013 置き去りの魔王
「チーーーーチイチイヂーーーーーチッチッチッチッ」
「耳元でうるせぇな〜一番鬱陶しい季節来たわ」
「本当にねぇ、煩いし留まるしおしっこ掛けていくし最低」
「ワシのお尻でジリジリ泣かんでほしい」
「私の手元にもよく来るのよ」
「一匹取れましたよ!女神様!」
「「「…」」」
「そろそろ赦してぇ、お願いですからぁ
本当にすみませんでした、調子に乗ってました、自覚しています、大変申し訳ありませんでしたぁ、土下座でも五体投地でもしますから
どうか!どうかお赦しを〜」
「そろそろ赦してあげたら?無視するのなんて魔王だけで良いでしょ?」
「まぁそうなんだけどね」
視線の先には地面に向かって気を付け!の姿勢をビシッととっている黒尽くめの人が倒れている
「すみませんでした、すみませんでした、すみませんでした、すみませんでした…」
「もうアレ呪詛でしょ、吐きたいわ」
「キョンちゃんゴメンね」
「魔法が使えたら吹き飛ばしたいわ」
「でもモーちゃんでもしばき倒せなかったから」
「不覚!」
「手は残ってないか…イーちゃん透明化の魔法を魔王の手前掛けられない?」
「出来るよー」「出来るよー」
イーちゃんが空間に『透明化』を実行、キョンちゃんから魔王は見えなくなりプンちゃんが『無音』の魔法を魔王の周囲に掛けて音が伝わらないようにしてしまった
「いいわ、鬱陶しいのが消えて最高」
「そろそろストーカー規制法でもできないかしら」
「無理じゃない?街の壁の外だよ?」
「女神ちゃんがまともなこと言ってるとかヤバいね!槍が降りそう」
「んなこたーないでしょ」
女神ちゃんの右の耳元で鳴いていたセミが点滅し始めた
「ミーミーミミミミミー…」『ドパァァァン』
「イッターィ、耳キーンしてるわ
だーから夏のセミは嫌なのよ」
「爆弾蝉か〜地味に痛いし体液ぶち撒けるから嫌なのよね」
女神ちゃんの顔の右半分が黄色い体液でビッチャビッチャになった
「魔王にやれっつーのに、なんで留まらないのかな」
「あれ?女神ちゃんに言ってなかったっけ」
「何を?」
「今のあの魔王は分身体みたいなもんで半分実体、半分幻覚みたいな変な奴なんだよ」
「どういうこと?」
「カクカクシカジカで…」
魔王城から何度も何度も脱走を繰り返していたらいつの間にか王座に知らない魔物が座っていたことがありイチイチ対処が面倒なので分身体で動くことにしたらしい
丁度ダンジョンの穴が開いた時が留守にしていて王座を取り返している最中だったとか…
「へぇ〜魔物は器用だね」
「だから虫も気味悪がって留まらないんだと思う」
「ふーん、分身の術が使えるとか良いな〜」
「女神ちゃん使えないの?」
「キョンちゃん使えるの?」
「小さな盾の分身は作れる」
「我も単純な剣の分身は作れる」
「分身できないけど『幻影』はできる」「できる!」
「えー!皆ちょっと教えてよ〜」
「良いよ〜」「良い」「いいよー!」「Yo!」
魔法が下手な女神ちゃんがすぐ出来るわけもなく…
泥人形達は泥を使った魔法で小さな子供達を作って器用に遊ばせられている
「才能うっすー」
「うー、でんちゃん達が巧妙すぎるのが気に食わない」
「魔王に頼むが早いかな」
「キョンちゃん、それだけは嫌だけど」
「でも今すぐやりたいならプロに頼むが間違いないよ」
「うー、仕方ない
でも魔王ってプロなの?」
「この魔王はねぇ、バイコーンなのよ」
「バイコーンって何?」
「二本角の馬でね、不純の象徴って言われてる伝説の魔物よ」
「要するに伝説の浮気者ってことね?」
「不倫は文化なんて伝説が…」
「なにそれ」
「一旦置いといて
この伝説の浮気者は人を騙したり拐かしたりとか幻術の類が上手というか幻術そのものというかなのよ」
「へぇ〜、伝説の浮気性な変態がコート開いたら裸的な感じか」
「違うけどそれでイイわ
イーちゃん魔王によろしこ〜」
「了解」
地面に平行に気を付けしていた魔王が立ち上がった
「遂に我が力を役立て貰える時が来たか
女神様に普人族の女性の形の分身体を作ろう
街に入ることは叶わないが外を駆け回り冒険に身を捧げる経験を提供しよう『空蝉』」
女神ちゃんが体を引き裂かれるような痛みで声も出せなかったが、気がつけばいつもの視界より遥かに低くなり石畳の上ではなく土の上に立っていた
恐る恐る左側の石畳の女神像を見ると微笑んだまま何処ともなく見て佇んでいた
「出ちゃった、あ、声が出る」
「良かった、成功のようだ
女神様、貴方の美しさを再現しきれて居ませんがほどよく熟れた見た目と妖艶な美しさは表現できたと自負しております
こちらの鏡でご確認下さい」
キョンちゃんを正面から見るのはほぼ初めてで緊張するが人になった自分を見るほうがどちらかと言えば緊張だ
「あぁ〜、こんな感じか〜」
「お気に召しましたか?」
「まぁまぁかな」
40代半ば、150センチ少々で小太りとまではいかないがやや太め、金の髪は腰手前までと長く少しウェーブがかっている
顔は凹凸少なく瞳は金に近い茶色、唇は薄めだ
「完全に魔王の好みだよね」
「そう…なりますね」
「仕方ないか自分じゃ出来ないし
でもさ申し訳ないんだけど服くらいどうにか出来ない?」
モザイクだらけなんですけど?
「すみません、体の用意で精一杯でして」
「あんたの服はどうなってんの?」
「服は…想像して創造して着てます」
「私にも出来るわよね?」
「…はい」
魔王が着せてくれたのはキトーンという古代ギリシャ様式で長い布2枚で体を前後で挟み紐で固定するだけの簡単な服だった
「ありがとう、ちなみになんだけどどのくらいの時間保つの?」
「そうですね、10日くらいでしょうか」
「10日で戻ってくればいいの?」
「いえいえ、勝手に引き寄せられるので10日分離れても問題ないです」
「凄いわね、最高じゃない!」
「自分で分身体を作れるようになれば半永久的に動けますよ」
「本当に!?貴方、魔王ってだけあって優秀ね!」
「それほどでも…」
照れて真っ赤になって照れた魔王を放って女神ちゃんは動き出した
「じゃあ盾と剣としーちゃん護衛は行くとして後ろの2人はどうする?」
「行く」「行く」
「僕は駄目でしょうか」
「アッシも連れて行ってはくれませんか」
「でんちゃんとどろちゃんも行くと誰も守る人居なくなるよ?」
「我は残るが?」
「あ、私もー」
「剣と盾ないとかどうすんの?」
「予備分の分身体を作るくらいなんともない」
「私も一緒」
「へ〜器用だね〜」
「ということで6人でいってらっしゃい」
「ありがと〜」
オバサン2人、ジジイ1人、弱そうな細いお兄さん1人、イケてるお兄さん2人の6人パーティで旅に出ることになった
「はっ!女神様は?」
完全に置いていかれた魔王であった