81話 赤騎士ユーグ・ド・パイアン
【残り時間30分】
ウィンドウが残り時間を告知する。
残りが30分を切ったというのに、俺達はまだ2階の途中にいる。
欲を言えば、この時間で3階には到達していたかった。
だが思った以上に2階は、雑魚モンスターの数が多い。
そしてそのどれもがドラゴニュートと同等か、少し劣る位の実力をもっている。あんなのがワラワラ出てきてしまっては進むに進めないのは当然。
モンスターからの攻撃とフィールドダメージが重なり、ポーションも使い始めている。
そして、通路の先には3階へと続く階段。
だがそこまでビッシリとモンスターで埋め尽くされている。
通路は横幅5メートル程で、ウルの魔法に頼るには狭すぎるし、階段まで破壊されたら元も子もない。
――これ以上遅れると致命的だな。出し惜しみしてる場合じゃねぇか。
「クラッド、アルベルト撃ち漏らした奴を頼むぞ」
「任せてくれ兄貴!」
【エクストラスキル 原罪の王Lv8を使用します】
【ステータスがアップしました】
蒼のオーラを身にまとい、他のメンバーをさしおいて敵群に突っ込んだ。
目の前のドラゴニュートは俺の速度に反応すら出来ていない。
ゼロコンマ1秒後には黒天で首を刎ねる。
血飛沫が舞い、そこで初めて他のモンスターも俺の姿を捉えられた。
黄金のゴーレムの迫る拳を叩き割り、顔面を蹴りつける。
防御力に特化したモンスターだが、打撃は有効。
ステータスが大幅に上がった俺の攻撃により、一撃で粉砕される。
続くゴブリンキングのハルバートの斬撃を躱し、雷桜を振り抜き腕を切断し、雷撃での広範囲攻撃。
数体が焼け焦げその場に倒れる。
階段までは10メートル程。
敵の数は50入るだろう。
数体撃ち漏らし俺を通過するが、後ろにはクラッドもアルベルトもいる。心配している暇はない。
「くそ、キリがねぇな」
ドラゴニュートの放つ炎弾を黒天で斬り裂く。
双剣を四方に振り回し、敵を殺し少しづつ階段への距離を縮める。
――燃費は悪いが、使うなら今だ。
【エクストラスキル 威神力Lv1を使用します】
次の瞬間、群がっていた敵の郡勢が一斉に後方に吹っ飛んだ。
威神力は俺が71階層に侵入する前に手に入れたスキルだ。
100ポイント全てを使ってしまったが、それでエクストラスキルが手に入るのなら安いものだ。
それにこの力はかなり万能でレベルが1の状態でも、十分に強力だ。
1回ごとにMPを20も使用するが、強力な念力のようなもので物を動かす事も、今のように敵を動かすことも出来る。
1体1でもこのような郡勢が相手でも、どちらでもかなり使えるスキルだ。
連発するとすぐにMPが枯渇してしまうので、あまり無駄には使えない。
俺は吹っ飛んで崩れた郡勢に向け、駆け出した。
双剣を振るい、無差別に切り刻んでいく。
最早相手が誰なのかも分からないほど、速度を上げる。
視界は赤1色。他の色は必要ない。
悪鬼の刀が俺の肩を斬り裂いた。
鋭い痛みと共に熱にも似た感覚が襲う。
「――ッ! 邪魔だッ!」
黒天で両断し、更に雷撃を浴びせる。
襲い来る刃を躱し、ひたすら両の腕を振るい前進する。
数秒なのか数分なのかわからない。
俺はようやく立ちはだかる全ての敵を皆殺しにして、3階へと続く階段の前に立つことができた。
振り返るとクラッド達も撃ち漏らした敵を殺し、こちらへと向かってきている。
残り時間はわからないが、原罪の効果が切れた事から2分は確実に経過している。
すぐにでも登らないと、核にたどりつけても守護者に阻まれて、破壊する時間がなくなる。
「予想以上に時間をくった。急ぐぞ」
ポーションを2本飲み、瓶を捨てる。
他の奴らもそれなりに消耗しているのか、同じようにポーションを飲んだ。
「はい、行きましょう」
階段を上り、直線の通路を進むと巨大な扉が見えてきた。
勿論、ボス部屋という訳ではない。
俺はその扉を蹴破ると、中は大広間のようになっていて奥の方に最上階へと続く階段が見える。
しかし、当然のように敵は立ちはだかる。
赤い鎧騎士が数十体と――。
「兄貴、あれって……」
「ああ、残念な事にフィールドボス様の登場だ」
「ついてないっすねぇ……」
俺達と同サイズの鎧騎士とは別に、1体一回り大きい鎧騎士がいる。
白銀をベースに真紅の装飾が施され、胸には見覚えのある赤い十字。
――赤騎士ユーグ・ド・パイアン。厄介な野郎が来やがったな。
白騎士ジャック・ド・モレーと同様に騎士系の最上位モンスター。
ただ、あの時のジャックに比べると数段強い。
ジャックと違い馬に乗っている事はないが、2メートルを超える体躯に、その身の丈程もある長剣を背負っている。
コイツの面倒な所は近接戦闘の強さも勿論だが、時間をかけると次々に騎士団を呼び寄せる。
ただの騎士団ならまだ対処の仕様はあるが……。
確か3回目に呼ぶ時には黒騎士が来るはずだ。
そして、黒騎士の強さはパイアンと同等。
そうなれば攻略は絶望的。
――71階層ではフィールドボスとの遭遇率は決して高くないはずだが……。
「どうやら俺達はダンジョンに嫌われているらしいな」
「クロードさん、援護します!」
「ウルちゃん、俺とアルベルトの雑魚狩り手伝って欲しいっす!」
俺が指示しなくても思考は伝わっているのか、思った通りに動いてくれる。
「任せるのじゃ! 雑兵なんぞワシにかかれば一瞬じゃ!」
「全員、迅速に敵を排除しろ。ここが終われば核はすぐそこだ」
「兄貴より早く片付けて援護するぜ!」
アルベルトとクラッドは周りの鎧騎士へと駆け出し、ウルは開幕一発目に巨大な魔法陣を展開している。
――俺もはなから全力でいく。様子見してる時間はねぇ。
【エクストラスキル 原罪の王Lv8を使用します】
【ステータスがアップしました】
それとほぼ同じタイミングで、パイアンは長剣を抜き天に掲げ、雄叫びをあげる。
すると、パイアン含む騎士団全員が赤色のオーラを身にまとい始めた。
あれは号令系の全体バフ。補正率は単体に比べると高くはないが、味方全体にバフをかけられる点はかなり優秀なスキルだ。
「――全面戦争と行こうじゃねぇか」




