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040 ゾンビにトレーナー


 雪がまだ薄っすら残る肌寒い初春、人々が参拝に訪れるようになる頃にはゾンビはジョギングが出来るようになっていた



「良いぞ!徐々にペースが上がって来た!

 このまま成長し続ければ森の神になれるぞ」



 相変わらずトレーナーのオジサンは勝手にレッスンを続けている



「良くやるよね〜」

「あのオジサンね〜」

「アドバイスは的確なんだろうけどゾンビはあんまり顔を向けないな」

「真剣に走ってるんじゃない?」

「そうなのか?」



 トレーナーのオジサンが付いていることで参拝客は一瞬だけゾンビ(もしくはオジサン)にドキッとするものの害の無いモノと認識して流し、段々と名物化していった



「ゾンちゃん、水だ!」

「ありがと!」

「オメェにじゃねえ!」



 コップに水を入れたものをゾンビに差し出す人が居たが口周りが青くなり始めたオジサンが受け取って飲んでしまい怒られたりしている



「上半身でバランス!バランス!

 足はリズミック、リズミック、そう!そう!いいよ!」



 オジサンは空が白ける頃にやって来る、ヒゲは剃りたてでツルンとしている


 日が昇り天井に差し掛かる頃にはすでに青から黒になり始めている


 日が落ちてもうそろそろ一番星が見えるという頃に街に戻るのだが、その時には黒ゴマくっつけた?くらい黒くなっている



「もちょっと腕のフリで地面に体を押し付けてグッと跳ね返す!

 足が地面を蹴る頃には反対の足が前に来るようにグッと膝を前に押し出して」



 ゾンビの前に出て見本を示すその動きが様になっていて女神ちゃんも真似したくなった



「危なかった〜、間違えて動くところだったわ」

「それ本当に気を付けて」

「春はキョンちゃんのツッコミが嬉しいわ」

「春は、かぁ〜」



 ゾンビは寝ることもなくレッスンの通りに腕振りを足に伝えてグッと地面を踏み込んでもう片方の足をしっかり腿を上げて走った


 そして雪が消えて新緑の頃にはゾンビの走りはランニングに変わった



「随分と軽快になったね、最高だ!

 あとは一歩を大きくしつつ足の回転を早めていくんだ、どんどん早くなるぞ

 タン・タン・タンからタッタッタッだ、リズミックにリズミックにビートアップさ

 ん?靴はどうしたんだい?僕が調達してこよう、修練に励むんだよ」



 街に戻るオジサンの脚は軽い、脚はキレイに剃られていてツルツルだがヒゲは幾ら剃っても時間には抗えない


 ゾンビはいつの間にか靴が無くなり裸足で走っていたがオジサンは真新しいランニングシューズを持って逆走してゾンビのところへ向かった


 次にゾンビが回ってきた時にはドンピシャサイズの靴を履き厚底ソールの恩恵であるバネ感を最大限に使って一歩幅を大きくさせることが出来ていた



「良いぞ!そのペースが維持できるなんて凄いよ、国対抗のマラソンレースは勿論だが鍛え続ければスプリントレースでもどちらでも優勝できるかもしれないね」



 ゾンビはビタッと止まりオジサンの顔を見て鼻の穴を拡げていい笑顔を見せた



「その顔、お前もしかして…おい!」



 オジサンはゾンビを追い掛けた



「なんかオジサンはゾンビを知ってそうだったね」

「そうか?ゾンビの未練を知ったとかそんな感じなんじゃないかと我は思うが」

「そっち!?まぁどっちも知りたいことではあるけどね」



 その日の夕暮れ時、ゾンビと別れたオジサンは直帰せずに女神様の元へ祈りに来た



「不肖ながらこのライオネル、彼のゾンビをテイムしたという扱いで国の代表を決める選抜レースに出たいと考えています」



 タンクトップ短パン青髭オジサンはライオネルと言うらしい



「彼が持つ槍は彼を精神的に支えている物と思います

 女神様、彼のゾンビとしての衝動を抑え、走ることに情熱を傾けられるように何卒お力添えを願いしたい」



 直立不動からしっかりと股関節から90度に頭を下げ回れ右をして走っていった



「なんだか走る速度が遅くなかったか?」

「そう?疲れたんじゃない?」



 モーちゃんがなにか違和感を覚えたが女神ちゃんはあまり気にしていなかった



 春の終わりになるとライオネルが神妙な面持ちでやってきた



「今日、ゾンビを連れて行きます

 私のランナーそしてトレーナー人生において最後のチャレンジです

 遠くから見届けていて下さい」



 夜が明ける寸前の白け始めた空の下、明らかに顔色の悪いライオネルがゾンビの手を引っ張りいつものルートを外れて街を通らず走り去っていった



「ライオネルは病気か?」

「そうかもしれないな」

「看破で見てもそれは分からないけど顔色と体を見る分にはそうかもね」



 始めて見た頃に比べて体は少し細くなっているように見えた

 走る格好は機械のように正確にリズム良く動いており体の不調を感じさせなかった



 手を繋いで出掛けて2週間後、ゾンビがライオネルを背負って帰ってきてライオネルを女神様の前に降ろされた



「女神様、ゾンビはマラソンで2位になりました

 スプリントは予選で敗退し出られませんでしたが10マイル(16キロメートル)では予選1位、決勝ではホーリーブレイクをゴール前で後ろから決められ惜しくも2位でした

 結局ゾンビを勝たせてやれなかった、純粋に速さを極めておけば問題ないと判断し対策をしておかなかったことが敗因です

 本当にゾンビに申し訳ないと思っています」



 ライオネルは土下座に近い姿勢から体を起こせない



「看破すると呪いってでてるんだけどさ」

「え?呪い?なんで?」

「どうやら自分で掛けたか掛けてもらったのか、寿命5年を削って今の体力にいているみたいなのよ」

「え?」

「こんな身体の状態でそれをしたらもう死んでしまのではないか!?」

「モーちゃんが当たりかま、もう寿命尽きてるみたい」

「ライオネルはゾンビに賭けたんだね」

「悔やまれるだろうね」



 ライオネルは地面の土を握りしめて泣いた

 嗚咽と声にならない声を肌の奥から絞り出すように泣いた


 そんなこんなしているうちにゾンビは一周走ってきた


 うずくまっているライオネルをゾンビは力付くで立ち上がらせた、その瞬間だった



 ライオネルはゾンビに口付けした



「その顔、女の子なんだろう?もろ好みだ、一目惚れしたんだ

 ナンバーワンこそが唯一無二のオンリーワンであると、選手とトレーナーとしてもナンバーワンのペアだと知らしめたかった

 それが2位だった、ナンバーツーだ

 国のナンバーワンにはなれなかったが僕を君のナンバーワンにしてもらえないだろうか?」



 ゾンビは口を曲げて首を傾げた



「フラれたああああああ、あ、グッ、ファア、ヒャ、ヒャ、ヒャ、ヒャ…」



 ライオネルは膝から崩れ落ち地面とキスをした格好のまま息を引き取った



「なんだか最後が哀れだね」

「そうねぇ〜」






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