85話 鬼の血
「ちんけな遠距離攻撃なんてしねぇからよぉ……あぁ、駄目だ飲みすぎたかもしれねぇなぁ。俺ぁ酒が弱くってなぁ」
酒呑童子は遠距離攻撃はしないと言った。
その言葉を信じるのならば、逆に肉弾戦が更に強化されると言うこと。
コイツのことはよく分かっていないが、小細工や騙し討ちなどをするような性格ではなさそうだ。
「酒弱いのに飲んでんのかよ。兄貴、あいつ恐ろしく頭悪いぜ」
アルベルトがため息混じりに呆れたように言った。
「ただの酒だったらな。恐らく能力の発動条件に絡んでいるはずだ。そうじゃなかったらお前の言う通り、かなりおつむが悪いな」
見ると、本当に酒が弱いらしく少しフラついている酒呑童子。
しかし、流れ出る血液は酒呑童子に絡みつき、徐々に凝固し装甲のようになっていく。
鉄の塊のような金棒も同様で、血液が覆いトゲのような形が構築されていく。
「血魎ノ羽衣……こいつが俺の最強だ。これ以上はなんもねぇから安心していいぞ」
見たことも聞いたこともない無いスキルだが、酒呑童子の口ぶりから察するに多少能力はあったとしても、攻撃力と防御力に補正がメインにかかっていると考えるのが妥当だろうな。
複雑な能力よりも厄介かもしれない。
酒呑童子の場合、素のステータスが高い分それだけでもかなり厄介だ。
攻撃力、防御力、速度とどれをとってもかなりの数値だ。
――上昇率にもよるが、恐らくは面倒な発動条件があるはず。それを考慮すると上昇率も低くはないはず。
【スキル 疾風迅雷Lv7を使用します】
【ステータスがアップしました】
「ボサっとしてる暇はねぇ! さっさと片付けるぞッ!」
雷桜に雷を纏わせ、影化で距離を詰め、出てくると同時に威神力で突貫力を強化。
前方はクラッドとアルベルトの攻撃。
先程のようにくらうとは思えないが、誰か1人くらいはダメージを与えられるはず。
金棒で攻撃を防がれた2人のおかげで、俺に手は回らない。
うなじに雷桜を突き立てるが――
「――自動防御かッ!
その刃は皮膚に到達する前に弾かれ、血の装甲の1部が瞬時にして突起し、俺の顔面を貫こうと迫る。
ギリギリのタイミングで顔面への直撃は免れたが、左耳が貫かれた。
焼けるような痛みが規則的に襲う。
バックステップで距離を取り、体勢を立て直す。
「クロードさんッ! 今治しますッ」
雑魚の殲滅が終わったのか、ウルを連れたリリアが駆け寄る。
「そんな事をしている暇はない。致命傷以外は無視していいから攻撃に専念しろ」
【残り時間 2分】
「時間が……わかりました! 私も攻撃に専念します」
そう言うとリリアは弓を構え、酒呑童子の隙を伺う。
――マズイな。残り時間が明らかに足りてねぇ。だいぶショートカットしてここまで来てるはずだが、それでもこうなるのか。
「わ、ワシがやるのじゃ!」
ウルが飛び出し、赤と黒の魔法陣を展開。
表情を見る限り残されたMPはそう多くなさそうだ。
再度ポーションを飲み、瓶を投げ捨てる。
恐らくあれが最後のポーション。
疲労値もかなりのものだろう。だが、休んでいいと言ってやれるほど余裕のある状況じゃない。
「さて、5対1になった訳だが……その余裕そうな面ぶん殴ってやる」
5対1とはいえ、奴の実力に変わりはない。
一瞬でも油断すれば1人また1人と殺されていくに違いない。
後衛の援護を上手く活用して攻めるしかなさそうだな。
リリアの弓と、ウルの炎弾と黒槍が放たれると同時に前衛の3人は駆け出した。
「5人掛りかぁ? ワラワラ出てきやがるなぁ」
そう言いながらも酒呑童子は楽しそうに笑い、金棒を一閃。
金棒からは複数の血の斬撃が生まれ、ウルの魔法を相殺していく。
リリアの矢が被弾するも、切っ先が多少めり込む程度でダメージらしいダメージはない。
「っしゃぁぁぁッ! もらったぁぁぁッ!」
前方はクラッドの斬撃を受け止める為に金棒を使い、後方はがら空き。
アルベルトが炎を集中させた右の拳を、自動防御による血の棘をなんなく破壊し、背面に叩きつけ爆発を起こす。
己の膂力と共に、肘からも勢いよく炎が噴射しその威力を高める。
「――ぬぅッ!」
酒呑童子の巨体が前方へ投げ出され、体勢を崩した。
「調子に乗りすぎたな」
疾風迅雷を付与し、よろめいた酒呑童子の真上から雷桜と黒天を叩き付けるように振り下ろす。
「いくっすよ!」
それと同時にクラッドは槍に風を纏わせ、投擲するように腹部を狙う。
「――甘ぇんだよぉ。お前さん達」
次の瞬間、全身を覆っていた血魎ノ羽衣が右腕と金棒に集中した。
そして金棒で俺の攻撃を受け、右腕でクラッドの槍を掴んだ。
火花を散らした次には、複数の血の棘が俺を襲う。
「だから言っただろ。調子に乗りすぎだってな」
「なにを言って――」
俺は金棒を蹴りつけバク宙のような形で、クラッドは自分と酒呑童子に逆方向に風をぶつけ、強制的に距離をとる。
すぐ後ろではウルが、極大の魔法陣を酒呑童子の頭上に展開している。
酒呑童子は俺の言葉でようやくその存在に気がついたようだった。
未だ体勢を整えられていない酒呑童子だが、発動から着弾までの間の僅かな時間でも回避を取ることは出来るだろう。
「この距離でかわせないと思ってんのかぁ?」
勿論そんなことは本人が1番わかっている。
だが、それは俺達が何もしなければと言う前提があっての話。
「リリア」
「はい! 鬼さん、動かないでくださいね」
リリアの放った3本の矢は、風切り音をたてて酒呑童子を襲う。
1本は眼球を狙う軌道。酒呑童子はなんなくそれを避けるが、それはフェイク。
本命は他の2本。ダメージを与えるよりも、その場に留めることを目的とした矢は、酒呑童子の両足の服を貫き床に深く突き刺さる。
ゼロコンマ数秒、酒呑童子の動きに制限がかかる。
その制限もあるかないかという程に弱々しいもの。
だが今はそれで十分だ。頭上の魔法陣からは既に魔法が発動されている。
今から回避は不可能。
「やっぱりワシが最強なのじゃ!」
それを悟ってか酒呑童子は瓢箪を取り出し、
「あぁ……今日は本当に楽しいなぁ。うぃ……酒がよくすすむ」
そして次の瞬間には、直径10メートル程の魔法陣からくる黒炎の柱にその姿が消えていった。
【残り時間 1分】




