可哀想に」
「ここのほうが余程良い扱いだ」
「マジカー」
「女神ちゃんはどこからここに?」
「うーん」
女神ちゃんはココに来てから意識が芽生えたので記憶がない、というか覚えていない
「覚えてない」
「そうだね、ココに来てからだもんね」
「キョンちゃんはいつから意識あったの?」
「ココに来る何百年前かな〜もうあんまり覚えてないわ
最初はね街のお偉方さんの屋敷のお飾りで滅亡したら廃墟、拾われて飾られて盗まれてとか繰り返してたよ」
「へぇ〜色々あったんだね〜」
「まぁねぇ
誰かが鏡写しの魔法を使ったのがきっかけで芽生えてさ、それからよ
最初は何してんだろうな〜くらいな感じでボケーっと生きていたけど段々分かるようになると楽しかったのは記憶に在るわ」
「へぇ〜魔法きっかけなのねぇ」
「我も魔法だった、『流血』だったか『血飛沫』だったかでフラー(樋=剣の側面の溝)から血を吸い上げる時に目覚めたんだ
それからは血を吸い上げて噴出させるのが楽しくて楽しくて、いつの間にか魂まで吸えるようになってやりすぎて今に至るというところだが…」
皆声の掛け方が分からなかったのでちょっと沈黙
「ババチ!」「ババチ!」
「で、血を吸い上げると剣って中に吸い寄せられるように入っていけるのさ!それで我の使い手を何人も失くしてしまったけどなぁ、若気の至りだよ」
ツッコミにくい内容過ぎて沈黙
「ババチ!」「ババチ!」
「スマン」
「まぁ色々あったってことだね」
「そうだな」
「若気の至りっていうには重たいけどね」
「重犯罪よね
「殉職で2階級特進したりと役には立った筈だが?」
キョンちゃんがイラッとしているがまだ伝わっていない
「騎士だろうが男爵だろうが残された家族は溜まったもんじゃないわよね」
「それはそうだ、申し訳ない」
「それを若気の至りで片付けられたら鋳潰したい気持ちになるわよ」
「それだけは!」
「まぁそういうことをしてたんだから誇らずに反省なさいね」
「はい」
「キョンちゃんつよーい!ソウルブレイカーも真っ青ね」
「ソウルイーターだ」
「アイタタタター」
「斬りたい」
雨の日のやる気の無さは酷いものだった
「アタイ達は最近何もしてなくない!?」
「女神様ー!忘れられては困ります」
「居ないテイで話しを進めるのはどうか、どうかぁ〜勘弁してくだされ〜」
泥人形達はそろそろ痺れがきれた
「雨で溶けない?大丈夫?」
「300年以上溶けていませんので大丈夫かと」
「気を使って頂けるのが新鮮」
「願わくばこのまま、構ってください」
「だって3人流れるように喋るから面倒なんだもん」
「地べたに這う3人ですから〜」
「描写して」
「土下座でもなんでもしますから」
「メンドイ」
「女神様ぁああああ」
「これが神に見放されるということなのね」
「後生でございますぅう」
「だって、魔王とお爺さんの争いの時全く出てこなかったじゃない」
「ワシは一度座られました」
「私は完全に無視されました」
「私は背中とお尻を触られました」
「しーちゃん大変だったね、声をもあげずに偉かったね」
「女神ちゃんこそあんなにお知り触られて大丈夫だった?」
「もうちょっとでモーちゃん引き抜くところだったよ」
「私もそうしちゃいたかった」
「ねー」
女神ちゃんの女神とは思えない発言を誰も突っ込まない、セクハラはそれだけ重罪なんだと皆が分かっている
「でもさ石像とか泥人形の尻を触って何が楽しいんだろうね」
「あれじゃない?なんだっけほらアレ」
「また女神ちゃんのアレが来たよ」
「だからさキョンちゃんあれだって、ほらアレ!えーっと、フェス!」
「フェチね、フェスティヴァォ(ル)してどうすんのよ!尻フェスだったら触り放題じゃない!?」
「まぁ触りたいほど良い尻だったんでしょ」
「垂れハジメ」「オバザヒル」
「誰がオバサンよ!」
「違う、初老って言われたの、間違ってないか」
「キョンちゃんまで〜」
嘆きの女神像に降った雨は女神ちゃんが涙を流しているように落ちていったとかいかなかったとか…