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037 やる気ゾンビ


「冷えてきたね〜、そろそろ雪が降るかな〜」

「もうちょっとあとでしょ」

「そうかな〜、参拝の人が結構厚着してるからそろそろ降ると思うよ」

「たしかにね〜」



 下半身無双のお爺さんは大八車に座布団を敷いて毛布を被って参拝に来て隣のお姉さんには目もくれず女神様の顔をジッと見つめて小さくチューの口をして帰っていった



「ゾッとした、背中に冷や汗かいたわ」

「結露じゃない?」

「キョンちゃんのツッコミが冷え切ってる、これは雪が降るね」

「でしょう?」



 夕暮れ時になり冷たい雨の中にみぞれが混じり始め日が落ちた頃には雪に変わった



「今年も野ざらしだね」

「そうね」

「金属は皆よりもっと冷えるのだよ」

「でも冷えてて普通でしょ?」

「そうだな」



 誰も人が寄り付かない時間帯に少し重たい足音が聞こえてきた



『ズッズッズッズッズッズッ』

「ふぅ、ふぅ、おぉぉ、ふぅ、ふぅ、おぉぉ」



 ところどころ肉が腐って骨から剥がれそうになっているゾンビがキョンちゃんの前を横切った



「珍っしぃ〜、ゾンビじゃん」

「本当だぁ、あんなヤル気の漲る顔のゾンビ初めて見たわ」

「確かにそうね」



 体幹をなんとか起こそうと脇を締め顔を上げ、ただ歩くわけではなく足を引き摺らないように腿を上げようとしているのが分かるような動き方だった



「見失った!クソォ!」


「あ、夜間警備員チョスナーだ」

「あのゾンビの足で撒かれるって追いかける気無いよね」

「そうね」



 明らかに追いかける気のないチョスナーが軽い木の盾を尻の下にして腰を下ろしキョンちゃんを背もたれにして寝始めた



「流石にこれだけ見通しが良いと他の人に見つかるんじゃない?」

「でも毎年見つからないんだよねぇ」

「凍傷とか凍死とか考えないのかな」

「意外と良い服を着ててさ寒い日は温かい空気で包まれてるし暑い日は涼しい風がずっと流れてるのよ」

「へぇ〜そういうところに金使ってんのね」



 寝ているチョスナーを狙って雪狼が集まってきた

 雪狼はアンデッドの類で狼の骨や皮を素材に雪で体を作って動く冬限定の魔物だ



「また、我が捌いてやるか」



 朝焼けまでにチョスナーを狙ってやってきた雪狼は12匹がただの雪に戻り討伐証明の氷の魔石だけがチョスナーの手元に置かれた



「今夜はこんなものか」

「お疲れ〜」

「お疲れ様〜」

「雪は毎年思うが以外と斬りにくいものだ」


『ザリ、ザリ、ザリ、ザリ』


「お、またあのゾンビだ」

「何してんのかなぁ?」

「夜と同じ方向から来てるね」

「本当だ!本当に何してんのかな」

「逃げ回ってたらこんなとこ来ないもんね」

「そうよね〜」



 ゾンビはチョスナーを一瞥してすぐ目の前を通って森へ消えていった



「ゾンビなのに襲わないんだね」

「そうね、ゾンビって本能的に襲うもんじゃないの?」

「ゾンビはゾンビに噛まれてゾンビになるのが普通だが不浄の気である瘴気が多い場所で死んだときにこの世の未練で蘇るパターンもあると聞く」

「モーちゃん物知り〜!じゃあ後の方のパターンかな」

「じゃあさ女神ちゃん、未練ってなんだと思う?」

「えぇー!分かんない」

「ちょっとは考えてよ〜暇つぶしなんだからさ」

「あぁね、うーん、自由に走り回りたかったとか?」

「それあり得るね、あのゾンビが喋られるようになったら聞いてみよう?」

「うん…ゾンビでコミュニケーション取れるのかな」

「無理かもねー」



 浅はかな考えと思う人も多いだろうが未練というものはそんな程度のことが多いものだ


 翌日もそのまた翌日もゾンビは2度、3度と同じ方向から来て同じ方向に去っていくのを女神ちゃん等は見送った


 雪はどんどんと降り積もり1週間ほどかけて1メートル程まで積もった



「ゾンビロードが出来ちゃったよ」

「女神ちゃん、王様みたいな言い方しないでよ

 ゾンビウェイくらいにしといて」

「ゾンビ、ウェーイっていつかの若者等が言いそうだね」

「あったね〜懐かしいわ」



 まだ神殿が森に飲まれる前のことを懐かしく話しているとまたゾンビがやってきた



『ゾリ、ギュ、ギュ、ゾボ、ギュ、ギュ』



 ゾンビは腿を高く上げて腰から力を足に伝えるように大きく腰を捻りながら足を進めている

 女神ちゃん等が初めて見た時よりも明らかに動きは機敏になっていた


 そしてチョスナーはかまくらを作って風除けにして中で眠っている、かなりの暇人だ


 雪狼は雪原の上を歩けるのでかなり素早く動けるがチョスナーのかまくらの入り口に群がるためモーちゃんは楽々対処出来ていたがゾンビの方に雪狼が数匹向かってしまった



「不味い!届かない」

「伸ばしてズバ〜ッとは?」

「ゾンビが消えるけど良いのか?」

「ダメだー」



 ゾンビは雪に下半身を埋めたまま襲い来る雪狼の方に向き直って素手で応戦したが口を押さえるのに精一杯で爪での攻撃で傷を負ってしまった



「我が眷属よ雪より這い出てあのゾンビの力となれ!」



 モーちゃんの厨二病臭い詠唱でゾンビの右手側の雪の下から白っぽい土で出来た短い槍が突き出て狼を刺して雪に戻した

 ゾンビはその槍を持ち左手で抑えている狼を刺し貫いた


 ゾンビも狼を掃討し終えたことを確認し氷のような魔石をチョスナーのかまくらの入口に並べるとモーちゃんは台座に戻った


 ゾンビは短槍を両手で掲げて見せたあとストック代わりに使って雪を掻き分けながらまた歩いていった



「モーちゃん槍も出せるんだね」

「鎖が付いたようなものは駄目だが武器全般を眷属作製が出来るぞ」

「へ〜良いなぁ〜」

「練習していけば女神ちゃんにも出来るさ」

「だと良いけどねぇ」



 雪が深くなってくるとゾンビは毎晩神殿の前を通り日中も晴れていなければ通るようになった


 日に2回だったのが3回、4回、5回と増え目の前を通る度にモーちゃんに槍を掲げて見せてくれている



「掲げずともずっと共にあるのにな」

「良いじゃないの、気持ちよ、気持ち」

「まぁ悪い気はしないな」

「素直じゃないねぇ〜」

「女神ちゃん程に単純には成れんよ」

「え?」

「何でもない」



 雪が振り始めてから魔王も下半身無双の爺さんもダニエルも来ておらず参道も雪で埋まってしまいただただ街を見ているだけだった筈の雪の時期に今年はチョスナーと雪狼、ゾンビもまで来てくれており神殿の面々は中々に楽しい冬となる予感がしていた




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