042 細マッチョの怨念
「ホオォォォオオォォォォォ!」
神殿前に倒れていたライオネルの遺体が糸で引っ張られたように立ち上がり、強風の日にトイレの小窓を開いたまま玄関ドアを開けた時のような低い抜ける音をならした
「ホォォソマッチョホオオォォォォ!」
「細マッチョ言いながら立ったけど目がズレてる、あ!目ん玉落ちた!キモッ」
「アレはアンデッド化しているね、それも大分急激に肉の腐敗が進んでいるからスケルトンの類になりそうだ」
「流石モーちゃん、見てきたように語るね」
「まぁね、何度か見たよ
眼窩の炎が赤ければ赤いほど力に狂い、青ければ青い程精神的に特化して魔法を使うようになったりもするね」
「どっちが厄介なの?」
「どちらも厄介なのだよ、アンデッドだからね」
「なるほど~」
ライオネルだった者がプルプル震えると頭の肉が腐って割れズルっと全身を脱皮するように皮と肉と内臓を剥がして骨だけになり一歩下がった
「ホオオォォソマチッチョォォォォオオオ!」
「ライオネルは細マッチョに何か因縁でもあったのかな?」
「恐らくだがね」
「ちょっと2人ともヤバイよ!闇の衣が!」
「これは不味い、リッチになってしまう」
骨だけになったライオネルの心臓があったところから黒いモヤが噴き出し身体を覆った
「リッチってやばいの?」
「女神ちゃん知らなすぎじゃない?魔法系スケルトンの最上位の魔物だよ」
「へぇ〜、じゃあ他は?」
「狂気の力を振るう方はデスナイトで、そっちも闇の衣が出るけど鎧になるんだ」
「じゃあ何でリッチって分かるの?」
「目の窪みに青い火が灯ったからだよ」
「あ!ホントだ〜」
いつのまにかライオネルの頭蓋骨の眼窩には青い火が灯り丸い形を保った
「目の真ん中がピンクだよ!」
「どういうこと!?」
「混同すると紫か白になるはずだが、彼は特殊なのか!?」
女神ちゃんはなんとなくニヤけているように見えていたが、まさかな〜と思っていた
「ホォォソマッチョオオオオオオオオイ!」
「闇の衣が形を作った!…えぇぇぇ〜、それ〜」
「間違いなくライオネルだな」
「流石だねぇ〜裏切らないよね〜」
ライオネルの闇の衣はタンクトップと短パンだった
「防御力低いわ〜」
「あ!靴もある」
「ホントだ!靴下みたい」
ライオネルリッチは靴も闇の衣で出来ていた
「皆さん、まさかの魔物だったんですね」
「ライオネル喋った!」
「すげぇ魔物化して速攻念話とかやばいわ」
「消されたくなかったら人を襲わないことだな」
「心得ています、では皆さん、私の恋の行方を見守っていてくださいね」
「はーい」
「ガンバー」
「了解した」
リッチになったライオネルは骨をポキポキならしフワフワと小さくジャンプしながら身体の調子を確認した
「身体が軽い、肉体という制約を受けていないとこんなに軽いものなのか」
フワッと動き始めたライオネルは月面を歩く人のように放物線を描いてしまった
「違う!走り辛い!身体が軽すぎる!」
「槍を貸そう」
「いえ、短くて少し思い棒を2本下さい」
「では枝でも良かろう、召喚!」
モーちゃんは召喚!と言いつつ、周囲に人が居ないことを良いことに適当な枝を打ち落としてリレーバトンを2本作った
「素晴らしい!これで私はリレーにも出られる!」
生木の重いバトンを持つと腕は地面に引っ張られて上半身が地面と仲良しになりそうだった
「これはコレで無理かも」
モーちゃんとライオネルは試行錯誤したが結局軽い槍を持たせることでなんとか浮き上がらずに動けるようになった
「あとは走るだけ、追いつけ追い越せだ!」
ゾンビはライオネルの横を駆け抜けていった
「ゾンビ!待って!一緒に走ろ…いやドンドン進め、もっと早くもっと早くだ!
追いついて見せる!追い越して君の横に並び立ち、そしていつか、いつの日か童貞を捨てるのだ!」
ライオネルは念話グループに繋がっている距離で心の声を漏らしてしまった、当の本人はその恥ずかしい言動を聞かれていることに気付いていない
「確かに童貞捨てたね」
「そうだね〜」
「間違いないな」
ライオネルは神殿前に忘れられている肉の塊の中に大事なナニかまで捨て去っているとは思っていないのだろう、ただの腐った抜け殻に成り果ててたナニかはもう使い物にはならない
それからは毎日時計の長針と短針くらいの速度の差でゾンビとリッチが走るようになった
神殿にお参りに来る人は害のない魔物を応援することに楽しみを覚え一時的に神殿前に人集りが出来るようになったがそれも2ヶ月も続かずだった
「ライオネルリッチ早くなってない?」
「そうか?気のせいじゃないか?」
「ゾンビの速度も上がってるからね」
「イタチごっこか?」
「そうだね」
ゾンビの成長速度とライオネルリッチの成長速度ではゾンビに軍配が上がっている
いつか、いつの日か追いつく日が来るのか、それは誰もわからない




