僕の妹はお出かけ金魚
「ほら加奈子、着いたぞ」
「うわぁー、きれーい」
高校一年生【三船銀治】が押す車椅子に乗りながら、加奈子は提灯に彩られた神社の賑わいに感動した。
妹の加奈子は生まれつき体が弱く、学校にもまともに通えていなかった。
しかし最近、体調は概ね良好で病院から外出の許可が出た。
今日は年に一度の縁日の日。毎日病院の窓から見える世界が全ての加奈子にとって、胸が躍る体験だった。
「ねえお兄ちゃん、私あれがやりたい」
「金魚すくいか、よーし……」
加奈子は車いすから下り膝立ちになって、名称のわからない薄紙を貼ったあの道具を持って一生懸命に金魚を追いかける。結果一匹もとれなかったが、すごく楽しそうだった。
お店のおじさんから一匹だけ金魚をもらう。赤と白のツートンカラーで腹部に大きなハートのマークが一つついた金魚だ。
そして帰り道――
「あーあ、明日からもこんな日が続けばいいのに……」
「そうだな、まあ病院の許可さえ出ればまた外出できるから。どこへでも連れてってやるよ」
「本当? 忘れないでよ!?」
「ああ、約束だ」
しかしその約束はわずか数秒で潰える。――二人は交通事故に遭った。
銀治は軽傷で済んだが、加奈子は一命こそ取り留めたものの、頭を強く打ち昏睡状態となった。
「俺が出かけようなんて言わなければ……」
銀治は自分を責めた。
そして二学期、銀治は授業中の教室から死んだような目をして窓の外を見ていた。
「あっ、お兄ちゃん!」
「?」
銀治は目を疑った。
窓の外を一匹の金魚が宙を泳ぎながら、銀治に話しかけてきたのだ。
銀治は思わず席から立ち上がる。
「三船、どうした?」
「え……っ……?」
教師が怪訝な顔で銀治に問いかけ、クラスメイト達も同じ顔で銀治に注目する。
あの金魚の姿も声も、自分にしか認識できていないようだ。
休み時間、校舎の外に出ると、
「お兄ちゃーん、私だよ!」
「その声……、加奈子か!?」
しゃべる金魚の腹にはハートの模様が……、縁日でもらった金魚だ。それに加奈子の意識が乗り移ったのだ。
「ウソだろ? これ元に戻れるのか? ゆゆしき事態だ……」
「そう? ずっとベッドの上に比べたら自由で楽しいよ?」
銀治の心配をよそに、加奈子は心を躍らせていた。
銀治は週末には加奈子と、山登り、遊園地、水族館、今まで行けなかった場所に出かけて、自由を謳歌するのだった――。
何気ない日常が一番の幸せ……
そう思いながら描きました。
あとで活動報告も書きます。