045 食べ物の恨み
「怪しい人物が走ってる?」
雪が溶け始めた頃、ダニエルはマリから報告を受けて現地へ赴いた
「確かにアレは怪しい人物だ、こんな雪深い頃にあの格好、寒さを感じない呪いでも受けているかもしれんな」
「名前はライオネル、手紙の配達員ですが国の陸戦大会マラソンの部で2位になった実力者です」
「そんな奴が何でこんなところに」
「領都から代官宛の手紙を持ってきたそうです」
「こんな雪の中!?まだ2メートルはあるぞ!」
「かんじきを履いて腿を上げて走れば問題ないと着の身着のまま走ってきたらしいと門番から報告がありました」
「領都から?あの格好で?頭おかしいだろ
呪われてるとかじゃなくて頭のネジ穴が馬鹿になってるだけじゃないか」
「まぁそうですね」
「とりあえず泳がせておけ」
「分かりました、テキトーに見張っておきます」
この時の采配が後で実を結ぶとは誰も思っていなかった
マリは適当な人員に見張りを任せて呪術士を探しに出ていた
「うーん、今日の夕御飯のおかずと思って探しに来たけど種類が無いし高いわね」
「この雪だからね、野菜は凍みるし肉はそもそも取れない
魚は冷凍で運んで来れるけど商隊は週に1回くらいしか来れないからね」
「そうよね、人の出入りすらほとんどないですもんね」
「そうそう、ほんとにね」
「贅沢ですけど塩っぱくないものが食べたいですよね」
「そうね、パリッと新鮮な野菜が食べたいね〜」
北国のお母ちゃんの会話だった、どこにもおかしい点はないようだ
「最近は景気が良くないね」
「乾物も無いですか」
「乾物はあるよ」
「良かった〜」
「でもね、数ヶ月前くらいに来た人が大量に買っていったんだよ
お陰で一時はウハウハだったけど主力の肉と魚、乾パンが一杯出ちゃったら客が引けないったらさ」
「それは難儀なことで、ちなみにどんな人でした?」
「うん?そうだね〜特徴のない顔というのが一番特徴的かな、しょぼくれた感じのおばさん
あぁ〜、古い指輪を人差し指につけてたね」
「黒い石の入った指輪ですか!?」
「良く知ってるね!?知り合いかい?」
「探し人です」
「そうかい、それ以来来てないから顔は良く思い出せなくてごめんね」
「いえいえ、大収穫です
ありがとうございます」
「いいってことよ」
店主のおばちゃんもなかなか特徴のない顔をしていたがマリはスルーした
特徴のない顔に見える呪いなのかもしれないと思ったが特徴のない顔を探し出すためにマリは動き回ることにした
その頃、おばちゃん呪術士が末端冷え性で布団を被っているとも知らずに…
「全然尻尾がつかめません!」
「そう意気込むな、血ナマコにしているときこそ隠れられてしまうものだ」
「それもそうですね」
雪が溶けてきてゾンビとライオネルが並走しながらトレーニングをしている頃、マリの我慢が限界に来ていた
「しょぼくれたオジサンがあのタンクトップ短パンに接触しました」
「何!?もしかしてグルだったのか!?」
「それはないかと…」
「見張りはついているのか?」
「はい、今すぐ案内します」
見張りについていた別の衛士のところへ走るダニエルだったが既に呪術士は居らずライオネルは宿に戻っていた
「申し訳ありません、撒かれたというよりは認識できなくなりまして」
「まさか、か」
「どうしようもなくでして」
「で、2人の会話の内容は?」
「タンクトップ短パンが今後の寿命10年分を今すぐに使いたいということでした」
「経緯が分からん」
「どうやら何か病気を患っているようで体力が落ちたんだそうです」
「10年分の体力を前借りするということか」
「そのようです」
「もう呪術は終わったのか?」
「いえ、春の大会前にということでした」
「大会はいつだ」
「すみません、そこまではなんとも」
「春になるまで張り込むしかあるまい」
「はい…」
ダニエルは代官に大会の日付を聞きに行き10日前頃から自分も張り込みに加わることにした
そして木々が薄緑の新しい葉をひろげた頃、ライオネルは街の壁を出る前に靴屋に寄るといういつもと違う行動に出た
「恐らく今日だろう、今日を逃せば呪術士は捕まえられない
イーちゃんプンちゃんは上からしっかり見ていてくれ、マリは靴屋の裏を張れ、俺は隣の店の屋根から見張る」
「うん」「うん、ちょっと珍しいもん食いて」
「分かった」
「捕まえたら代官から褒美を貰って店に入って食べようじゃないか、よし散開」
隈を作り筋肉の張りの落ちたライオネルが靴屋に入ると正面は平服を着た2人の衛士が詰めた
少し時間が経ってからライオネルは靴を持って出てきた
「隈が消え肌の艶が戻った、全員靴屋を包囲しろ何人たりとも通すな!」
ダニエルから大声で指示を出すと衛士が正面、マリが後方を塞ぎダニエルが靴屋に乗り込んだ
「靴屋しか居ない!」
「こっちこっち〜」「カモーン」
「追うぞ!」
イーちゃんがダニエルに念話で呪術士の居場所を伝え連携プレイで呪術士を包囲、ダニエルが恥ずかし固め(足を拡げて足首を掴むように前屈した格好の裏返し)でお縄にした
「オジサンのようなオバサンと言ったところか
毎回毎回聞き込みの性別が変わるのがなんとも厄介な奴だったがもう逃げられんぞ」
「恥ずかしいから普通に縛ってくれよ!」
「駄目だ、ここまで注目されれば恥ずかしくて逃げられんだろう?」
「嫌だよーーーーーーー」
黒い厚いローブを着た細身のオジサンみたいなオバサン、顔は確かに特徴のないのっぺりした顔だった
「さぁ、このまま代官に渡して完了だ
4ヶ月分近い期間の特別給金だ、これで全員家に帰っても怒られずに済む、街から出る前で良かったぜ?」
小さい子供がオシッコをする時のような格好でダニエルに抱えられて運ばれる呪術士には人権はもうないようなものだ
ダニエルは精神的な崩壊からか涙を流して縄を解いてくれと訴え続けるオバサンには耳をかさない、領主館に届け給金を頂き詰め所に戻った時には既に昼を過ぎていた
「皆、ご苦労だった!
全員分の追加の給料はちゃんと分配するが今日は打ち上げだ!全部使わずに家に帰って家族に報告しろ
今日の夜勤には申し訳ないがな」
「今夜はダニエルだよ」
「マリ、嘘だろ?」
「本当、私と夜勤」
「マジかよ…」
放心状態のまま衛士達に給金を分配、イーちゃんプンちゃんにも手持ちから小遣いを渡して解散となった
「ビール飲みてぇ」
「温めた麦汁振っときます」
「やめろおおおおおおおお」
イーちゃんプンちゃんは店で衛士達とブリトーを食べてご満悦で詰め所に戻り雑魚寝をした
「超いい匂いを漂わせて寝るとは…小奴らは鬼か」
「なら貴方は大鬼ね」
ダニエルは2人を長く拘束して仕事に使ったことを申し訳なく思ったがブリトーの恨みのほうが勝っていた
「食いたかったな…」




