032 現神
翌日も浮いたまま移動する女神ちゃんはアンデッド相手に奮闘する味方の軍勢をギョッとさせている
「段々ゾンビや骨達が増えてきたね」
「まだこの辺は弱い相手だから大丈夫だね」
「山の中腹くらいにスゴイのが居るようだぞ」
「地竜かな?」
「そうだと思う」
「全力で刃を伸ばしても足りない大きさだ」
「やれる?」
「誰に言っている?」
「じゃあよろしくね」
「うむ」
空呼ぶ女神部隊は魔王とダニエルがゾンビの波を左右に分けながら山を登っていく
「私要らなくない?」
「今のところね」
「もうすぐ出番だ」
山の中腹と言ってもかなり上の方、直径10メートル程の大穴が空いており、その入り口に女神ちゃんは降ろされた
「女神様、この先に魔王が待っています
何卒よろしくお願いします」
「全員敬礼!」
魔王の口上とダニエルの掛け声で女神に武器を持ち上げる敬礼を送ったが、女神ちゃんはちょっとビビってた
「いきなりボス戦?」
「そうね、意外だったわ」
「まぁ洞窟の中ならワシが居れば無敵じゃろ」
「二人共頼りにしてるからね」
「「…」」
「沈黙は止めて」
左手の盾を前に出し上半身を隠すように少し前屈みになる、剣の切っ先もしっかり前に向けてゆっくりと摺り足で侵攻を開始した
道中は人骨がグチャグチャに繋がり手が20本くらいあるスケルトンや足がいっぱい生えた大狼、腐肉のスライムなど出てきたがモーちゃんが切っ先を伸ばして僅かでも光が魔物を捉えていれば全てを灰塵に帰してしまうため女神ちゃんはただ歩くだけで済んでいる
「キメエ」
「モーちゃんスゲエ」
「だろぉ?」
モーちゃんの働きが1番なのは明らかだ
たった一匹小さい茶羽根ゴキブリみたいな物が居ても女神ちゃんは洞窟を壊しそうな勢いで剣を振り回すため危険でなんなら居ないほうがいいくらい、キョンちゃんは洞窟の壁に押し当てられたり肉スライムが弾けるときの汚物避け等に使われ骨折り損をしている感じになっていた
「キョンちゃんてさトリックデーモンでしょ?」
「そうだよ」
「人型に成れないの?」
「成れると思うけど女神ちゃん役目なくなるよ?」
「おっふ、それは勘弁だ」
「ガーンバ」
「はい」
トリックデーモンは化けるのが得意な魔物だ、よく居るのは宝箱に擬態して人間を喰ったり、ダンジョンの壁に擬態して遠回りさせたり、鏡に擬態して不用意に近づいてくる奴を食ったり取り込んだり嘘を吹き込んだりする賢い魔物だ
剣や槍、鎧になるものは一定数居るし生き延びるが盾は上手く襲撃仕切れず生き残る奴が少ないのが現状だ
「右側の壁トリックデーモン、刺したら近道できるよ」
「へー、アンデッドじゃないんだ」
「そうね、トリックデーモンはアンデッドに成れないのよ、死んだらその物体として形を残すだけよ」
「なるほどね~、サクッとな」
「ギヤアアアアアアア」
壁を刺すと急速に縮まって消えてしまった
「可哀想でもある」
「攻略する側から見れば見つけ次第殺したい厄介な魔物だよ」
「さすが同種族」
「でしょー?」
新たな道を進むとすぐに大きな爪を持った魔物を見つけた
ボディが直径10メートル近い大きさで長さは20メートル程もあり鱗の間から毛も生えているずんぐりむっくりな爬虫類顔のモグラが地竜の正体だった
「来たか、バンシーをそそのかした馬鹿者が」
アニメ声の念話だ、女神ちゃん等の頭に直接キンキン響いてきた
「いえ、私はそそのかしていませんが私共の友人が大変に失礼したとのこと、大変申し訳ございません」
「そうか、友人か、馬鹿なバンシー等そのまま連れ去ってくれれば良かったのだ
そうすれば半死半生の全ての神に逆らった魔物になど成らずに済んだのにな」
モグラは身体の右半分は腐り左半分はまだ魔物として生きた状態を保っていた
「どうやってバンシーの呪いを半分で止められたの?」
「単純に呪詛を吐ききる前に大声でバンシーの音を潰してぶっ殺しただけだ」
「なるほどぉ、そういう手が有るんだ」
キョンちゃんは感心した、バンシーの呪いなど受けてもアンデッドにはならない魔物なのにだ
「だが半分は貰ってしまった、だって突然来たと思ったら『暇をくれないなら死ね』と言ってきたんだ、酷いと思わんか?どうせいつも暇だろうになぁ」
「社会人として最低だわ」
「だろう?辞表でも書いてくれればなんら問題ないのにな」
地竜はよっこらしょと体を反転させてアンデッドの右側面を女神ちゃんに向けた
「サクッとやってくれ、そうすればアンデッドフィーバーが終わって新たな魔王が選出される
そうなれば残党整理して元通りだ」
「はい、お疲れ様でしたー」
女神ちゃんは間髪入れずにモーちゃんでぶっ刺した
地竜の口は「うっそーん」と動いていたがそのまま息絶え右半分から全身まで全てを灰にして消えてしまった
「帰ろうか」
「ちょっと待って、灰の中の魔石を取って行こう」
「我が取り込もうか?」
「いや、女神ちゃんに取り込ませよう
少し魔力が上がれば分身できるかもしれないから」
「それは良い考えだ」
「なにそれ」
「色が綺麗なら食べればいいよ、地竜の何十分の一かの魔力を取り込める筈だよ」
「へぇ〜」
女神ちゃんは灰の中から人間の拳大(女神ちゃんの小指先大)くらいの石を取り出し口に放り込んだ
「飲んだ」
「馴染むまで放っといて」
「うん、分かった」
残りの残党をモーちゃんが光で蹴散らして洞窟を出りと女神ちゃんは剣を天に向けて持ち上げた
「「「うおおおおおおおお!」」」
「「「やったぞおおおおお!」」」
「「「残党狩りだああああ!」」」
皆、女神ちゃんの帰還で勢いを増し見える範囲の残党を狩り尽くした
「じゃ、帰りますか」
「そうだね」
「うむ、何か忘れている気がするが良いか」
女神ちゃんは再び浮遊する武装女神として村々を練り歩き人々を平伏させながら帰って行った
「女神様ー!一目会いとうございました…」
裏側から海底神殿の面々が来ている可能性などすっかり忘れられており男神は膝から崩れて嘆いていた




