93話 神域の絡繰
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【大社入口に到達しました。制限時間内に■■■■■を討伐してください】
「なんだこりゃ、読めねぇじゃんかよ。それより皆はどこいったんだ? 早く兄貴達と合流しなくちゃ!」
周りを見ても伸びきった木々と、古めかしい寺だけだ。
だけどウィンドウはここで敵を倒せと言っている。
──でもその敵がいないんじゃどうしようもないよなぁ。そもそも敵の名前も何もわかんねぇし。
暫く散策してみたが、これといった発見はないまま時間だけ過ぎていく。
倒すべきモンスターどころか、雑魚モンスターの存在すらも確認できない。
歩き回る事に飽きた俺は寺の中で一休みする事にした。
「うわ、思った以上にきったねぇ!」
半分取れかかっている扉を強引に開けると、月明かりに照らされた内部は、一切手入れのされていない証明のような大量の埃と、木の腐敗した臭いに満ちていた。
「あんまり長居したくねぇな。てかいつになったらモンスター出てくんだよ」
1歩踏み出す度にギシギシと床が鳴る。
寺という事もありてっきり、仏像かなんかがあるのかと思ってたけどそれすらも無いみたいだ。
真ん中らへんで腰を下ろし、じっと外を見つめる。
勿論特に意味はないし、なんの期待もしてない。
寺の中に誰もいないのは確認済み。もし敵が来るとするなら外からしかない。
「つっても、本当に来んのか? 皆は今頃何してんだろ……まさか俺だけ仲間はずれにされてんのか!? くっそー! なんか段々イライラしてきたぜ!」
イライラをぶつけようと拳をブンブン振るっても何かを捉える訳もなく、ただ空を切るだけ。
「──なんだ?」
外から人の気配。間違いない。誰か……何かいる。
俺は扉の影に身を潜め、様子を伺う。
兄貴達かもしれないけど、敵の可能性も充分にある。
──ここは慎重にいかないと。
石段を登ってくる音が段々と大きくなってくる。
確実に近づいているのがわかる。
敵ならぶっ飛ばすだけだ。
音が近づくにつれて、俺の意思とは無関係に鼓動が早くなる。
「……なんだあれ?」
石段を登ってきたのは少なくとも仲間じゃなかった。
かと言ってモンスターかと言うと、それも微妙な感じだ。
真っ黒な人型の影のような変てこな奴だ。
──モンスター、なんだよな? 一応。どうしよう、よく分かんねぇけどとりあえず殺しとくか。
影はこちらを見ている。つまり俺がここに隠れているのはバレてるって事か。
奇襲が出来れば良かったけど、そう上手く行くわけないか。
開き直って堂々と姿を見せ、相手の前に立った。
今の所あまり敵意や殺気は感じられない。
だけど念の為に臨戦態勢はとっておく。初動がほぼないモンスターも今までに見てきた。
いつ何があっても対処できるように、腰を落とし左の拳を前に。いつもの構えだ。
俺が構えると、敵も遅れながら双剣のような物を構えた。
形的にも双剣なんだろうけど、影の延長になっていて真っ黒だ。
「双剣なんかで俺に勝てると思ってんのか?」
双剣を舐めてるわけじゃない。
俺は最強の双剣使いを隣でずっと見てきた。
あの馬鹿げた速度に、双剣使いとは思えない程の火力。
身内な筈なのに、ゾッとする様な強さをしていた。
蒼いオーラを纏った時の兄貴は本当に無敵だった。
兄貴の強さに惚れたんだ。そこら辺の双剣使いなんて怖くも何ともない。
油断はしてない。相手がどんな雑魚だったとしても絶対に油断はしない。
しかし目の前の敵は一瞬にして姿を消した。
「消え──らぁぁッ!」
直感で消えた敵が背後から来るとわかった。
雷のようなものが迸る剣を拳で弾く。
メリケン型の武器の特殊スキルのおかげで、常時拳での攻撃には衝撃波が付与される。
初見では絶対に見抜けない。
相手も衝撃波を予想していなかったらしく、対処も出来ずに吹っ飛ばされる。
ただ俺の衝撃波は威力自体はあまり高くない。
あくまで動きをとめたり、隙を生むための補助にすぎない。
そして今まさに出来た、その隙を逃すまいと距離を詰め追撃の右ストレートを叩き込む。
が、既に体勢を建て直した相手の剣に弾かれる。
それでも拳をできる限りの速度で連打。
「オラオラオラァァァッ!」
拳と双剣が混じり合い火花を上げる。
既に衝撃波にも何らかの方法で対処し始めた。
──まだスキルは使ってない。けど、ボスでも無いやつにここまで対処されるのは初めてだ!
「──うわっ!」
撃ち合いの最中、突如後方へと圧力らしき力が腹部に加わり不意をつかれて今度は吹っ飛ぶ。
──ダメージはない。今の力で衝撃波を相殺してたのか? それとも単純に衝撃波を避けてたのか? どちらにせよ思ってたよりもかなり強い。いやむしろこいつは……。
瞬間、背筋が凍りつくような感覚に襲われる。
目の前の敵は見た目的な変化はあまりない。黒い身体を黒いオーラが纏った位。
さっきまでとは違って凄まじい圧力だ。
戦わなくてもヤバさが伝わってくる程の圧倒的な存在感。
俺は、この感覚は知っている。
さっきの瞬間移動じみたものも、乱撃の動きもどこか見覚えがあった。
俺はこれまで目の前の敵を、ある人物と似ているだけだと気づかない振りをしていた。
双剣使いの人型モンスターなら、ある程度動きが被るのは説明がつく。
だけど、この肌で感じる圧力はもう誤魔化せない。
ドッペルゲンガーなんて都合のいいモンスターなわけも無い。
──隣で見てきたんだ。間違えようがない。認めて、戦うしかないのか……?
「なぁ、兄貴……」




