82話 焔の騎士
雑魚はクラッド達に任せるとして、俺はパイアンに集中するべきか。
単体で撃破出来るかどうかは分からないが、やってみるしかない。
クラッドとアルベルトは鎧騎士を端に誘導し、俺とパイアンの戦いの邪魔にならないように配慮している。
パイアンは長剣を構える。
――焦るな。勝てない程強い相手じゃない。アイツの動きをよく見るんだ。
双剣を構え、パイアンを睨む。
長剣の切っ先が、ほんの僅かに揺れる。
――来るッ!
それとほぼ同時に俺は跳躍した。
俺の顔面があった地点に長剣の切っ先。
ほんの少し反応が遅れれば致命傷を貰っていたかもしれない。
正面からでは僅かな揺らぎしか見えない程、正確な刺突。
剣技のみなら、今まで最高の相手かもしれない。
だがこの程度の相手に負けてる場合じゃない。
俺は雷撃を放ち、それと同時に黒天を振り下ろす。
パイアンは、長剣を瞬時に振り上げる。
2m程の剣なら重さも相当なはずだが、紙でも振るうような速度だった。
雷撃は肩を掠めたが、ダメージとしてはゼロに近い。
黒天と長剣は刃を交え火花を散らし、甲高い金属音を響かせる。
「――そんなもんかよ」
俺は影化を使い背後に回ると 一瞬で長剣が背面へ横薙ぎにされるが、それは想定内。
双剣で防ぎ、背中を蹴りつける。
地面に激しく叩き付けられたパイアンに雷撃を放ち、威神力で更に地面へと押し付ける。
鎧が悲鳴を上げる中、俺は跳躍し押し潰されているパイアンへのダメ押しの踵落とし。
破壊音を轟かせ、地面にパイアンを中心に放射状の亀裂が入る。
――決定打にはならなさそうだが、手応えはかなりある。一気に決めるか。
【スキル 疾風迅雷Lv6を使用します】
【ステータスがアップしました】
【疾風迅雷のレベルがアップしました】
【ステータスが更にアップします】
タイミングがいいことに疾風迅雷のスキルレベルが上がった。
効果時間1秒と攻撃力、速度の補正が1パーセント増えるだけだが、ないよりはだいぶいい。
今だ起き上がらないパイアンに黒天を叩き付け、雷桜を関節に突き刺し電撃を放つ。
中身がどうなってるのかは知らないが、鎧の隙間から雷光が煌めき痙攣しているようにも見える。
「――ッ!」
眼前には炎。
俺は即座に飛び退き距離をとる。
見ると、パイアンの鎧の隙間からは炎が揺らめいている。
恐らくあの炎は自由自在。
今のように局所的に噴射させる事も、全体から噴射する事も可能なはずだ。
「面倒な奴だな」
パイアンは体勢を整え再び長剣を構えると、長剣にも炎を纏わせた。
雷桜と似たような性能と考えて対処した方が妥当だな。
コイツのデータは正直あまり多くない。
まだ隠し球があるとすれば、それなりに時間がかかるはずだ。
――くそ、さっき王の一撃を使っておくべきだったか。完全に俺のミスだ。恐らく同じパターンじゃもうやられてはくれないだろうな。
離れた距離で長剣を振るうと、巨大な炎の斬撃のようなものが俺目掛けて一直線で飛んでくる。
雷撃を放ち相殺させるが、パイアンの姿はもうそこにはない。
死角からの斬撃。
黒天で受け止めるが、凄まじい力により俺の体は吹き飛ばされる。
空中で回転し受け身をとり、即座に反撃に出る。
雷撃を3度放ち、一瞬できた雷撃の影に移動し双剣で斬り掛かると同時に、威神力で上から押し潰す。
斬撃は弾かれたが、威神力には反応が出来ず再び地面にめり込むが、追撃を恐れてか全身から炎を吹き出す。
「一生そうやってろ」
【残り時間 15分】
残り15分。MPをケチっている暇は無さそうだ。
威神力で押し潰さたパイアンにその後、ひたすら潰すように何度も威神力を使う。
一瞬、噴射されていた炎が消えた。
【スキル 疾風迅雷Lv7を使用します】
【ステータスがアップしました】
その隙にパイアンの背を蹴り倒し、双剣の連撃をくらわせる。
――これを逃せば時間的にヤバい。何としてでも決めてやるッ!
「――らああああぁぁぁぁッ!」
双剣が鎧を斬りつける度に火花が散る。
クラッドとアルベルト達もそろそろ片付きそうだ。
だがそれを待っている時間が惜しい。
【スキル 王の一撃を使用します】
「これで終わりだッ!」
黒天の刃を黄金に煌めく光が包み込む。
コイツが斬撃に耐性があるのは百も承知している。
王の一撃は50パーセントの防御無視がある。
いくら耐性がたかかろうと半分の防御力じゃ意味がないだろう。
黒天を振り下ろす。
この一撃の破壊力を察知したのか、それと同時に今まで最大火力の炎が噴射。
しかし煌めく斬撃はその炎もろともパイアンに襲いかかる。
ほんの一瞬だった。
炎を、パイアンを斬り裂き大地を破壊する。
城全体が揺れているように感じる程の威力。
破壊の限りを尽くした斬撃は、その威力を知らしめるように跡を残し光の粒子となって消えていった。
パイアンの身体には大きな傷が残るも両断までは行かなかった。馬鹿げた防御力だ。
そしてまだパイアンは死んでいない。
瀕死の状態ではあるが、震えながらもゆっくりと立ち上がる。
「おい、往生際が悪いぞ。さっさと寝てろ」
俺は影化で正面に移動すると、パイアンの兜の隙間に黒天と雷撃を滑り込ませ、左右に振り抜いた。
血飛沫などは出るはずもなく、代わりに乾いた音を響かせ兜が地面に転がった。
間違いなく赤騎士ユーグ・ド・パイアンは死んだ。
自虐スキルのせいでかなり消耗した。思ったよりも時間はかかってしまったが、受けたダメージは多くない。
「ケチらずにエリクサーでも使っとくか」
俺は小瓶に入ったエリクサーを飲み干すと、身体の疲れが吹っ飛んだのがわかるほどその効能を感じた。
クラッドは最後の鎧騎士を串刺しにし、アルベルトの方はウルの黒槍にて終局。
2人とも重症はおっていないが、それなりに消耗している。
リリアはすぐさま2人に回復をかけていた。
「クロードさんは……必要なさそうですね」
「ああ、エリクサーのおかげで何とかな」
この時点でHP,MP共に全回復したのは相当に大きい。
残るポーション類はそう多くないが、後は雑魚共と守護者を片付けて核を破壊するだけだ。
時間的にクリア出来るかどうかは五分と言ったところか。
水路から来ていなかったらここでタイムオーバーになっていたはず。
正攻法でのクリアはさせる気がない階層のようだ。
「全員、次が最後だ。ポーションもMPもケチんじゃねぇぞ」
「わかってるっすよ!」
「この調子ならなんとかクリア出来そうだな兄貴!」
「ワシの魔法で核も敵も一掃するのじゃ!」
各々がポーションを飲みきると、俺達は4階へと続く階段へ急いだ。
登る事に敵のレベルも上がっている。
油断は論外だが、時間がない。
多少強引にでも進んでいく必要がある。
階段を上ると、既に敵の軍勢は廊下にびっしりと待ち構えている。
そしてその1番奥には守護者らしき一際大きいモンスター。
「ぶっ殺してやるから待ってろよ」




