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036 逢魔が刻


 逢魔が刻、それは魑魅魍魎に出会うマがマがしい時である



「マ、マ、マ、マ、マ、マ、マ、マ」

「まァ、ンンンまぁあ、マ、ん、まぁあ〜」

「マ…ま…マ…マあーーーーーぁーーーー」

「うん、うん、うん、マ!」



 4人のお婆さんが介護者2人の付き添いと剣と盾を持った護衛の戦士とともに散歩に来ていた

 2人は車椅子に乗っていて介護者に押され、1人は4点キャスター付きの歩行器を押して歩き、もう1人は亀甲竹の杖(黄門様の杖)を付いて歩いていた



「みなさーん、座って休みましょう

 お茶を淹れますね」

「マ、マ、マ、マ」

「ん、まぁあ〜」

「マ…ンマ…」

「うん、マ!」



 介護者の1人がポーチから木の手すり付きの椅子を2脚取り出し歩きの2人に座るように促し、もう1人の介護者は肩掛けの水筒からお茶を入れて小さいお菓子を添えて配った



「マ、マ、マ、マ」

 のお婆さんは車椅子の座面に腕は自分を抱きしめるような格好で体育座りしていた

 お茶のコップに伸ばした手は激しく震えていたがお茶がゼリー状になっていたため溢れず、お菓子を掴んだ手は口周辺を何度か殴りつけるように動き、口のいったタイミングで歯のない歯茎で手を噛んで口に菓子を落としていた


「『絶対に食べるんだ!』という欲求が伝わってくるね」

「そうね、執念だね」



「ん、まぁあ〜」

 のお婆さんは車椅子に腕を置き空気を食べて「美味い」と言っているように見えた

 お茶とお菓子を差し出されても目が見えていないのか一瞬だけ反応が遅れたが匂いで気付き空中を手探りしコップとお菓子を取って全てを口に入れた


「コップは食べないでー!」

「ゴリゴリ、ンマァ、ゴリゴリ、ンマァあ」

「また食べたぁ〜、小麦で作ってるから食べても良いわ、よく噛んでね」

「ンマァ〜」


「こっちのお婆さんは執念というか食い気な感じね」

「コップを食べるって凄い発想よね」

「発想というかなんでもかんでも口に入れちゃってるように見えるけど」

「そうね、でも見守ってもらって食べて良い素材で作って貰ってるから良いんじゃない?」

「それだけしっかり見てもらってるんだもんね」

「見てる人も偉いよね」

「うんうん」



 「マ…ンマ…」

 のお婆さんは立っても座っても腰が90度曲がっている、恐らく寝ていても曲がっていることだろう

 キャスター付き歩行器で歩く速度は早く前が見えず蛇行していても介助者と同じ速度で進めている

 腕もしっかりとしていてコップ持つ手の小指がピンと伸びていてとてもエレガントだ、しかし上の入れ歯を忘れておりクッキーが噛めず口の中で転がしながら溶かし食べていた


「このお婆さんはしっかりしてそうだね」

「そうね、心配無用な感じね」


「ゴフッ、ガフッ、ゴクン、ガフッ、ゴクン、ブッシュ、マンマーーーーーーーーー」

「ゆっくり落ち着いてから飲みましょうねぇ」


「ムセてる間に飲もうとしてムセてるわ、危険よ!とても危険だわ」

「茶の飛沫に虹が架かったね」

「じゃあムセても大丈夫!ってなるかー!」

「あの世への道みたいに見えてるみたいよ」

「ここで逝かないで!」


 背中を擦られているお婆さんはムセの苦しさの中で何かが見えたのか虹を見てうっとりしていた



「うん、うん、マ!」

 のお婆さんにお茶が渡る直前になり6匹のジャガーのような魔物が寄ってきた


「皆、女神様の近くへ!」


 全身鎧の戦士が叫ぶと歩行器のお婆さんが歩行器ダッシュ、車椅子の2人も介助者に押されて動いたが亀甲竹の杖のお婆さんだけが足が出なかった…出なかったがゆっくりと体が前に傾いて…倒れそうな格好で小走りダッシュ!


『パァーーーーーん!』


 神殿の石畳に杖を叩きつけ乾いた爆音を鳴らして突然に急停止し俯いて体を丸めた



「ガ、ガア、グッ、ア、マアアアアアアア!ッペ」


 お婆さんが気合込めた咆哮(痰絡みの喀出音)を響かせるとジャガー達は怯んで逃げ、その後ろ姿に緑茶色のどデカいネッチョリ痰を入れ歯とともに吹き出していた



「マッ!(お茶ちょうだい!)」

「溢しちゃったから入れ直すね」

「うん、うん、マッ!」


「上下入れ歯吹っ飛んでったよ」

「我ならばアレが当たったら精神的なダメージで戦線離脱するな」

「歯を弾いても内側にネッチョリ入ってるもんね」

「そうだ」

「でも生理現象だから仕方ないもんね」

「そうだな、アレは出て良かったと思う」

「ねぇキョンちゃん喋ってるところごめんね、あの歩行器のお婆さんがね、キョンちゃんの台座に座ったまま大量のヨダレを垂らして寝てるわ」

「マジで…」



 介護者さんに声をかけられ歩行器のお婆さんが立ち上がった時にはモーちゃんの台座まで広がるほどの水溜りが出来ていたとか…



「雨、降ってほしい」

「我も思う…」


「みなさーん帰りましょう」

「マ、マ、マ、マ、マ、マ、マ、マ」

「ウマァア、ウマ、まぁーまぁー」

「マ…マ…う…ま」

「うん、マ!」



 入れ歯を吹き飛ばしたお婆さんは入れ歯を拾い上げてポケットに入れクシャッとした笑顔で「マ!」と言いながら女神ちゃんに手を振り、前のめりの転びそうな小走りダッシュで土埃を巻き上げて帰っていった



「マ!の時間だったね」

「そうだね」



 今日も平和です



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