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020 恍惚の兵達


 夏の涼しい1日、認知機能の低下しているけど歩ける高齢者達が集まって女神様の崩れた神殿前で昼食を食べてお話をしていた



「私と残りの人生を一緒に過ごして貰えんだろうか?」

「レーナンさん、先週も同じこと言ってましたよ

 私は仕事で皆さんと一緒に居ます

 でも旦那も居ますのでレーナンさんとだけずっと一緒というのは出来ません」

「私が死ぬまでは看てくれるんじゃな?」

「そうですよ」

「ありがとう、ありがとう」



 レーナンさんという名のお爺さんは若い介護担当のお姉さんの手を持って頬に擦ろうとしたらスルッと手を抜かれてしまい石化したように固まった



「ミヤさんあんまり後ろ見ようとすると落ちちゃうから」



 椅子に下を覗き込み何なら股まで潜ろうかとしているお婆ちゃんのミヤさんにお姉さんは助けられた



「後ろの世界は逆さまなんだね」

「それは頭の位置が逆さまだからだよー!戻ってきて〜」

「え?そのまま潜ったら一回転するかね」

「アブナーイ!うぉ、あれ?」



 ミヤさんはお股を潜って顔をお姉さんに向けていた



「気持ち悪いから、戻ってきて!」

「え?あぁ私の背中が見えてるわ!なんて気持ち悪いのかしら」

「新発見しなくていいから、体を戻して」

「お尻が臭いわ、私の前にお尻を向けてるこの人ウンチ漏れてるんじゃない?」

「ミヤさん、ウンチ漏れたの?テントに入って替えましょう」



 ミヤさんはお姉さんに連れられてテントに入っていった



「エイヤ、ソイヤ、セイ、ソソイ、ソイヤー!」



 一際筋肉なお爺さんが落ちていた縦半分に割れた大木を両手で持って切り下げ・突き・腰切りして数歩右足へ動いて切り上げ・袈裟斬りと素振りをして葉を散らし小枝や鳥の巣の残骸や虫を撒き散らしていた



「いやあああ」

「虫だ虫だ、うめぇうめぇ」



 神経質そうなシワのない服を着た縦皺の多いおばあちゃんが嫌がり、近くにいた背中の曲がった細いおじいちゃんが飛んできた虫を取れるだけ全部食べていた



「ドリーさん素振りやめてー、エメリッヒさんは虫食べないの!」

「虫うめぇのに」

「斥候職やめてるし、さっき昼ごはんも食べたでしょ!」

「食べられる時に食べるんだ!それに虫は美味いぞ〜ユーリエちゃんも食べな?」

「私は要らないです、ご飯でお腹いっぱいです」

「うめぇがなぁ〜」

「もう食べないでくださいよ〜」



  ユーリエと呼ばれたちょっとぽっちゃりでチョンマゲをした男性スタッフは女性に間違われていたが毎日なのでもう気にならなくなっている



「セ、セイ!ソイヤ、ソイヤ、エイヤーーー!」



 ドリーさんは手刀で枝を切り払い丸太にして素振りを再開していた、今度は木の皮が周囲に散らばり皮の内側に居た虫がまた飛び散ってきた



「虫が、虫が、頭、頭、服の中ぁぁぁぁぁ」

「取るよぉ、ギリエさん、手を振り払わないでね」

「ユーリエちゃん、服の中、服の中ぁぁぁぁ」

「はいはい、ドリーさん素振りストップ!スト〜〜〜〜〜〜ップ!」

「あ?またか」

「木の皮と虫が凄い舞っててどうにもなりません!」

「皮剥ぎゃいいんか?面倒くさいな」

「その丸太の素振りをやめてください」

「トレーニングくらい良いだろ?」

「じゃあ散るものが無いように皮を剥いだ木の棒くらいにしてください」

「仕方ねぇな」



 女神ちゃんはドリーさんの振るう大木の先端の枝が何回か当たっていた



「怖い…ガクガクブルブルよ」

「女神ちゃん我慢よ!」

「キョンちゃんとモーちゃんも気を付けて」

「私はなんてったって盾だから」

「こんな時にダジャレは良いから」

「恥ずかし」

「我はあんなに強い男になら振るわれても良いがな」

「えー、皆ちょっとずつ抜けてるからちゃんと降ってもらえるか分からないよ?」

「それは一理ある」

「虫ぃ!虫ぃ!虫がぁ、ひゃあっ!」

「でんちゃん虫弱すぎ、ファッ!ムカデ!」

「ワシのお尻の割れ目にもムカデ」

「皆大変だ〜」「ババチ!」



 そんな時に来てしまうのが魔物と言う奴で…



「おっ、ユーリエちゃんメタモルドラゴンかカメレオンドラゴンかどっちか分からんが来たぞ」

「え?エメリッヒさんどこに来てます?」

「ん?ドリーさんや、女神様の右側を大股で3歩分置いて縦に大木で叩いてくれや」

「お安い御用だ、ふんっ、ん!ダリャアアアアア」

『ドグシャッ、ドカーーーーーン!』


「エギギギギギギギギギギ」


「カメレオンドラゴンじゃったか」



 エメリッヒさんの振るった大木は木っ端微塵、エメリッヒを正面に近付いてきたカメレオンドラゴンの顔の左側半分をグチャグチャに潰した

 カメレオンドラゴンは右前脚が完全に麻痺して動かなくなり今にも死にそうなほどだがなんとか耐えた



「キャアアアアアア虫がぁああああああ」

「顔はダメええええええ」

「ワシは背中にいっぱいじゃ」

「うるさ〜い!私は虫塗れるに血塗れ」

「うわぁ、すみません」

「ごめんね」

「尻のムカデ取ってむず痒い」

「ごめん、それは同情する」

「良いんじゃよ」



 エメリッヒさんはゆっくりと歩いてモーちゃんを台座から引き抜いたあと瞬時にカメレオンドラゴンの左眼の前に現れてその勢いのままモーちゃんを柄の石突ギリギリまで刺しこんだ



「ドラゴン肉だ、こりゃ今日は豪勢な昼食が食えるな!なぁエメリッヒさんよ」

「そうじゃな!今日はドラゴンステーキだ」

「ちょっと!二人共昼食さっき食べたでしょ?」

「はてな…」

「食べたか?そう言って騙そうとしてないか?わしゃ虫しか食うとらんぞ?」

「俺は食ってねえ、腹減った」

「二人共食べました、エメリッヒさんはその後虫を大量に食べたしドリーさんなんて3人前食べてます!」

「そうか?」

「んにゃ、食った覚えはねえな」

「と、なれば捌いて食うしかないな?」

「そうだな、久し振りに捌くか?」



 エメリッヒさんがどこかからナイフを取り出しカメレオンドラゴンに近付くとずっと置物のように固まっていたお爺ちゃんが動き始めた



「ダメエエエエエエエエエ!」

「ビックリした、レーナンさんどうした?」

「私が捌く」

「いいよ、俺たちできるから」

「いいやダメだ、お前さん達は雑で雑で買い取りの値段つけるの大変だったから」

「もしかして元職員?」

「肉屋に転売する解体、成型、交渉をやっとったんじゃ」

「おたのみもうします」

「任されよ、わしゃこの肉を食ってエミリーちゃんと一花咲かせるんじゃ」

「がんばれー」

「がんばれー」



 レーナンさんは刃渡り30センチ程の刀のような包丁をどこかから取り出してカメレオンドラゴンを解体し始めた

 四肢の動脈と尻尾前の動脈に穴を開け首に着けた切れ目から水の魔法で血を抜き膨れた身が落ち着くまで待ってから熟練の腕で皮を剥ぎ肉を解体し臓物を処理、最後に首の骨の4番目の背骨を貫通し脊髄を断ち切っていたモーちゃんを抜くと骨だけなのにビクビクと動いたが自然に止まった



「これだけあれば死ぬまでの施設の介護料くらい払えるだろうて」

「すげぇなレーナンさん、ただの女好きだと思ってたぜ」

「俺もケツばっかり目で追うただの変態と思っていたけど手際いいな!」

「ふんっ、そんな風に思っとったんか!あんまり間違っては無いがのぉ

 お!エミリーちゃん、私が解体したんじゃ!

 褒めてくれい、抱きしめてくれい」



 レーナンさんはミヤさんのパンツを変え終わって出てきた介護のお姉さんに再度アタックに行った



「えっと、まず名前ですがタミラです

 結婚してます、はっきり言って迷惑です、セクハラです」

「そんなぁ〜」

「あんまり酷いと国に送り返しますよ!」

「我慢します」

「ドラゴンの解体はご苦労さまでした

 血飛沫と虫塗れの神殿をキレイにしたら帰りましょう」

「はい…」



 大量の放水で水浸しながらも血と虫をキレイに洗い流して貰い一先ず安心した女神ちゃん達は一息ついていた



「すっごい元も子もないこと言っていい?」

「なに?女神ちゃん」

「あんな爺さん達の介護なんか要らなくない?」

「分かるわ〜、でもね『看破』すると必要って分かるよ」

「なんかあるの?」

「ここに来ている人達全員が『まだら認知症』ってあるのよね」

「真鱈認知症?」

「斑の方ね、今はいいけど何にも出来なくなる時間帯みたいのがあって段々そのダメな方の時間が長くなって普通でいられる時間がなくなってくるのね」

「悲しいね」

「まぁそうね、皆恐らくこの森で生計立ててた人っぽくてさ介護さん達が刺激入れに連れてきたんじゃないかなって思うのよね」

「なるほど」

「今イキイキしてるけど帰ったらボーッとしてるだけかもしれないよ」

「介護さんも大変だわ」

「そうだね、皆必死で生きてたんだと思うと人間の一生って一瞬の輝きなんだなって思うわ」

「キョンちゃんさ、たまに頭いいよね」

「たまにってなによ、女神ちゃんはいつもアッパラパーじゃない!」

「あー、辛いわ」




 帰り道、ワイワイ騒ぎながら帰ったお爺さんお婆さん達は施設に戻ると皆がただただボーッと座っていたり寝ていたりサーキットトレーニングしたりするだけで自発的に動けない人に戻ってしまった



「レーナンさんカッコよかったよ

 ドリーさんは強いんだね

 エメリッヒさんの索敵制度は天下一品だった」

「ギリエさんの肉を焼く加減は最高だったよ

 ミヤさんのタレの旨味ったらもう、たまらなかったね」



 2人の介護さんがやっと連れ出した5人の勇姿を忘れまいと各個人のノートに出来事を記載している間も5人は放心していた



「全盛期だったら20歳で知り合えてたら結婚相手に選んでたかもね」

「本当に?」

「レーナンさん起きてたの?」

「今だけね

 自分でも怖い、気が付くと時間が過ぎているのがね」

「分かるんですね」

「ああ、皆分かってる

 だから頭が冴えている時に好き勝手して発散するんだ」

「そうでしたか」

「だから、今のエミリーちゃんの一言はとても嬉しかったよ」

「タミラですけどね」

「ははっ…」



 レーナンさんは恍惚の人に戻った



「またいつか、皆でドラゴンステーキ食べたいですね」

「そうだな、タイミングを見て連れて行こう」



 全ての生き物に平等にいつものいつもと違う時間が流れている




「お尻のムカデ流して欲しかった」


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