056 ちょろい森
「最近、浜から回り込んで城に来る人間が増えたんだが何か知らないか?」
魔王が神妙な面持ちで聞きに来た
「何か不都合でもあったの?」
「浜側は鳥や爬虫類系の魔物が縄張りにしていて簡単に通れないようになってるんだが最近それらの魔物達が浜に居ないんだ」
「どこいったの?」
「どうやら森側に移動しているらしくてな
魔物の生育域というかな、変わってしまっているんだ
地殻変動とか森が焼かれるとかしない限りはそんなことは無かったんだがな」
「そんな事件みたいなことあったかな〜」
皆でウンウン唸って考えても何も出てこなかった
「皆さんお揃いで考えごとですか?」
ちょうどライオネルが走ってきたところで声を掛けてきた
「最近魔物の生育域が変わったらしいんだけど何か知らない?」
「うーん、毎日走ってるけどコース上の魔物は減ってきたし弱くなってきたかなって思います」
「へ〜何か見つけたら教えてね」
「分かりましたー!」
ライオネルは走り抜けていった
「今のは?」
「ライオネルです、元人間で今はリッチかな」
「見れば分かるタイプのリッチじゃないな、何で走ってるんだ?」
「ん〜とね、あ!きたきた、あのゾンビと並んで走るためなんだって」
ゾンビが走ってきたのを見つけてキョンちゃんが言った
「なぜ走る?」
「知らない」
「怪しいな、観察しよう、また来る」
魔王は数日後にまたやってきた、顔を見ると苦々しい表情をしていて少し怖いくらいで8割型面白い顔だと女神ちゃんは思った
「原因はリッチとゾンビだった」
「どういうこと?」
「彼奴等が走るために魔力を無意識に吸って吐き出してやがった
ずーっと同じコースを走り続けるもんだから内側の魔物が共食いしたみたいになって強力な個体が産まれたら良かったがゴブリンと狼のやたらと子を産みまくる奴がトップだった」
「平和じゃん」
「強固な個体の方が運営しやすいんだ、森といえど起伏が少ない部分にゴブリンと狼の軍団なぞ置いても範囲魔法で全滅がいいところだ
鳥もドラゴンも食べ放題だったからこっちに来てやがったんだ」
「で?どうするの?」
「走るコースを変えるというか全部走ってもらう、魔物に手出しはしないようだし他の魔物が手を出さないようにすればなんとかなるだろう」
「ガンバ!」
「来たな、リッチか」
ライオネルの走る速度はかなり早くなっていた
「ライオネルと言ったか待て!走るコースを変える」
「なんですと?」
「止まれって!」
「ゾンビ追いかけてるんであとで」
「おい!」
暖簾に腕押しな感じだった
「どうしたら良いと思う?」
「我なら、早く走るためにと半分嘘を交えて説得するな
今は起伏の少ないコースを走っているようだから滑らないようにという程度でしか気をつけていない
浜や砂利、木の根の出ているところ、斜面なんぞを走らせてトレーニングすればより足と体幹の強化に繋がるからとね」
「その作戦で言ってみよう、走りながら説得するか」
魔王は人間のような格好から本来の姿に戻した
黒光りする2本の角が耳の内側からヤギのように生えた濃い青紫色の毛色で銀色の鬣の馬、バイコーンだ
体高は調節出来るようで今は1.2メートル程と少し小さめにしているらしい
「魔王カッコイイじゃない!何でそっちの姿で居ないのよ!?」
「そうか?格好いいか、たまにはこの格好で来るとしようか」
女神ちゃんが褒めると照れくさそうに輝く鬣を揺らした
「ゾンビが来た、説得に行ってくる
上手くいくことを願っていてくれ」
「うん!ガンバレ~」
「女神様の応援が何よりもエネルギーになるな」
角と鬣が虹色のベールを靡かせるように光を残してゾンビと並走するように走り始めた
「クッ!早い!」
「ガンバレ~」
「これくらい屁でもないわ!」
ゾンビの速度に合わせて森に消えていった魔王は数十分後にライオネルとゾンビと並走して神殿前を通過した
「うまくやれそうだよ!奉剣よ、ありがとう」
「どういたしまして」
「こっちだ付いて来い!」
魔王が先頭に立ちゾンビ、ライオネルの順でいつもと違う木の間を通って森に消えていった
「1時間経っても全然ゾンビ来ないね」
「そうだね〜」
「かなり遠回りしているようだぞ、ぶっとい木の根を飛び越えたり沼地の縁を走ったり砂浜、砂利浜、岩場、岩壁、山道、平坦な道のほうが少ないくらいだ」
「へぇ〜、そんな道をあの速度で走れたら今度こそライオネルはレースで優勝できるんじゃない?」
「魔物2人で参加したらアウトでしょ?」
「確かに!」
代表になる人間が出てないわと女神ちゃんは考えを改めた、全く考えてなかった
「そろそろ戻ってくるぞ」
「お!一周が結構長いコースになるね」
「魔王はいい仕事したみたいだぞ?」
「ナニナニ?」
「魔王から聞こうじゃないか」
汗だくで息を切らし鬣ペッタリ状態で魔王は戻ってきた
「よし…2人で…道…間違わ…ない…ように…今日は…一緒に…周回しろ」
「はい!」
ライオネルは親指を立てて笑顔で決めてまた走っていった
「彼奴等が早いって…なんなのさ」
魔王は人間の姿に戻って神殿裏で倒れ込んで息を整えることにした
「クッさ!」
「まだ雨が降ってないもんで土の湿り気で上がってくることがあるんですわ」
「今の声は…お前か!?」
「はい、眼の前に居ります」
「良く生きていられるな!お、あ?額のところのはもしや」
「はい、飛び散ったアレです」
「ご愁傷様です」
「いえいえ、そちらこそ休まれずでしたね」
「まぁ、そういうことにしておこう
雨が降るように祈っておくよ」
「お願いします」
魔王はよっこらせと言いながら地面を確認しつつ少しでも柔らかい部分に体重を掛けないように気を付けて立ち上がった
「ありがとう」
「いや、心頭滅せば火もまた涼しというがこれは臭しだな、頑張ってくれとしか言えぬ」
魔王は息切れよりも気持ち悪さが勝っており嗚咽が止まらないがでんちゃんは耐えに耐えており魔王は尊敬の念を覚えた
「ではまた来る、魔物の生息域の調整が上手く行けば良いがな」
そう言ってでんちゃんに一礼して帰っていった
「なんだか嵐みたいな奴よね」
「面白い嵐だね」
「そうね」
玉の緒よ 耐えねばならぬ 長らえば
忍ぶにすれど 胃の奥モジョモジョする
字余り 魔王




