第壱話 えまちゃん
逃げようとした心を押しとどめた。
それが出来ただけでも、僕は成長したみたいだ。
僕の敵はいじめっ子。
僕は典型的な苛められっ子だ。
だから僕のパンチはか弱く、蹴りも威力がない。
そして僕に向かって、ボスのパンチが飛んでくる。
世界は僕に優しくはない。
その時、僕の心に直接
「はるとくん」
と声がした。ゆきのちゃんの声だ
ゆきのちゃんの声は続いた。
「一瞬だけ、はるとくんは鉄柱と化す」
それはホント一瞬だった。意識していても見えないレベルだ。
その刹那、苛めっ子のパンチは鉄柱に変身した僕を直撃した。
慌てる苛めっ子の隙をついて、僕は疾走した。
喚くボスを置いてけないのか、僕は廊下の角を曲がった。
誰かが僕を掴んだ。
そして今度はゆきのちゃんの親友のえまちゃんに変身した。
復活した苛めっ子が、追いかけて来たが、えまちゃんに変身した僕をスルーしていった。
1つ問題があるとすれば、もう一人、本物のえまちゃんもいる事だ。
「えっ?わたしが二人?」
もちろん、えまちゃんは驚いた。
するとゆきのちゃんは、
「えまちゃん、リアクション良すぎ。手品だよ、手品」
「手品?」
「トリックが有るに決まってるじゃない」
「マジで!」
とえまちゃんは、えまちゃんに変身した僕の胸に触れた。
僕はちょっと変な気分になった。
だってえまちゃんと言えば、クラスで一番可愛い子だったから。
さらにえまちゃんは、僕の口に触れ
「本物みたい」
「良くできてるでしょう」
「どんなトリック?」
「それは言えないよ。手品師のパパの企業秘密だし、ばらしたら怒られちゃいうし、でも、ヒントあげるね。あそこに鏡があるでしょ。あれを利用してんの」
さくらちゃんは大きな姿見の鏡を見て、
「あれを利用して!」
と真剣に驚いた。
その間、ゆきのゃんは僕の耳元で「行って」と囁かれたので、僕はまた疾走した。
ゆきのちゃんの姿のまま。
美少女に向けられる視線の数の多さに、僕は驚いた。
その視線は強い好意を含んでいることも。
そして僕は誰にも気づかれる事なく、自分に復帰した。
つづく




