003 魔王現る
「あの黒尽くめのフードの男がさっきからコッチをずーっとチラチラ見てるんだけど私に惚れてると思う?」
「女神様、自意識過剰に御座いますれば」
「おいたわしや、頭のネジがいかれましたね」
「外見は女神、中身はポンコツでございます〜」
「…我もそう思う」
「皆分かってるでしょ」
「キョンちゃんまでぇ酷い!」
女神はなるべく無表情というか柔和な笑顔のままで居ようと思っていたのにちょっと表情に出てしまった
「やはり!お前も魔物であったかぁ〜
ハァーハッハッハ〜私は魔王!この森を統べる最強の魔物であり至高の存在である」
黒尽くめの男は一瞬で距離を詰めて黒いマントを翻しながらカッコつけて言い放った
フードの下は頭のテッペンに小さい角の生えていてチリ毛の髪と眉毛がふんわりしている赤ら顔のチンチクリンな男だった
「怖気づいたかぁ〜ハーッハッハ、ゲフッゲフ
どういうことだ、ここは私の魔の力よりも強い清浄な気が充満しているだと!?」
勝手に喚いて勝手に弱っていく自称魔王を女神は嘲笑するように見下ろした(物理的にも見下している)
「クッ、貴様さては本当に神の!?」
女神像 = リビングスタチュー = 魔物
「女神は女神でいらっしゃいますよね!?」
「実は魔物だったなんてそんなことありましょうか」
「魔物でないと仰ってくだされ〜」
「魔物です」
そんな泥人形達とのやり取りは自称魔王には聞こえていない
「クッ、この剣からも何やら強い力を感じる
私が持つに相応しい!」
自称魔王はグッと柄を掴んで引き抜き天に向けて突き上げた
「どうだ!我に使えぬ武器があろうかぁ!あ、おっと危なっ!あ、重ぉ
うわぁ、あああああああああああああ」
奉剣のモーちゃんは一気に重量を増してバランスを崩させて刀身の側面を袈裟に押し当て自称魔王にのしかかった
「モーちゃんナイス」
「ふん、こんなカスに扱われて堪るか」
自称魔王はジタバタして動けない
「おのれ、我を愚弄するか!そこの人形、助けぬか」
誰も喋らず誰も助けない
「クソッ、こんな剣ごときに」
「我の魔法でへし折って、溶かして…魔法が使えない」
「ふん!ふん!うーーん、うーーーーん、持ち上がらないよぉ」
「誰か、誰か、助けて〜、助けてよ〜」
「お父ちゃ〜ん、助けてよ〜、助けてぇ〜」
自称魔王はしまいに泣いてしまった
「モーちゃんそろそろ良いんじゃない?」
「十分懲らしめたと思う」
「じゃぁ私が持ち上げるわ」
泥人形のでんちゃんが一歩引いて女神ちゃんが3歩だけ物理的にも重い体を動かしてモーちゃんを持ち上げて鞘代わりの石に刺し元の位置で固まった
「けっ!デカいだけでウスノロか、魔王の兵としては不要だな」
全員が御立腹だが兵として取り立てられずに済んで良かったと女神ちゃんは思った
「女神ちゃん、自称魔王を看破してみたの」
「キョンちゃんどうだった?」
「『魔王の子』って肩書きがあったから本当に魔王になるかもしれないよ?」
「あのまま魔王になったら森が無くなって良いかもね」
「守り神的な立ち位置だったから廃棄されるかもよ」
「それはヤバいね」
「女神様、謝っといた方が!?」
「ちょっと先は闇ね」
「謝罪の見本の土下座ですぞ〜」
「えぇ〜謝るのは嫌」
魔王は半歩ほど離れてまだブツクサ言っている
「キョンちゃん、あんなんが魔王になれると思う?」
「ムリだと思うけど、なったらヤバい」
「なった時点で森なんて無くなるじゃない!?」
「そうね」
「いっそのことモーちゃんに切り刻んでもらって経験値にしちゃうほうが良いんじゃない?」
「それもアリね!」
「斬っていいなら塵芥になるまで刻むが?」
「やっちゃう?」
「女神ちゃん、なんか来るよ〜」「早いよ〜」
「え?イーちゃん、プンちゃん何が来てるの?」
「親かな〜?」「かな〜」
「それって魔王じゃない?」
風がブワッと一瞬強く吹いて木の葉をザワッと揺らした、その直後には自称魔王の横には迷彩柄に葉っぱや草を服に縫い付けた背の高い何かが立っていた
「これ!ドリィ!女神様のところで何をしとるか!」
フードを取ったらオールバックで赤ら顔のイケオジだ、角が2本剃り込みのように太く短いものが付いていた
「お父ちゃん、この剣を引き抜いたらのしかかって来たんだ
オレが苦しんでるのに女神がゆっくり拾ってよ!全然ダメなんだ!こんな魔物ウチには要らないよ!?」
「バカが!彼女等がここに神聖なエネルギーを一身に受けてくれているからこそ他の魔物が活発に動けているというのが分からんのか!」
女神は初耳!とばかりに驚いた表情になった
「そうだったの?キョンちゃん知ってた?」
「あれ女神ちゃん知らなかったの?」
「知らなかったけど?」
「どんくささも女神級ですな」
「なんて不憫なんでしょう」
「お見逸れしました」
「我は神聖な方が動きやすいがね
自称魔王のお父ちゃんが女神ちゃんの顔を覗き込んで眉間のシワを深くした
「ほれ見たことか!後継になるかもしれないお前が知らないことで女神様が驚かれているではないか!?」
「いや、アレ絶対私も知らなかったって顔だって!」
「いいや、そんなことは断じて無い」
「ちゃんと見てよ!半笑いで顔背けたよ!」
「いいや、哀しんで憐れんでいるだけだ」
「絶対違うって小刻みに揺れてるし!」
「それはお怒りになられているんだ、怒りに任せてあの剣を掴んで振り回されてみろ!少しでも触れればたちまち魂まで喰われるソウルイーターだぞ!?俺だって怖くて立ち向かえんわ!」
「ヒィイイ!」
女神ちゃんは笑いを限界まで堪えて腹が痛くなりモーちゃんの柄を無意識に掴んでいた
「そういうわけで一緒に女神様に謝罪をして帰るぞ!良いな!」
「うん、うん」
自称魔王は頭を掴まれ深々をお辞儀をさせられた
「息子が大変な御迷惑をおかけしました
子の躾の悪さは親の責任で有ります
大変に申し訳ありません、子の愚行、何卒お許しいただけますれば」
「本当にゴメンなさい!」
女神は人差し指と親指でOKサインを作りホッペに押し当ててウインクした
「ありがとうございます、御恩は一生忘れません
ほら、見てみろ
一度は目を瞑るがニ度目はもう無いぞ、というサインだ、分かったか!?」
「分かったよ、お父ちゃん!女神様、オレの命を助けてくれてありがとう
これからは真面目に勉強するし魔法も頑張る!お父ちゃんより強くて優しい魔王になれるように頑張るって誓うよ
だから今日はごめんなさい、ありがとうございます」
盛大な勘違いを正せぬままササーッと2人は居なくなってしまった
「女神様、私にはお茶目なOKサインだと分かっていましたよ!」
「不憫な子、きっと顔が怖いのね」
「どうか気を落とさずにぃ〜かしこみかしこみ〜」
「余計凹むわ!踏んづけてやるんだから!」
「お止めになって下さい」
「あぁ私の最期がこんななんて」
「踏んで下さい!ハァハァハァハァ」
「踏む気無くなった、どろちゃんキモイ」
平和的解決の後、数日間だったが土下座姿勢のどろちゃんは皆に無視され本当に土下座している気分で過ごしたらしい
ファンタジーは難しい!
週1投稿出来たらいいな、くらいでやっていきます